1-2-4
1-2-4
男は腕組をしたまま、まだ何かを考えているにも拘らず、その素早い攻撃もまた難なく避けた。
「流石に素手じゃ無理だとは思っていたんだが、もしかして倒せるならラッキーかなと思った俺が甘かったかな。
それに、残念な事に俺は勇者様じゃないので、自前のすーっごい聖剣は持ち合わせていないんだ。
本当は使いたくないけど、ちょっとエグイがこんな物なら持ち合わせているぜ」と今度は腕組をしていた右手を左胸に当て呪文を唱え始めると空一面に黒い雲が掛かりだした。
「な、なんだこの気味の悪い雲は、もしかして落ち毀れ魔法使いが爆裂魔法でも使う気か」と顔を引きつて空を見上げたが黒雲の空からは何も落ちてこなかった。
「おい、何も落ちてこないぞ。爆裂魔法はどうした、今日はお休みか。
ウハハ、ウハハ。ほらみろ、失敗だ、やはりお前は落ち毀れだ」
しかし、男は呪文を唱え終わると気合の入った顔で
「出てこい邪剣」と叫び、苦しそうな顔つきで右手をぐさっと左胸から心臓に入れると轟音と共にドロドロと赤く血の付いた剣を引き抜いた。
その剣を一振りして血を払い除けるとビルの壁や窓に少し血痕がついたが、
そんな事は気にもせずに両手に持ち身構えるとその剣は月の光を浴びて青く輝きだし閃光を放った。
「バカな、人間が心臓から剣を抜くとは。お前は、もしかして悪魔なのか?
それとも、まさか・・。でも、何故だ、こんな奴がこちらの世界にいるのだ」
魔獣には男の本当の正体が分ったのか、驚愕してその場から逃げようとした。
しかし、男に張られた結界に行く手を阻まれ、結果から外に出られないでいた。
魔獣は結界をどうにかして破ろうと口から炎を次々と吐き、さらに手足で何度となく攻撃したが結界はビクともしなかった。
「残念でした。その結界はそう簡単には破れないぜ。それに俺は魔法使いでも、
ましてや悪魔でもない。まだまだ見習の身ですよ」と呆然として動けなくなった魔獣に飛び掛り素早く一撃で相手を頭から縦一文字に振り切り、さらに横一文字に切ると、厚い皮膚を物ともせずに大きな影は断末摩と共に四つに切れた。
不思議な事に直ぐに魔獣の四つの跡形は音も無く消え去って行ったが、後にはコロコロと大きな宝石が一つ残り月の光を受けて赤々と輝いていた。
相手を一撃で倒したが男はハッ、ハッと息を切らしながら相当疲れていた。
「おっ、これは大きいな宝石だ。今夜は昼間とは違い高額報酬だな。
まぁ、これだけ体力を消耗したのでそれも当然か」
その宝石を拾い上げてポケットに仕舞い込み、次に邪剣をどこかに消してしまうと戦ったばかりのビルの屋上を見回し、戦いで付いた壁のヒビを見つけた。
「確かこのヒビは初めからでしたよね。今の戦いじゃないですよね。
他には・・特に被害はないようですね。よかった、よかった。
また壁や窓でも壊していたら大変、減る筈の借金がまた増えて大変だ。
それにしても、あの剣を使うとこうも体力を消耗するのか、少し考えないとな。
でもまぁ、今日の所は上手く片付いたのでいいかな。
これで今夜の仕事は無事に終了っと。さぁ、事務所に戻って報酬そして晩飯だ。
今日は腹が空いたのでたらふく食うぞ」と喜びながらスマホを手にして夜の闇に消えて行った。