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逃走生活の始まり

「おい ベラジャ ヴィロの首を刈ったのお前だろ?」

「はて なんのことですかな ヴィロはここの村人にやられたのですよ」

「しらばっくれやがって こんな村の村長ごときにあの牛野郎が負けるわけないだろうが」

「油断は禁物ですよ バリム いくらあなたがオークだからと言って人間に負けない訳じゃありません 魔王様が現れる前まで我々は人間と互角でしたからね」

「デヴォルカス海域があったからだろ 海が奴らに味方してたんだ 陸上では負けねえよ」

「その言い方だと半魚人達をバカにしていることになりますが...」

「むっ 今の発言は撤回しよう 忘れてくれ」

「よろしい」

「それよりもベラジャよ カッキの奴をまた人間側に忍び込ませたのか?」

「ええ カッキは上手くやってくれてましたからね 今回も期待しています」

「厳しいね 折角長期任務が終わったというのにまた長い潜入任務を与えるとは」

「人狼ですよ 人狼 人間に近い亜人だからこそ成せる技です 人間の信頼を得るのは面倒なのでカッキが適任ですね やはり 使えるものは利用しなくては」

「使えなくなったらヴィロみたいに首を撥ねるのか?」

「またまたご冗談を」

「どっちが冗談を言っているのやら...」


崩壊した村を堂々と歩く二人の亜人。


一人はオークのバリム。もう一人は鎖で縛った村の人間を引きずっている死人案内人デッドハンターのベラジャである。


この村、リアット村は亜人に占拠されたのだった。















–––––––––リアット村より南西、リアット大森林。


暴れるイザベルを肩に担いだまま走ってきたアランと門で合流した俺とライアンは亜人達から逃げるため、村の南西に位置するリアット大森林の中へと入った。


リアット大森林。村の名前にもなってるこの大森林には多種多様なモンスターが生息している。危険な場所でもあるため普段なら入ることはないのだが、亜人の恐怖を感じてしまうと村にいるよりはマシだと思ってしまう。様々なモンスターがいるということはそれだけ食料も豊富。王都では高級食材として食べられるような貴重な果物や野菜、キノコ類、動物がここではわんさかいるので食料には困らないだろうが。


ゲルフも生息しているこの森では自分たちが食料になってしまう危険性もある。


今俺たちが目指しているのは王都に近いヴェモラ市。村での惨劇を伝えるため、そして新しい居住地を確保するために向かっている。リアット村は辺境の地、徴兵されないというメリットはあるが辺境の故にヴェモラ市までの道のりが果てしなく長い。この大森林を横切ればショートカットはできるのだが、それでも道のりはかなり険しい。


はあ...のんびり暮らしていた俺の日々が...。


「みんな もうそろそろ休もう ここまでくれば亜人達も来ないだろうし」


アランがここではペースメーカーだ。ハンターでもあるアランは森での行動に慣れているので即決だった。


「この辺で休むのか? なんか襲われそうな雰囲気ぷんぷんなんだが...」


ライアンも今日一日色々あって疲れているはずなのだが、休みと言われても緊張が解けず警戒してしまうようだ。森で寝ることに抵抗があるのは俺も同じだな。


「さすがにこの地べたで寝るのは危険だな... そこの大木の根っこの上にキャンプを作ろう 寝るときは交代で見張りをするぞ」


この森林の大木はもうデカイ。デカ過ぎた。前の人生でみた屋久杉なんか比にならない。ビルほどの大きさのある大木が至るところに生えており、その大木の根っこも市役所以上に太い。巨大な大木が生えているこの一帯はおそらく日光も地面まであまり届かないだろう。今はもう夜だからわからないが。


俺たちは協力しながら大木の根っこの壁をよじ登り、根っこの上に枝などをかき集め焚き火を作成し、各々根っこに寝そべって休憩を取ることにした。


最初の見張りはアランが引き受けてくれた。


俺が横になっていると、ライアンが寝そべったまま体を寄せてきた。


なかなか寝れないのだろうが、男に密着されても嬉しくないな...。


するとライアンが小声で俺に話したかけてきた。


「なあ マーク イザベル大丈夫かな? 多分だが親父さんのことで...」


アランに連れられて来てから、イザベルは黙ったままだった。そんなイザベルの様子を心配したのかもしれないが


「そうだろうな だけど自分だけ悲しんでいられないとわかったから黙ってるんだろ」

「そういうものなのかな...」

「お前はどうなんだ? お前だって...その」

「ああ 親父な 殺されたさ...」

「そうか...俺もだ」

「........なんかこんなにも身近でみんな死んでいくと一々悲しんでられなくっている自分がいる...最悪だな」

「わからなくもない...」


神妙な空気になったのを察したライアンが話題を変えた。


「ところでだが...お前には感謝してるぜマーク。 お前がいなきゃ死んでいたさ...」

「どうも あれは結構大変だったんだぜ ガーゴイルやミノタウロスに襲われたんだからな」

「マジか...ガーゴイルもいたのか...なんでこんな村に魔王軍の戦力がいるのかね」

「魔王軍の戦力なのか?」

「あんな亜人やモンスターがこの辺にいるわけないだろ ってことは魔王軍だろ」

「まあ そうか... わからんな だが、当分の間はヴェモラ市が目標だな」

「そうだな 早く普通の生活に戻りたい...」

「もし もし戻れたらお前は鍛治職人を続けるのか?」

「愚問だな やるに決まってるだろ! 一人前になったばかりなのに...やりたいことはいっぱい残ってるさ」

「やりたいことね...」

「マークは何にもないのか?」

「のんびりと暮らしたいかな」

「お前らしい」


ライアンの体温を体の側面で感じながら、徐々に意識が薄れていった。


今日の出来事で体がオーバーヒートをしていたせいか急速に眠気が襲ってくる。


重い瞼が閉じる最中、最後に見えた光景は俺とライアンから少し離れたところで横になりながら泣いていたイザベルの姿だった。


アランに任せよう。とりあえず俺は寝る。



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