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あれから誰も俺を起さずにいた。授業の合間の休み時間でさえも起さずにいた。
と言うかこのクラスで俺に話しかけてくる奴はいなかった。
それもその筈、仕事で疲れている時に話しかけられるとイラッとした顔をするし、特に寝ている俺を起すと機嫌が悪くなり周りの者に当っていたからだった。
そんな事はすっかり忘れていた。
そんな寝ている俺の背中を誰かが叩いてきた。
「おーい、まだ寝ているつもり。今日の授業が終わったわよ。
そろそろ起きないと皆帰るわよ。このまま夕方まで寝ているつもりなの」
俺がやっと朝から目を覚ますと朝話した彼女だった。
「今日はいきなりHRから寝るとは、さすがに驚いたわ。
でもよく寝るわね、夜にでもバイト入れているの?」
「おっ。すまない。でも今日はよく寝たな。
もう授業が終わったなんて信じられない。もう昼飯の時間か?」
「信じられないのはこっちよ。先生から何度起こされても起きなかったんだから」
「嘘言え、俺は誰からも起されて無いぞ」
「えっ、全然覚えていないの。毎時間注意されて、先生に起されているわよ。
それでもあんた起きないのよ。それで皆から眠り鬼って呼ばれているのよ」
先生に起こされていた、それでも起きなかった事実を初めて聞かされて驚いた。
「なんだその眠り鬼って、人を化け物のように呼びやがって、こんな優しい俺を」
「誰が優しいのよ? 親切に起してあげると荒れるでしょ、だからでしょ。
それにあのマンションに住んでいるんでしょ、そんな名前が付いたんじゃない」
「どうしてあのマンションに住んでいるって知っているんだよ?」
「だってあのマンションは奇妙で有名だし、あんたも有名だからよ」
「なんだって俺って有名なのかよ?」
「良い意味じゃないわよ悪い意味で有名よ。授業時間は寝ているし、
特に全教科が追試って言うのが最低だけどね」
「ゲッ、全教科追試って、そんな事まで知っているのか?」
「当り前でしょ、追試を受ける人の名前が職員室に前に張り出されている事を
もしかして今まで知らなかったの?」
「そうなんだ、初めて知った。名前が張り出されていたのか。
この学校は個人情報がダダ漏れじゃないか」
「はーっ。あんたもう2年生よ。学校の事全然知らないのね」
「朝教室に来て、夕方帰るだけだからな。行くのは進路指導の部屋ぐらいだし。
職員室なんて呼ばれないと行かないしな」
「最低だわ。それに机の上はヨダレが・・汚いから朝にでも拭いて上げるわよ」
「ありがとう。でもいつも君は早く来て花の水替えとかしてるなんて偉いな」
「毎日じゃないけど、気晴らしよ。じゃまた明日ね」
「じゃ、色々教えくれてありがとうな。でぇ、君はなんて言う名前なの?」
「ゲッ、やっぱ最低だわこの男」
彼女とは中学の時に同じクラスになったと教えられたが俺は完全に忘れていた。
それで俺に声をかけてきてくれたのか。
今日の学校は午前中しかなかった。いつもなら学校帰りに事務所に仕事を貰いに行くのだが、それにしても事務長からの連絡がまったく無かった。




