019-藤多柚衣/わたしの外のあなた
藤多柚衣
「じゃあな」
それだけ言い残して、すどーPは去ってしまった。
鏡に映るのは、呆然と立ち尽くす藤多柚衣だけだ。
「すどーP……」
彼の名前を一人呟く。
彼の言う事は正しかった。一番の問題は、藤多柚衣として何をVRoadwayに懸けるかが見えていないこと。だからそこに、魅力が出てこない。
今、藤多柚衣がどうしてVRoadwayに参加したかは分からない。でも仕方なかったのだ。状況が状況だったし、それを考える余裕もなかった。
藤多柚衣ではなく、藤多柚衣に扮する自分自身がVRoadwayに挑戦する理由なら決まっている。でもそれは誰にも言う事は出来ない。それを言ってしまえば、それこそVRoadwayの夢は絶たれるように思える。
こんな状態では確かに、VRoadwayに参加すること自体が間違っているだろう。VRoadwayの予選突破を本気で目指している人は皆、VRoadwayを通して叶えたい夢があるはずだ。そんな人たちにとって、今の藤多柚衣は邪魔で、失礼な奴に他ならない。
「ユイはどうしてVRoadwayを目指したんだろう?」
鏡の中の藤多柚衣にぽつりと訊ねてみた。
ユイがVRoadwayを目指すきっかけなんて、今まで考えた事がなかった。ユイはこの仮想世界で何がしたかったんだろう。
今の自分に、その答えはない。だけど、このままじゃ夢が潰えることは確かだ。
「夢、か」
その言葉を声に出すと、どうにも嘘らしく聞こえた。VRoadwayの予選を突破する事、優勝する事が果たしてユイの夢なのだろうか。何か違う気がする。
今分かる事はこのままではいけないという事。まだ、終われない。
すどーPの思いに応えるためには、VRoadwayの舞台に立つためには、藤多柚衣に込められた夢を見出さなければならない。
となれば、現実に戻るべきだろう。藤多柚衣のルーツはきっとあちらにあるはずだ。