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「地下からの帰還」

続きます。

ライドの対応に、いきなり様予備をされて、勇者などと言われてもピンと来ないからと、ライドに話すモナ。

ようやく、渋々了承はしたものの納得できてないライドにモナもどうしたものかと思案顔で肩の上の白い翼に触れようとしたが、その手は空振りした。

あれ?子ドラゴンどこ行った?

方の感覚を探してモナは驚いて辺りを見回すと、白い探し人(竜)は真上から降ってきた。

「・・・コラ!どこ行ってたの?」

再び肩の上に乗って羽を広げた小さな頭を指で弾くモナ。

子ドラゴンは怒られたと言うのにどこか嬉しそうにピィと鳴いた。

その様子を少しの驚きをもって見ていたライドが静かな声を出した。

「モナ、その竜は・・・。」

「え?あ、さっきこの下で石の中から出てきたんです。」

「卵形の・・・装飾した石ですか?」

「はい。」

身振りでその場所の事や子ドラゴンが出てきたことを伝えるも名を見つめつつ、ライドは何かを思い出しながら口を開いた。

「・・・その子は多分導き手の飛竜です。」

「・・・導き手、とは?」

バランも飛んできた子ドラゴンを手で払いながら、ライドの隣に立つ。

「勇者の、です・・・。」

ライドが言いつつ子ドラゴンに目をやった。

再び無邪気にモナの肩の上で翼を広げている。

「この子が?」

「はい。その飛竜は貴方に従うものです。」

「・・・ちっともいう事、聞きませんけど。」

「・・・まあ、まだ子供ですし。ああ、でも、勇者と導きが揃ったのですね。」

柔らかなほほえみを浮かべながら、何やら安心したようにライドは言う。

だが、全然安心していないモナとバラン。

とりあえず・・・。

「ライド様・・・これをお召しください。」

と、上着を差し出すバラン。

思い出した様に微笑んで、上着を受取り羽織るライド。

「ああ、すみませんね。年頃の娘さんの前でこんな格好を・・・。」

言いつつ着込むと、子ドラゴンに目をやりつつ、

「ああ、モナ、この子は何と?」

どう呼ぶのかと聞かれたのだと気付くと1度小さな竜と視線(?)を交わす。

「え?まだです。外に出たら放してやる予定だったので。」

放さなくてよかったなとバランは思いつつ口を開いた。

「せっかくだ。名前を付けてやったらどうだ?」

「・・・えーっと・・・?じゃあ・・・フィア。」

「?どういう意味の名だ?」

モナの小さな相棒を眺めつつバランが言う。

「昔飼ってた鳥の名前なんです。やっぱり真っ白な鳥で。」

そうですかと微笑みつつ今、命名されたばかりの子ドラゴン―――フィアに手を振ってみるライド。

当のフィアは答えるかのように1度、ピィと鳴き翼を広げる。

「とりあえずシャルの所へ返ろう。」

「そうだな。導師様、大丈夫ですか?」

会話の間にモナの持って来たパンをバランが差し出し、ほとんど食べ終えて落ち着いたのか、頷き立ち上がるライド。

一行は出口へ急いだ。



せっかくお風呂に入って着替えたのに・・・。

これはモナの愚痴。

仕方が無い、我慢してくれ。

これはモナをなだめるバラン。

すみませんねぇ、道が崩れててここしかないんです。

これはライドのたいして困ってなさそうな謝罪。

「すすが・・・ひどい。クモ、そっち行った。」

「クモぐらいいるに決まってる。だがモナ、お前は平気なんだな?」

「さすがは『勇者様』ですねぇ。」

この緊張感のない会話をする彼らは今、一体どこにいるのか。

何のことは無い。

風呂場の出口が崩れ、迷宮からは出られたが風呂場から出られなくなってしまったのだ。

故に、今彼らは別の出口いわく特大の空気口をすすにまみれで進んでいるのだ(シャレでは無い)。

「ライド様、フィアがそっちに行きました。受け止めてください。」

「こら、モナ。ライド様に何という事を・・・!」

「ああ、フィア。こっちに遊びに来たんですか?良い子だから、モナの所で大人しくしていて下さいね?」

