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支配された村

村に戻ると、既に複数の亜人達が炎の魔法を次々と家に放っていた。


子供から老人まで家に籠っていた村人達は我先にと燃えた家から飛び出し、目的を持たずにただ迫り来る亜人達から離れるため走り回っている。


「逃げろーー!!」

「亜人が出たぞーー!!」

「魔法を使え!」

「無理だ 俺らでは敵わん!」

「子供は先に逃がせ 老人は囮にしろ!」

「外道が!」

「助けてくれえええ」


酒場はどうした!?


走り回る人混みを掻き分け、俺は酒場の方へと向かった。ところどころに倒れている者がいたが無視だ。


酒場は燃えていた。ただでさえ引火しやすいアルコールが多く置かれているのだ。この状況では当然かもしれない。


「クソ あいつらどこへ行きやがった!?」


酒場の前まできたが、牧場以上に火の威力は強烈で入れる隙がない。


さすがに逃げたかな...。


一瞬の迷いも今では命取りになる。今はもう信じてここから逃げるしかない!


「<火球ファイヤーボール>」


俺の右頬を熱い塊が通過し、近くにあった井戸が爆発をした。


「人間よ 死ぬがよい」


ドスンドスンと背後から迫り来る亜人の足音が聞こえた。この不気味な低音は今、炎の塊を放った亜人だろう。


「あ.....」


足が震えて思うように走ることができない。背後にいるはずの亜人の存在をどうしても見たくなってしまう。今はそんな暇がないことくらいは判っているのに!


瓦礫の山に身を隠し、震えた足を叩いてなんとか震えを抑えようとしたが、効果がない。完全に恐怖で体が無意識に暴走し始めていた。瓦礫の隙間から近くで村人を捕まえた亜人の姿を恐る恐る確認する。


牧場にいた人狼とは違い、明らかな巨体。


牛の頭を持ち人間の形をした巨人。ミノタウロスだ。


人間の胴体よりも太い巨腕でミノタウロスは一人の老人を掴み上げた。


「や...やめて...くれええ」

「潰し甲斐がないな死にかけの人間」

「あああああああ!!!」


グチャ、バキッ....グチャグチャ。雑巾を絞るようにミノタウロスが老人を片腕で粉砕していく。人間の体を守るための骨があんなにも無残に破壊されるとは。

雑巾の絞り汁が茶色の土を赤色に染め上げた。


な....なんて...ことを!?


あの老人は昼間よく散歩していたジキさんだ....。あまり関わりはなかったがそれでも見知った人が亜人の手の中で潰されていくのは気分が悪い。


親父に比べれば...どうと言うことでも...ない。


「ふん! 仲間が殺されていると言うのに人間は助けないのか? 冷徹な生き物だな?」


!?


瓦礫の隙間から様子を伺っていた俺とミノタウロスの目が...完全に合った。


体の動きが止まる。


手に持った死体を放り投げ、ミノタウロスはゆっくりと俺の方へと侵攻を開始した。


嘘....だ。


このままでは不味い! 確実に殺される!!


走る。ただ走る!後ろを振り返らずに。


瓦礫を掻き分け、燃え盛る家と家の間の路地を何度も曲がり、迫り来るミノタウロスの視界からなんとか逃れようとしたが、


「つまらんな」


後ろから追っていたはずのミノタウロスの声が右側の家の壁の奥から聞こえた。


ドカーーン!!


その瞬間、煉瓦造りの家の壁が内側から破壊され、風圧とレンガの破片が俺の右半分の体に直撃した。


「グホッ!」


横方向に飛ばされた俺の体は反対側の家の壁に激突し、為すすべもなく地面へと倒れていく。背中には壁に当たった衝撃が走り、わき腹はレンガの破片の直撃により絶えずジンジンと痛みが居座っていた。


破壊されたレンガの壁の内側からズシンズシンと音を立てて歩いてくるミノタウロスの姿がメラメラと揺れる炎の中から現れた。


老人を殺したときは手ぶらだったミノタウロスの片手には木の残骸が握られていた。よく見ると白い布や鉄の破片がくっ付いている。おそらくだがあれは荷車かもしれない。ミノタウロスは荷車を放り投げて壁を破壊したのだ!


やばい!


