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ガーゴイルの監視

「ピェーーーー!!」


バサバサと音を立て、空飛ぶ猫型モンスターのガーゴイルが鎮座していた大通りの像から勢いよく羽ばたいた。


狙いは俺が隠れている家。


『サウンドジェネレーター』から流れたアランの声を聞かれてしまったのだ。


「クソ アラン何をやってる! タイミング悪すぎだ 殺す気かよ!」


俺同様に現在亜人に追われていると言っていた恩人のアランに対して責めるべきではないとわかっていても上空から俺の位置を把握しようと隠れている家の庭付近をホバリングし始めたガーゴイルの姿を見てしまうとそんな悠長なことは言ってられない!


ガーゴイルは本来城を守る守り神的な存在のモンスターとして古くから亜人の国では親しまれてきた。つまり守ることを得意とする。


大通りを守っていたガーゴイルを簡単には出し抜けないということだ。


庭の茂みに身を隠し、俺はじっと時が過ぎるのを待つ。村にある建物の大部分は家であり、ほとんどが2階建てだ。一番高い建物でも役所の4階建てまで。故にこの村で上空を飛ぶガーゴイルから逃げるには障害物となる建物が少ない。上からでは丸見えなのである。


「<解除>」


茂みに身を隠したまま俺はそっとマジックアイテムの接続を解除した。高級なマジックアイテムになればなるほど発動者にしか解除できなくなるので、少し不安だったがなんとか解除はできたようだ。


早くどっか行けよ....。俺はいないぞ。


心の中で早くガーゴイルが元いた像の所へと帰ってくれと懇願しているのだが、上空でホバリングしている当のガーゴイルは中々帰ってくれない。


ゴボゴボゴボゴボっ


上空からうがいをしているような音が聞こえた。


水か?


音の発生源はどう考えてもガーゴイルからだった。なんの音だろう。口の中で液体に空気でも入れているのか?


俺はその音が気になったので恐る恐る首を回転させ、上空にいるガーゴイルの姿を茂みの中から観察した。すると、


ガーゴイルの口の中が青白く光り出していた。


あれは! 魔法だ....。


魔法は人間や亜人だけのものではない。この世界には魔法を使えるモンスターもいる。そして魔法に耐性があるモンスターもいる。魔法が使える世界だからこそ自然淘汰の果てに生き残った生物の特徴と言えるかもしれない。


確か城の守り神であるガーゴイルは、城が火災になっても消火する能力を持っていると聞いたことがある。


ではあれは水系の攻撃魔法か何か?


....これは不味くね?


次の瞬間ガーゴイルの口から大量の水が勢いよく噴射された。俺の数メートル横を白い線と化した水が地面を抉りながら土埃を巻き上げていく。庭の芝生は禿げ上がり、燃えていた家は一瞬で炎が消されたが、それと同時に水の勢いでボロボロになっていた家が一気に崩れ始めた。原型を辛うじて留めていた俺の周りで障害物の役目をしていた家々が次々とガーゴイルが無作為に放出した水の攻撃魔法で崩壊していく。


ものの数十秒の間で家が瓦礫と化した。


それで満足したのかホバリングしていたガーゴイルが元いた像へと戻って行った。


「やっと戻ったか....だけどこのままだと家が無くなったから丸見えだな...」


俺と大通りの間に隔たれていた家が瓦礫と化したことにより、このまま立ってしまうと姿がガーゴイルから丸見えの状態になってしまう。


しかし、ガーゴイルの監視を潜らないと目的のイザベルとライアンがいる役所まで到達できない。


「やはりここは『サウンドジェネレーター』に頼るしかないか」


今度はアランではなく、自分で『サウンドジェネレーター』を起動させる。そして俺は靴紐を引っ張り出し、庭の茂みの根っこの部分に靴紐の両端を結んだ。即席のゴムパチンコの完成だ。靴紐が若干弾力性があったのでそれに賭けるしかないが。


茂みにうつ伏せの状態で身を隠したまま『サウンドジェネレーター』をガーゴイルの背後まで飛ばす必要があるので今回はゴムパチンコを使うことにした。


『サウンドジェネレーター』を靴紐の部分にひっかけ、限界となるところまで引っ張る。そして、


『<摩擦軽減ディクリースフリクション> <加速増加インクリースアクセラレーション>』


摩擦を軽減させる魔法を『サウンドジェネレーター』にかけた。いくらゴムパチンコで『サウンドジェネレーター』を地面すれすれの高さで飛ばしたとしても地面はただの土であるので擦れると摩擦がかかりガーゴイルの背後までは飛ばすことができない。俺が使える<摩擦軽減ディクリースフリクション>は手に持てるほどのサイズの物であればかなりの割合の摩擦をカットできるのだ。


次は<加速増加インクリースアクセラレーション>。こちらも初速が0以上の加速をする手のひらサイズの物の加速度を上昇させることができる魔法だ。今回の俺の靴紐では速度が出ないだろうと判断したためである。


茂みに身を隠したまま、前方に広がる家の残骸の間からガーゴイルがいる像まで見える隙間に狙いを定め、思いっきり靴紐を離した。


すると、ビュンッと空気を切る音を鳴らしながら勢いよく『サウンドジェネレーター』が茂みを抜け、瓦礫の間を通り、大通りを横切ってガーゴイルが鎮座している像の背後まで飛んで行った。