優しく微笑んでフィアの頭を突っついてやると、嬉しそうにひと鳴きしてモナの方に飛んでいく。

それを見送りつつライドが後ろを進むバランに視線を向けつつ、やはり微笑んだまま口を開く。

「バラン、いいのですよ。何より、無礼をしたのは我々の仕えていた王。そして、王を止められなかったのは私達です。その間、モナは歳若い娘さんらしからぬ扱いを受けていたことでしょう。そう、本来は『勇者』として祝福されるはずだったのです。我々はモナに仕える身なのですよ?」

穏やかだが熱のこもったライドのセリフにどう返答していいものかと思いつつ先頭を行くモナに呼びかけた。

「だ、そうだが・・・。自覚はあるか?」

「えーっと、無い。お城の作法とかやらないといけないかもしれなくても分からないし。」

だろうな。短くやれやれと首を振るバラン。

その様子を微笑みを持って見守っていたライドがピィッと鳴く声を聞いたと同時に「よっこいしょ」と言う声がして刹那、ガランッと言う音がした。どうやら出口のようだった。


「お庭?」

横穴から這い出て第一声をつぶやくモナ。

月明かりがないため暗くて細部は分からないものの、辺りを見回した感じでは間違いないだろう。

「ええ、ここにはよく来ていましたねぇ。」

同じく辺りを見回しながらほこりをはらうライド。

その後から出てきたバランが軽く伸びをしていた。

「やっぱり出られそうにないなぁ。」

封じられたこの城はどこもかしこも見えない壁が覆っているのか、塀の切れ目もないしドアは開かないし、塀の上にも見えない壁が出来てる。

庭の端から駆け寄って来たモナが、息つく間もなくライドに報告した。

「外へはやはり『封除の道』をとおるしかないようですね。それでは、1度私の部屋へいきましょう。必要な物を取ってこないと・・・。」

不意に言葉は耳を激しく刺激する音に遮られた。

「何!?一体?」

勢いよく音のする方向に目をやるとすぐに原因がわかった。

「バランさん・・・何をしてるの?」

音の原因も眉をしかめている。

「先ほどの地震のせいですね。地上でも所どこと崩れているようです。」

ライドがはるか向こうに見える崩れた塔を見ながら行った。

「その様です。この格子扉も少し傾いて開きづらくなっている様で・・・。」

「そうですね、バラン。まあ、騒音に苦情を言う者もいないでしょうから、そのままこじ開けて下さい。」

「はい。」

言い終わると同時にバランは作業を再開した。

その間、非常に大きな音が鳴り続けているがとりあえず放っておいてモナとライドは少し離れた噴水に腰掛けた。

間もなく格子扉を引っ張り続けるバランを横目に口を開いた。

「あの、モナ?」

「何?ライド様。」

「シャルメリス王女はご無事なんですよね?」

ご機嫌伺いといった風にも見える調子で尋ねるライド。

「うん、多分このお城で1番安全。」

「ああ、そうでしたか。」

ほっとした感じ、というべきだろうか?嬉しそうとも取れる表情になったライドをチラリッと見て、バランに視線を移した。相変わらず格子扉と格闘している。

「王妃様は私にシャルメリス様を託すと、死を間際にしたあの日に・・・手紙に託されて逝かれたのです。」

「・・・。」

独り言のような口調が横でしてもそちらを見ずにモナは聞いていた。そのままライドは続けた。

「シャルメリス様は王妃様によく似ていらっしゃる。本当に。王妃様の幼少のお姿は知りませんが・・・。」

「じゃ、大きくなるまで待てばどのくらい似ているか分かるじゃない。ちゃんと育てなくちゃ。」

やはり、相変わらずバランの作業の進み具合に目を向けたままのモナが言う。

「・・・そうですね。」

何にというわけも無く眉間に刻まれていたしわが消え1度空を仰いだ。同時に激しい音がしてバランの作業終了の声が響いた。

少し箸休め的なお話でした。

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