人狼と遭遇した際は上から覗いただけだったが、今はミノタウロスが俺のすぐ先で俺を殺そうと歩いてきている。死が来たと感じた。


地面に倒れながらも右腕を使い、立ち上がろうと試みるが力をいれると腕が悲鳴をあげる。


「早いぞ くたばるのが もっと走り回らんか!」


ミノタウロスはまるで虫を殺すかのごとく退屈そうに握った残骸を振り回し始めた。


このままでは確実に死ぬ。この距離まで詰められばもう逃げることは不可能だ。何か時間稼ぎできる魔法はなかったか!?


二度目の人生、魔法を使えるということに興奮した俺は自己流に色々と魔法を利用して楽しんでいた。イザベルに魔法のバリエーションが豊富だと言われたのも間違いではない。しかし、俺は攻撃魔法を知らない。王都で兵隊になる道を選べば学べたかもしれないが日常生活で人にダメージを与える魔法など覚えても仕方ないと思い一切学んでいなかった。魔法は暇潰しに過ぎなかった。こんな目になるのと判っていたら何重にも対策をしたのに!!


親父に逃げろと言われたばかりなのに俺はここで死ぬのか!?


それは親不孝過ぎる。なんかないか....


!!


そう言えば昔、ハンターになるアランに攻撃魔法に似た魔法を昼休みの空き時間に教わった! 焼き石に水程度のものだがやらずに死ぬよりはマシだ!!


「<粉塵>! <簡易槍>!!」


俺は数メートル先に迫ったミノタウロスに向かって二つの魔法を放った。<粉塵>によりミノタウロスの頭部に粉を撒き散らし、視界を奪ったところで目に狙いを定め、即席で作った細長い槍を突き刺す。


これで視力を失われたミノタウロスは追跡不可能となる


はずだった。


撒き散らした粉はミノタウロスが口から吹いた息によって霧散し、飛んできた槍は片手に握っていた木の残骸によって呆気なく防がれてしまった。


「なっ!?...そんな」

「この程度かね?」


退屈そうにしていたミノタウロスの顔に不気味な笑みが表れた。


精々楽しませることができた程度だったか....。


「すまん...親父....俺も早すぎたわ」


謝ることしかできねえ。無理だ。こんなもん無理だ。


どうやら覚悟して二度目の死を受け止めるしかないようだ。俺は一度死を経験している。他の連中よりは慣れている。案外...重く...な...いぞ?











やっぱ死にたくない!








戦えないなら逃げて逃げて逃げまくれええ!!


「マーク! そんなんじゃ甘いぞ!」


この声は!?


「アラン!! どこだ!? ここに来るなあ!! ミノタウロスがいるぞ!」

「新たな人間か 一緒に消してやろう 姿を現すことを推奨する」

「はっ 人間はずる賢いんだよ だから俺よりも強いお前のような存在に勝てるってもんさ!」

「ならば、お前はアホだな人間よ。黙って殺しに来れば良いものを 居場所がバレバレだ」


ああ....何をしているアラン。お前が声を出した所為でミノタウロスに居場所がバレたぞ!


「<火球ファイヤーボール>」


ミノタウロスがアランの声が聞こえた方にあった路地裏のゴミ捨て場に向かって炎の塊を放った。


一直線にゴミ捨て場へと向かった火の塊は衝突すると爆発し、ゴミ捨て場にあった大量の生ゴミや木くずの破片が炎を纏いながら辺り一帯に飛び散る。


「ん? 肉が焼かれてないな...」


ミノタウロスは不思議そうに燃えた破片を観察していると、


俺が倒れていた背後の家の屋上から一本の白い線が放射状に飛び出し、ミノタウロスの頭に落ちた。


そして、ドンッという小さな爆発音ともに大量の粉が舞う。


「そこにいたか! 面白い だが粉など効くわけがなかろう」


粉を払いのけようとミノタウロスが息を吸い込み一気に吹き飛ばした。


俺と同じではないか...見てなかったのか? 


まああの方法はアランから教わったからな...仕方ないか。


希望は消えた。


そう思った瞬間、


「ぬわああああ!!!」


ミノタウロスが叫んだ。そして上半身が燃えていた。


どうなっている!? 