『よし! 成功だ』


途中途中、瓦礫の残骸などにぶつかっていたのでちゃんと飛ぶか不安になったが、魔法をかけた効果かきちんと目的のところまで飛んで行ってくれた。


そして、接続されている『サウンドジェネレーター』に声を張りながら俺の声を流す。


『こちらこの村の人間だ! この声を聞こえる者は直ちにこの村から脱出しろ! 人を探すなら役所にいるかもしれないが、既に亜人の管理下であることを忘れないでくれ! では健闘を祈る!!』


何を言うか迷ったが、とりあえずまだ生きてる者宛の内容を話してみた。亜人の野郎の暴言を言ってやろうとも考えたが、こっちの方がメリットがあると判断したからだ。


俺の『サウンドジェネレーター』からの声を聞きつけたガーゴイルが再び像から羽ばたき、発生源を探し始めた。


今がチャンスだ!


先ほどのようにガーゴイルが長い間ホバリングをしてくれると大通りを抜けるための時間を稼げるのだが、相手はモンスターだ。気まぐれで戻ってくる可能性も無くはない。


俺はガーゴイルが飛び立ったのを見計らい、茂みを飛び出し、中腰の姿勢のまま瓦礫を掻き分け、右左と巡回する亜人の姿がいないか確認した。


信号を渡る前の交通安全がここで役に立つとはな...。


幸い、亜人の姿が見られなかったので俺は大通りを全力疾走して駆け抜けた。中腰のままゆっくりと行こうかとも考えたが、大通りは障害物がない。思い切って走り抜けた方がリスクが低い。


大通りを抜け、なんとか反対側の住宅街まで見つからずにたどり着くことができた。


今まで何度も通っていたこの大通りがこんなにも渡るのが大変だったとは...。


「<解除>」


『サウンドジェネレーター』の接続を切り、再び中腰の姿勢のまま住宅街の路地へと侵入を試みる。ここの住宅街はミノタウロスがいたところよりも大きめな家が多く、農作物を保存しておく備蓄庫などもあるため比較的身を隠しやすい。


その所為もあってか役所の裏口まで亜人に遭遇することなく、容易に接近することができた。


一度役所の正面玄関の方を見てみたが、案の定既に亜人がいたのだ。


正面玄関に続く階段に腰をかけていたのは


死人案内人デッドハンター


最悪の亜人だ。こいつには一番遭遇したくない。普通の亜人は人間を敵として殺すが、こいつは別だ。人間を狩ることを楽しみとしている。


人型の姿であるが、見た目はもう死神だ。


背中に二本の鎌を背負い、右腕にはチェーンが巻きつけられ、腰にはどこかの兵士から奪ったのであろう剣が装着されている。黒いマントを羽織っているがわざと身につけている武器を見せつけているのではないかと思ってしまうほどだ。


そして死人案内人デッドハンターの一番の特徴がその顔だ。人間の頭蓋骨をまるでヘルメットのように被っており、頭蓋骨の目にあたる空洞からはカメレオンのようなボツボツとした眼球がギロリと覗かせている。


さきほど人狼とオークが残りの人間を役所に収容したと言っていたが、おそらくこの死人案内人デッドハンターが人間を捕まえたのかもしれない。人狼やオークでは人間を食べたいという欲求があるが、死人案内人デッドハンターは捕まえたり、ハントしたりする方に欲求があるからだ。


死人案内人デッドハンターがいない裏口に回り込むと、予想通り裏口には鍵がかけられていた。ここからの侵入はできない。


「まあ 逆に開いてたら開いてたで罠の可能性があるから怖いけどな」


死人案内人デッドハンターなら人間を相手にする為そのくらいの罠は仕掛けている可能性もあった。しかし、施錠されていたので無駄な心配をとりあえずはしなくて済んだことに一安心してしまう。


この市役所には今まで何度もお世話になっている。


特に親父が仕事を俺に紹介させようとして何度も連れられてきたな...。


今考えるといい思い出だ。


4階建ての市役所の屋上部分には天窓が付いている。都会のように明かりが少ないこの村では夜の星空が素晴らしい。そんな満点の星空を役所の中にいても見えるようにとイザベルの親父さんである村長が天窓を付けたのだ。


あそこからなら中に侵入できる。例え閉められていてもガラスなので、破壊すれば良い。


「問題は出るときか... そのときは裏口から出るしかないな...」


長い紐は持っていないので屋上からぶら下がることができない。故に内部に侵入したら出るときはドアや窓から逃げるしかないだろう。


1階から4階までは割と簡単に登ることができた。


役所の壁に取り付けられた雨樋を両手両足を使って登り棒のように登れば良いのだ。ただの登り棒よりも所々に出っ張りがあるので登りやすい。


屋上まで辿り着くと、監視はいなかった。さすがに屋上まで監視がいたら他の窓を割って入るしか無かったが、1階から3階までの窓には防犯用の枠が取り付けられているので破壊が困難なのだ。


「とりあえず今のところは順調...」


アランが今どこにいるのか気になるが、まずはこの役所内にいるイザベルとライアンの救出が先だ。


「さあ 行くぞ マーク!」


天窓の鍵まではかけられていなかったので俺はそのまま天窓を開け、役所内部へと侵入した。




評価ありがとうございます。


次回はいよいよイザベルとライアンが捕らわれた役所への救出編です。

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