「小さな出会いと、大きな出会い」
こちらも遅れてしまい、すみません。
始まります。
「・・・一体何なんだ?」
別の部屋に入ったモナだが、再び目を見開いて目の前にあるものを見た。
その部屋は狭くは無いが広くも無い。
目の届く範囲に視線を巡らせてみると、奥には崩れて登れない階段があったが、それ以外には何もない。
明らかに何かの研究室の様だとは思うのだが・・・。
その証拠に壁には本棚。
そして何かの器具が所狭しと書類が散らばっている。
だが、そんな物よりも目を引いたのは、これもまた部屋の中央にあった物だった。
もちろん、今度はあの不気味な触手ではなかった。
「・・・綺麗・・・。」
その柱には埋まる様な形ではまる、抱えて少し小さいかと思える大きさの、卵型の飾り石であった。
だが、驚かされたのは美しい意志というだけではなく・・・。
「石が・・・浮いてる?」
部屋の中央に光の柱があり、その中に浮いているのだ。
虹色の光を放つその純白色の石自体にも何かの紋様が浮き彫りで掘り込まれており、非常に美しかったその柱にはまった石に、モナはまたも近付いていく。
「・・・。」
不思議な感じだった。
あの触手のように得体は知れないが、この石からは恐怖は感じない。
むしろ安心させてくれるような何かが伝わってくる。
何だかわからないものであるにもかかわらず、不意に触れてみた。
暖かい、と感じてほほを緩めた次の瞬間!
オーブを入れてある袋の中で何かが振動した気がした。慌てて広げると先ほど拾った白いオーブが光り輝いている。
袋から出して、手のひらの上で転がしてみると目の前の石も光りだした。
同時に不思議な声がした。
≪刻印を持ちし勇者よ・・・。導き手はそこにいる。御手を・・・。≫
『・・・手?』
その声を怪しいと思ったのは一瞬で、言われるままに石に触れてみた。
刹那、部屋中に閃光が溢れ、たまらず瞳を閉じるモナ。
同時に何かが砕ける重い音がしてそちらを見た。
目の前の光の柱は消え、変わりに不思議な声が耳に入って来た。
ピィッ
「・・・。」
足元でしきりにする声の主を見て目を剥いた。
「・・・何?これ?」
純白の肌に黄金色の瞳と純銀のたてがみを持ったドラゴンがそこに座っていたのだ。
それにはモナも目をむき・・・。
なにこれ!ちいさっ!。
大きさとして約20cmと少しと言った所だろうか?
翼が付いている事から飛竜のようだがトカゲの様にも見える。
どちらにせよ、まだ赤ん坊という感じがする。
「・・・何なの?」
しゃがんでみると、竜の額にはあのオーブがついている。
なぜ離れて転がっていたのかはよくわからないがと思いつつも、違和感なくその竜の額の意思を見つめる。
「君のだったんだ。・・・じゃあ、あの石は卵?」
などと言うのん気な事を言いつつ立ち上がり、数歩歩くと目の前にその竜は飛んできて肩に止まった。
「・・・付いてくる気?」
ピィッと、返事のつもりなのか1度鳴いて頬ずりをする、そんな竜の赤ん坊を見て眉を寄せつつその小さな頭を撫でてやりながら考え込むように天井に視線をやる。
「・・・ここに置いとく訳にもいかないか?よし!じゃ、一緒に行こう!」
せめて外に放してやろう。
その言葉に赤ん坊竜も、またもピィッと返事した。
「・・・ここは一体何処なのだろうか?モナは無事なのか?」
あの後、バランは1人地下を彷徨っていた。
モナがいなければ地上に出られないという事以上に彼女の身を案じているらしく、常に声を張り上げていたのか、心なしか声もかすれている要である。
しかし、さすがに疲れたのかその場に立ち止まってあたりを見回す。
「あの揺れに落石・・・。まさか・・・もう、モナは・・・。」
嫌な考えが嫌でも浮かぶ。
だが、次の瞬間その不安は音を立てて崩れ去った。
正確には、本当にけたたましい音とともに。
ドッカンッガラガラガラッ
「・・・!?」
突然、背後の床が崩れたので思わず飛びのいたバランはそのまま剣を構えるて音のした方をにらみ据える。
そこには穴が開いていた。
「何でこんな急に・・・?」
穴からは特に何も出てくる様子がないので、数歩近づき確認しようとしたところ・・・。
「・・・ゲッホッ!ゴホゴホッ!出口崩れた!」
「モナ!?」
突然探していた人物が地面の穴から顔を出したので、構えていた件を摂り落としそうになりつつ声を上げると、モナも気づいて手を振りながら這い出して来る。
「バランさん。」
突然現れたモナに驚きつつも、無事を喜び駆け寄ってくるバラン。
モナも穴から出てくるのを見ながら、だが同時に飛び出した白い生き物に仰天した。
