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部屋に戻ると意外にも姫はいなし、驚いた事に部屋や台所が掃除してある。こんな部屋を見るのは何ヶ月ぶりだろう。綺麗に片付いたテーブルの上には
「ニコニコローンに行きます。心配しないでね」と書置きがあった。
昨日、事務長に起きて見習がいなかったら来いとでも言われたのだろうか。ついでに姫に昼飯でも食べさせてくれれば大助かりだが。なんせ彼女は俺より大食いだから。決してお金が勿体無い訳じゃない。
姫が部屋にいないので、これで少し試験勉強ができるかなとは思ってみたが、結局は俺も昼飯を済ますと今夜の仕事の件で事務所に行かなくてはならなかった。
昼過ぎなのでまだ看板に明かりが付いていない事務所のドアを開けると
「いらっしゃいませ」と明るい姫の声がした。少し地味な服を着てバタバタと動いている。朝の感じとは違い少し大人っぽく見えたので少し驚いたが、よく見ると確か以前事務員さんが着ていた服だと気が付いた。
「姫、何してるんだよ」と尋ねると
「もちろん、お仕事よ」と意外な答えが帰って来た。
「暇なら手伝ってと頼んだんだよ。うちも人手が足りないし。本当に大助かりだ」と事務長が書類が積まれた机の陰から嬉しそうに答えたので
「大丈夫なんですか、姫で」と俺が心配すると
「以前と比べて事務所が明るくなったよ。それで驚いたんだよな。彼女って女子大生だってさ。おじさん何故か嬉しくなって、バイト代はずんじゃった」と強面の顔が少し崩れ出すと
「事務長、顔が・・」と事務員がいやそうに注意した。
「女子大生って、バカな事を言わないで下さいよ。まだ姫は俺と同じ年ですよ。それに少し呆けているし」
「それがな、最初は信じられなかったけど彼女は頭が良くて飛び級したんだと。それで今は王立大学の2年生だって。どこかの誰かさんとは大違いだ」
「そんな、頭が良いだなんて。たまたま家庭教師が優秀だったんですよ。それに大学の学長は国王のお父様だし、どうにでもなるんですよ」と彼女が恥ずかしそうに答えて隣の部屋に行くと、意外にも俺は姫のそんな事は知らなかった。
「本当ですか、姫が女子大生とか?」
「えっ、お前が俺に訊いてどうするんだ。それに彼女は理工学部の情報処理専攻でコンピューターが専門だって言うのでうちの事務処理システムを構築してもらおうかとね思ってるんだよ。まぁ、それまでは事務員の補助だけどね」
「なんですかそれ、俺にはチンプンカンプンで・・」
「まぁ、簡単に言えば少ない人材で多くの事務処理ができるように考えってくれるって事だよ。でもお前、工業高校だろう。そんな事も知らないのか?」
「すみませんね。脳みそが筋肉で来ているんですよ」と正直に話した。
「それより聞いたわよ。やるわね見習君。今朝、彼女に手を出した・・」と事務員が嬉しそうに話しだしたので
「あああ、何の事でしょ。ほら、電話が鳴っていませんか」と誤魔化そうとしたが
「仕方ないわよ、彼女は可愛いし、見習君も若くて元気なんだから。でも、朝一番はね、よく考えないと、女の子にも準備と言うものがね」と笑うと
「そうだぞ。勇ちゃん。心の準備が要るんだぞ」と隣の部屋から姫も同調した。
俺は隣の部屋にも聞こえているのか、うかうか変な話しもできないと注意した。
「まぁ、二人の秘め事は部屋に帰ってやってくれればいいんだが。お前も学校が始まって、もう直ぐ試験だと言うじゃないか。仕事はどうする? 試験が終わるまで暫く休むか?」
「前の試験で赤点が多かったので俺はその方が助かるんですが、それでいいですか? 利息の事もありますし」
「そんな事は気にするな。学生は学業が本分だろう。こちらはそれでもいいが、まぁ、急な仕事が入った時はお願いするけどな」と許してくれた。
「ありがとうございます。助かります」とお礼を言うと
「安心しろ、お前の分も彼女に確りと働いてもらうからな」と事務長は笑った。
バタバタと楽しそうに仕事を手伝う姫を見て俺も安心したが
「赤点ってなに?」と姫が尋ねるので
「優秀な人の点数さ」と誤魔化して試験勉強をするかと部屋に戻った。




