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男の挑発にのり魔獣は口から家一軒でも焼き払うくらいの炎を放ち襲いかかった。
「さっさとやられろだと。小生意気な人間め。
お前ごときならこの一撃で丸焦げだ。跡形もなく消えて無くなるぞ」
赤々と燃え盛る炎はゴォォーと轟音を立て男に向って飛んできたが、不意打ちをされたにも拘らず男は片手で難なくその炎を払い除けると、払われた炎は空高く舞い上がり赤々と燃え上がるとすーっと消えた。
夜空が一瞬明るくなったので歩く人々が足を止めて空を見上げたが、直ぐにまた何も無かったように歩き出した。
魔獣は男を完全に焼き尽くしたつもりだったのか、男の何事も無かったようにまだ立っている姿を見て一瞬で血の気が引いてしまうと驚愕した表情で尋ねた。
「バカな、魔界でも泣く子も黙る俺様の最強の一撃を片手の一振りで払い除けるとは、お前はいったい何者だ? どうして俺を追ってくるのだ?」
男は少し困ったように左手で右腕の火の粉をポンポンと払い除けながら
「あぁ、右手の袖が少し焦げちゃったな。
お前なぁ、この服は学校にも着て行くんだぞ。後で弁償しろよな。
それに、行き成り挨拶もなく炎の攻撃かよ。学校で教わらなかったか。
人に迷惑をかけちゃ駄目って。
ここが何もないビルの屋上だったから助かったけど、街の中じゃ大惨事になるところだった」と説教をすると手を組んで呪文を唱え始めた。
すると、二人を囲むように一面に厚くて硬い結界が張られた。
「やっと結界が張れたか、ちょこまかと逃げやがって、
追っかけるのも腹が減るんだぞ。やっとこれで被害を気にせずに力を出せるな」と男はニヤリとした。
攻撃を避けられた上に変な説教をされた魔獣は怒りが収まらず、口と鼻からメラメラと炎が漏れていたが口から大きく息を吸い込み、それを一気に吐き出した。
「バカにしやがって、そんな減らず口を利いて無事でいられるかな」と、さっきよりも大きな炎の玉をと連発して口から放ち、その炎はゴォォーと轟音を立てて次々と男に飛んできた。
「ハッ、ハッ」と今度は炎の玉を両手を使い一振り毎に払い除けるとその炎は次々と空へと舞い上がったが結界に当たると途端に全て消滅してしまった。
「無駄だ、無駄だ。あっ、しまった、今度は左手の袖まで焦げたじゃないか。
これじゃ学校に着て行けない、新品に変えないとな。
おい、お前、少し弁償代が高くなるぞ、ちゃんと払えよ」
自信を持って放った炎が次々と男に払い除けられ、それらが結界に当り次々と消滅していくと
「なんて男だ。それに強固な結界だ。するとお前は魔法使いか?
しかし、こちらの世界で魔法使いが魔獣の俺に勝てるとでも思っているのか。
さっきは不意を突かれて驚いてここまで逃げて来たが、たかが魔法使いごときに、呪文を唱える時間さえ与えなければこの俺が倒せるものか・・」
「おい、何ブツブツ言ってんだ、俺もこれから用事があるんだ」
男の言葉に更に怒った魔獣は全身のあらゆる穴から炎が漏れ出し、今度は爪の先が尖った指をした長い手で、魔獣の問いには答えずに薄笑いを浮かべている男に次々と攻撃してきた。