「な・・・何だ!?」
「あ・・・地下で見つけたんだ。正確にはこの子の入ってた卵?多分、卵を。」
「・・・ドラゴン?おとぎ話に出てくる。」
「そうなんだ。驚いたよ。この子も魔法使いさんに逢わせれば何か分かるかと思って。」
「ま、まあそうだが。」
ライド様、大変ですね、と半ば他人事の様に考えるようにしてモナの手を引いてやると、ドラゴンも彼女の服を引っ張り出した。
「利口だな。」
「でしょ?」
やっと穴から出て、肩の上にとまった子ドラゴンの背(?)を撫ぜてやると嬉しそうにピィとひと鳴きして頭上を飛び回り始めた。
その様子をニコニコしながら見ているモナを目で追っていたバランが再び声をかける。
「さて、モナ。そろそろライド様を探しに行こう。」
「そうだね。・・・?あ・・・。」
「何だ?」
「あの歌が聞こえる。」
「何?」
言われて耳を澄ますバラン。
確かに何かが聞こえる。
これを歌だと判別するのは難しいぞ、と彼女に視線を送るが、その時には既に歩き出しているところだった。
慌てて後を追うバランであった。
バランもようやく歌声を確認出来るほどになったと言うと、いよいよ美老人と対面だね?とわくわくした様子で言うモナ。
何だそれはと苦笑いもそこそこにバランも、その通りだと言い返す。
それからしばらく歩いていると、目の前の角から淡い光が漏れているのが見えた。
暗いせいでやたら目立つその光に、恐る恐るモナは近寄り、その後に(何故か)バランも続いていく。
「・・・誰か、いますか?」
少しおっかなびっくりと言った声を出すモナ。
同時に歌声が止み、変わりにあの柔らかなテノールが響いた。
「バランですか?」
「ライド様!」
声を上げて飛び出したのは、先ほどまでモナの後ろにいたバランであった。
だが、角を曲がり、ライドを見たと思われるバランは固まった。
・・・というか。
「・・・何赤い顔してるの?」
訝しげな表情になったモナがバランの横に立って、ライドがいると思われる方向を見る。
そこには・・・。
「・・・。」
まず、何を言えばいいのか分からなかった。
そこには、60代の男性とは思えない、30代前半くらいの青年がいた。
線が細い男性で肌は白く、真っ白の直毛は背中よりも下まで流れ、薄く開いた瞳は深い青色だった。
だが・・・そんな事はどうでもよいとモナはバランの方に1度向いて一言・・・。
「・・・なんで裸?」
迷宮へは着ていたものはそのままで落とされるんじゃなかったの?と続けるモナだが、バランは首を振りつつ、固まった口を動かした。
「・・・わ、分からん。ら、ライド、様?」
声に反応するように夢見ごこちといっていい表情の青年は斜めにうなだれていた頭をこちらに向けた。
周りに光の帯をまとっているだけで、本当に何も着ていない青年は少しの間、状況が飲み込めないのかフワフワとした表情のままでいたが、少しづつ瞳に光が戻り表情らしきものが現れ始める。
同時に淡く溢れていた光が弱まり始めたので手早くランプを用意するモナ。
少しすると視線もしっかりした青年が口を開いた。
「バラン・・・。それに刻印を持つ者。よくここまで来てくださいました。」
立ち上がろうとするが、よろけてしまった為、とっさにバランが支える。
「ライド様、ご無事で・・・!」
やっと何時もの調子で話かけると、ライドは頷き傍らにいたモナを見た。
頭の上から足の先までじっくりと、ゆっくり時間をかけて。
そして、最後に瞳を覗き込み首筋と手の甲で止まった。
当然、居心地悪そうにしているモナ。
バランも何事かと言う顔をしつつ戸惑ったような声を上げる。
「ライド・・・様?」
「ああ、すみません。つい・・・。あの神託の勇者がどんな方なのかと。すみませんね。えーっと・・・。」
「モナ・コリンズ。モナです。」
「モナ様ですね?私はライド・ルシフ。この国の宮廷魔導師です。」
「・・・あ、はい。えっと・・・モナ、様?」
「ええ、貴方様はこの世界でこれから起こると言う暗黒の勢力を打ち破る『刻印勇者』です。本来なら、世界の中心としてあるべき存在なのです。」
けだるげな感じは残っているが、どこか嬉々とした調子で語り始めるライド。
その様子にも名は若干たじたじになりながら、困ったような様子で頭をかくと、再びライドに向き直り口を開く。
「そう・・・なんですか?で、でも、様はやめましょう。あなたの方が年上なんだし。」
「はぁ・・・。」
美老人は、少し納得いかなさそうであった。
新しい仲間(?)と、美老人との遭遇です(笑)。