「マーク!」


燃える家の屋上から飛び降りてきたアランが、倒れていた俺の腕を掴み上げ立たせてくれた。


「アラン! 生きていたか!」

「マーク! それよりも早くここから逃げるぞ あの炎ももうじき効果が消える!」


上半身が火だるまに包まれたミノタウロスは手当たり次第に近くの壁を破壊しながら転がりまわっていた最中だった。しかし、激しく動くことで徐々に炎の威力が弱まっている。


「ああ 行こう!」

「役所に逃げるぞ」

「アラン この村はもうダメだ 一刻も早く村から脱出しないと!」

「ダメだああ! 役所にイザベルとライアンがいるんだ」

「....わかった 亜人の数は多くない 隠れながら向かおう」


すっかり日も暮れ、辺りは闇が支配するはずの時刻。しかし、至るところで燃え広がる家々の炎により村には灯りがあった。


燃える家の路地裏を俺はアランと一緒に役所へと向かった。


道端に倒れている焼死体の上をまたぎながら進んで切ると、大通りを練り歩く亜人の姿を確認した。


「やはり障害物がないところには既に亜人がいるか...迂回して役所に向かうしかないな...」

「そうだな...図体のデカい亜人は細い裏路地にはあまりいなかったしな」

「それにしてもさっきのミノタウロスは破壊しながら裏路地にいたじゃないか...マークの反撃を見て試せたから今回は良かったが、毎回何度も戦える訳ではないからな...<粉塵>使っただろ?」

「ああ...効果なかったがな...お前のはどうなってたんだ?燃えてたけど」

「<粉塵>に似てるよ ただ引火しやすいオキシンの粉を使っただけだ 憶えておけよ」

「なるほど さすがハンターだな」

「おい 行くぞ 2ブロック後方からさっきのミノタウロスが来てる!」


後ろを振り向くと確かにミノタウロスの姿があった。ハンターのアランの視力が無ければすぐに気づけなかっただろう。二度も命を救われた。


ついさっきの恐怖が蘇り、早く距離を取るべく俺はアランと共に大通りを避け裏路地を迂回することにした。


不幸中の幸いか裏路地に亜人の姿は無かった。複数の亜人の姿を村の中で確認したが数はさほど多くない。村全体を網羅するほどの人数で無くて良かった。だが、


生きている村人の姿が全く見えない。死体ばかりだ...。


「待て!」


俺が裏路地の角を曲がり、大通りに出ようと足を一歩出した瞬間、アランが俺の肩を掴んだ。何事かと思いゆっくりと角からギリギリのラインで覗いてみると。


大通りに建てられていた像の上にモンスターの姿があった。


猫のような顔にライオンのようながっちりとした胴体に翼が生えている。


ガーゴイルだ。


空を飛ぶネコ科に似たモンスター、ガーゴイルは獲物を見つけると空から攻撃を仕掛けてくる。飛ぶことができない人間にとって攻撃可能範囲の外から迫るガーゴイルは非常に厄介な敵なのだ。


その厄介なガーゴイルが像の上から大通りを監視していた。もしアランの制止が無ければそのままガーゴイルに見つかり、ハントされていたところだ。


亜人以外にも危険なモンスターまでこの村を襲いに来ているとは...。


どうなっているんだ? こんな辺境な村など襲っても得られるものはないというのに。


「アラン このままじゃ役所まで到達できないぞ!」

「落ち着け、まださっき使ったマジックアイテムが残ってる」


一度俺たちは角から下がり、瓦礫の中に身を隠すとアランが何やら懐から円盤上の金属の塊を取り出した。


「『サウンドジェネレーター』。これを発動させると自分の声がこのマジックアイテムから流れる。ミノタウロスの時に使ったやつだ。今回もこれであのガーゴイルの監視を潜り抜けるぞ!」


ミノタウロスはこれに騙されアランの居場所を間違ったのか! ならば今回も同様にして注意を引けるだろう。


「だが、これは残り5つしかない。さっきもそうだったが中々後で回収に行くのは難しいからな 一度使ったらそれまでと思った方がいい。2つやる」

「ありがとう」

「全員が助かってから言ってくれ」

「ああ だがミノタウロスのときの分もだ」


俺はアランから『サウンドジェネレーター』を2つ貰い、ポケットにしまった。ガーゴイルはアランが注意を引くことになったからだ。


初心者が間違った使用法をする危険もあるしな当然の判断だ。できれば俺も非常時以外は使いたくない。この2つのマジックアイテムが今後俺の命を救うかもしれないしな。


ガーゴイルの注意を引く手筈はこうだ。


まずアランが『サウンドジェネレーター』を発動させる。そしてそれを受け取った俺が家の陰に隠れながらガーゴイルになるべく近くまでいけるところまで行き、ガーゴイルの後ろに投げつける。その後アランの所まで戻ったらアランが声を流しガーゴイルが音のする方へと顔を向けたらその間に大通りを横断し役所まで向かうことになっている。


