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雑居ビルの屋上を次々と飛び跳ねて取引場所に急いで向かった。
早いもので元の世界に戻ってから数ヶ月が経ち、こんな借金返済に追われる生活に慣れ依頼される仕事も面白くなってきたが、お金にならない仕事ばかりが毎日毎日舞い込んで真面目に働いてもその借金は減らなかった。
ある事件であちらの世界で多額の借金を背負ってしまったが、そのお陰で異能の力を得たし、色んな人にも出会えたのだからプラマイゼロかと自分をどうにか納得させようとしたが、やはり大きなマイナスだった。それに少しずつ異能の力が落ちているし、体力の回復やケガの治りも遅くなっている。
1年間何もなければ異能の力が完全に無くなってしまい、そして呪縛から解き放たれ普通の人間に戻ると師匠に言われた。
もしも、あのままあちらの世界に残っていたなら完全に世界を滅ぼしていた。
そう考えるとこれで良かったのかもしれない。
でも、この力を失えば、借金を返す当てがなくなってしまう。その前になんとか完済しなければ、そうしないとこの世界から、いやこの世からおさらばだ。
取引場所の雑居ビルの薄暗く静かな屋上に着くと怪しげな小柄な男がいた。
まだ取引相手は着ていないのか俺に気が付くと相手と間違えて話しかけてきたが、俺の容貌に驚いた。
「まだ、学生か。とっとと、済まそうぜ。約束の金は持ってきたろうな?」
「ああ、確かにここに。それで、ブツはどこにある」
「ここにある。このケースの中だ。お金を見せろ」
「あぁ、今出すから待っていろ」
俺はポケットに手を入れて封筒を取り出すると、俺を学生だと思って少し油断したのか、すんなりとポケットからケース取り出し開いてティアラを見せた。
当然封筒の中には金などは入っておらず、その封筒を渡すふりをして男に近づき、軽く念を入れた素手で首元を殴ると簡単に倒れ気絶した。
それから、一切の抵抗もなくケースを奪い、それをポケットに入れた。
体力も消耗していないし、確かに今回の仕事は簡単だった。
倒れた男をそのままにして帰ろうとしたが、やはりそうは上手くは行かなかった。