023-葛城省吾/いつか帰る場所
葛城省吾
結局、VRoadwayのシステム復旧は、翌日の今日になっても終わらなかった。運営からtwitwiやホームページ経由でアナウンスがあり、予選結果については、今日中にメッセージが届くという形になった。
ネットニュースによると、サーバーが落ちた原因は、やはりアクセス過多だったらしい。予選参加者はもちろん、VRoadway用のエリアにいた他のユーザーにも、接続障害といった影響が出たようだ。
VRoadway運営には問い合わせが殺到、今朝にはSNSやネットニュースに限らず、テレビでも報道されていた。こんな騒ぎに発展するほど、VRoadwayへの期待度と注目度は高い。俺は立った舞台の大きさを改めて感じた。
予選の結果発表と共に、今日は唯の手術日だ。仕事も早めに切り上げさせてもらい、俺は病院の待合室に来ていた。唯は今まさに手術中とのことだった。
俺は、祈るように手を合わせながら、スマホの画面をじっと見ていた。
もうすぐ、メッセージが来るはずだ。運営の案内では、15時から一斉に結果を送信される。あと数分。
泣いても笑っても、やれることはやった。どうやら、すどーPは裏で広報活動もしてくれていたらしい。俺だけではなく、彼の努力も背負っている。ここで終わる訳にはいかない。
その時、スマホのバイブレーションが作動した。思わず、背筋がピンとなってしまう。
おそらく、結果の通知だ。心臓の鼓動が速くなる。
唯は今、手術室で頑張っている。その唯の頑張りに、俺も応えなければならない。どうか良い結果を――
俺は覚悟を決め、スマホに手を伸ばした。
メッセージアプリには、新着メッセージ1件の表示がある。アプリを起動すると、最上部に【VRoadway予選結果】というタイトルが見えた。
震える指で、そのタイトルをタップした。
画面いっぱいにメールの文面が表示される。その文頭に、一際目立つように太文字で強調された文章があった。それを恐る恐る読む。
【予選の結果、藤多柚衣様は1stステージへの進出が決定しました】
「進、出……」
声にならない息が口から漏れ、それまでの緊張が一気に解けた反動で、その場にへなへなと崩れ落ちてしまう。
藤多柚衣が予選突破をした。まずは、スタートラインに立てたのだ。
俺はすぐにこの旨を、今頃肝を冷やしているであろうすどーPへと送信した。
その後で、俺は大きく息を吐いた。
「ユイ。俺、お前の夢をなんとか繋ぎとめられたぞ」
妹の夢は、世界の人々を笑顔にすること。その大きな夢の達成にとって、俺が藤多柚衣としてできた事はほんの少しなのかもしれない。
「だから、早く元気になってくれよ」
それでも、俺の心は熱く、興奮に満ちていた。