「よし! やるぞ!」

「おお!」

「発動!<接続音声コネクトボイス>」

『あ..あああ...大丈夫だ正常に繋がった』


アランの声がマジックアイテムと繫がり、金属製の円盤からアランの声が聞こえてきた。音質は悪く、多少ノイズが入っていたがこれくらいなら平気だろう。


『マーク。あまり俺から遠くに投げるなよ 遠すぎると声が届かなくなる』

「了解した」


トランシーバーと似ているな。


接続された『サウンドジェネレーター』を受け取り、俺はなるべくガーゴイルに接近できる距離まで進むべく、家の庭から庭へと建物の影に身を潜めながら向かうことにした。


役所近くの家はあまり燃えていないな...。


亜人達も一軒一軒燃やす気はないようだ。面倒くさかったのかな?


大通りの像が見える位置まで到達すると、俺と家を挟んだ反対側の通りに二体の亜人の姿が見えた。


マジかよ...不味いな...。


大通りを練り歩いている亜人のようだ。はっきりとは姿が見えないが庭の茂みに身を隠し、隙間から観察しているとあの二体は人狼とオークのようだ。


オーク。緑色の肌をした巨体で。豚のような鼻と口に生えた鋭い牙が特徴的であり、特にヘビー級の武器を扱うのが得意だ。


歩く装甲車と言ったほうが適切かもしれない。


そんなオークと人狼はこの殺戮が行われている村で呑気にお話をしているようだ。ここにいても声が丸聞こえである。


「ジェン。この村、人間少なくねえか? どうなってる」

「何人かは殺したが残りはあのデカい建物に収容してんだよ 一気に殺したら意味ないだろうが」

「なるほどな...頭いいじゃねえか!」

「お前がバカなんだよ 豚が!」

「狼だからって俺に勝てると思うなよジェン」

「下等生物と形が似てるからって同じように扱わないでもらいたいね」

「おお!その辺は弁えているみてえだな これからのハント一緒に楽しもうぜ」

「ふん! まあそれもいいが あくまでもこれは虹色の道化師様のためだからな」

「そんなこと言ってお前の口、赤くなってるじゃねえか! もう食ったのかよ」

「いいじゃないか 二人くらい」

「そうだな 俺よりは少ないから許してやろう」

「残りは収容してるので我慢だ 魔王様が用意してる収容所にも連れて行く分まで食べるなよ?」

「お....? おお」

「豚が!!」

「うるせえ さあまだ生き残ってる人間がいないか見回りに行くぞジェン。案内頼んだ」

「いい加減覚えろよ道を」

「いいじゃねえか お前は人間の姿でずっとこの村に潜伏していたから判るのかも知れねえけどよ 俺は今日初めてきたんだオークにでもわかるように頼むぜ」

「まあ オークの頼みだ 丁寧に案内してやろう... だがなおそらくヴィロが全部狩ったと思うぞ?」

「ああ...あの牛野郎か 今度対決でもしてみるか」

「行くぞ」


重い腰を上げた二体の亜人が見回りのため俺の目の前から去って行った。


ふー。もう少し長居されていたら危なかった。


「役所にまだ生きてる人間がいるのか...ただ収容とはな...よし!」


亜人達の会話には重要な情報があったが、今は生きてアラン達とこの村から脱出をする方が先だ。


俺は握りしめた『サウンドジェネレーター』をガーゴイル目掛けて投げるべく、狙いを定めた。


すると、


『クソ! マークすまん こっちに亜人が出てきた! 俺は別通路に迂回する!』


投げようとした『サウンドジェネレーター』からまさかのアランの声が流れてきた。


不味い!アラン何をしている! 今音を出されては困る!


大通りを見るとガーゴイルが翼を動かし、俺が隠れている家の方を見ていた。


....バレたか?




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