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急いで事務所に戻りお客のいないソファーに座ると事務員が優しくお茶を運んできてくれた。
「事務長、さっき連絡した通り今夜は上手くいきました」
「お仕事お疲れ様。見習君、ケガなどないわね」
「大丈夫です。ありがとうございます」とポケットから魔獣から出て来た宝石をテーブルの上にのせた。
事務員がうっとりと見とれると事務長も仕事を休めて、宝石を手に取り見入っていたので、これはやったと思った。
「あら、きれい。これはいい宝石ね」
「さすがに相手が大物の魔獣だと宝石も大きい。これは高額だな」
「そうでしょ、そうでしょ。今夜の仕事は大変だったんですよ。
じゃ、これで借金は全額返済できますか?」と、ついつい喜んで尋ねたが
「全然無理だな、全額返済するならこれを、ん~あと数十個かな」
無慈悲な事務長の答えに焦げた袖を見せて手をすりすりして懇願したが、相変わらず表情は硬かったが
「数十個って、えっ、ちょっと待って下さいよ。これを得るのにはお腹も減るし、ビルの壁や窓を壊さないようにって大変だったんですよ。
それに服も焦げてしまって、もう学校に着て行けないんですよ。
もう少し借金を負けてくれませんか?」
「無理無理、今日の報酬は借金の返済に全て充てて少しでも借金を減らそう。
そうだな、俺からのご褒美として今日はこれで晩飯でも腹いっぱい食べて部屋に戻って寝な」と五千円札1枚を俺に渡し事務長はまた電卓を叩き出した。
「無駄使いしちゃ駄目よ。それじゃまた明日。では、本日の返済、ありがとうございました」と、にこやかに事務員に見送られて俺は肩を落として渋々晩飯を食べに事務所を出ていった。
いつもの駅前の定食屋でご飯の大盛りを食べながら、今日の晩飯も焼き魚定食か、腹一杯肉が食べたいな。でも、弁当よりましか。
それにしても、もう数ヶ月昼も夜も働いて借金を返済しているのに、完済まであの大きい宝石があと数十個とは、俺の借金はいくら残っているのだろうか?
それとも事務長に騙されているのかな。
でも、紹介してもらったマンションの部屋代は全て込み込みで凄く安かったので、俺を騙してもなさそうだな。
それに、1週間ぐらいなら今日貰った五千円の残りでどうにかなりそうだと気持ちを切り替えてマンションの部屋に戻った。