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「地下世界の再開」

遅くなって申し訳ありません。

始まります。

浴槽の奥の方、丁度湯船の一番奥の辺りに不思議な紋章が彫り込まれた壁があった。

浴槽が魔物に破壊された為湯が抜け、視界を遮る湯気が薄くなったおかげでかなり見通しがよくなったと歩いて行くモナ。

「これが入口?ただの彫刻に見える。」

「彫刻にしか見えん。城のいたる所でこんな壁は見かけるが・・・まさか全部が迷宮への入口、なんて事はないだろうな?」

そう言えばここに来るまでにもいくつか廊下で見かけたなぁ、と頭をかくモナ。

だがいつまでもこうして驚きを口にしている訳にもいかないと壁に近付いてシャルメリスに出がけに言われた通りに指輪をしている方の手で彫刻に触れてみた。

その瞬間、周囲の壁がきしむような音をさせて震えだしたものだからあわてた後ずさるモナとバラン。

ビシィィィィィィィッ

「う・・・わ!?」

下がりながら離れていてよかったと思いながら突然表面が崩れ落ちた彫刻を凝視するモナ。

中からは徐々に青銅の扉があらわになり、そちらに気を取られていたモナがのけぞって尻もちを搗き、そんな彼女の腕を引いてやりながらバランは扉に目をやった。

「王家の秘密は数知れず、とライド様も行ってらっしゃたが・・・。一体どんな仕掛けで動いているのか・・・。」

唖然と言うバランに、モナはそんな事より扉使うたびにこの彫刻は直すのかな?とか考えながらも突っ込む。

「そんな事はシャルか、その魔法使いさんに聞けばいいじゃない。それよりこの扉、かなり重そうだけど・・・開くのかな?」

「魔法使いじゃなく、魔導士だと言うのに・・・。とりあえず押してみよう。」

「バランさんが?」

「・・・分かった、やろう。」

軽く肩を落として歩み出て扉に手を押し当てる。

すると、ほとんど力を込める事無く押し開かれてしまった。

あまりの手ごたえの無さに思わず自分の手を見つめるバラン。

彼の横でモナも開かれた扉に触れてみる。

「・・・これ、本当に青銅?」

「手触りは間違いなく。だが、あまりにも軽すぎる。大きさと扉の厚さからすればこうも易々と開く訳はないのだが・・・。」

「本物はお金がかかるからケチって手触りと見た目を似せてあるだけで、中身は木で出来てるとか?」

「いや、流石にそんな事はないと思うが・・・。」

一応国王の居城なのだし、と言おうとしたバランだったが、それより早くモナの声がした。

「でも、ここのお風呂のお湯が抜けてよかったね。じゃなきゃお湯の中を歩いてここまで来る事になってた訳だし。ここ深いよ?」

「確かにな。こんなことを言うべきかとも思うがここは魔物に感謝か。」

「魔物か。」

今はもう跡形もなくなってしまった魔物の事を考えながら「おや?」とモナはバランに視線を向けて、にやりと口の端を持ち上げながら口を開く。

「うん、驚いた。本当に誰かが入ってるのかと思ったし。あ、そうそう、驚いたわけじゃないけどバランさんの言った事にも少し驚いた。・・・で言うか、引いた?」

「何がだ?」

扉をマジマジ見つめていたバランが振り返ると、モナは思い出す様に「うーん」と考えて芝居がかった動き、出来る限りの低い声を出した。

「―――『何が入浴中だ?こんなものの湯浴みなんぞ見ても何の楽しみもないな。』―――なんていうんだもの。ここに入るの嫌がってたのに。」

「どういう意味だ?」

何を言っているのかと不思議そうにしているバランにモナは笑いを滲ませた顔で嬉々として言い放つ。

「じゃ、一体どんな湯浴みを見るのが楽しいの?」

「・・・どんなって。」

「きれいな女官さん?フフフ、男の入る場所じゃないとか言いながら、実は結構好きなんじゃないか?」

最後らへんは爆笑に打ち消されてしまい、そのまま壁に頭を預けて笑うモナ。

その様に唸り声でに言い返すバラン。

「う、うるさい・・・。そんな事はどうでもいいだろう。とにかく進むぞ!」

「はい、はい。じゃあ、魔法使いさんを助けに行こう。」

「はいは1回。あと、魔法使いじゃなく、魔導士だと言うに。」

「バランさんおじさん臭いよ?小さな事にこだわっていると今以上に老けるよ?」

「おじさんじゃない!あと私の何処が老けているんだ!」

喚くバランに、笑うモナと先ほどまでの緊張感はどこという空気である。

それを感じながらもモナは笑いを載せて口を開く。

「さー、行こ、行こ!」

「こら待て!小娘!」

笑いながら扉の中に消えていくモナを追うように迷宮に走り込んでいくバランであった。



「暗いな。」

手元のランプを掲げつつ言うバランの肘の下で指輪をかざしていたモナが引っ張り、腕をランタン事下ろさせる。

「バランさん、人の頭の上を照らしてどうするの?ランプ貸してよ。」

「ん?仕方がなかろう。モナが持ったら今度は低すぎて私がよく見えない。」

私は高すぎてよく見えないんだけど・・・。」

言いつつ歩きだすが、テンションはこの湿っぽい暗闇のせいでダダ下がりである。

「魔法使いさんは何処にいるんだろう・・・。」

「分からんな。・・・で、モナ。」

「何?」

「何度も言うようだがな。」

「ん?」

「魔法使いさんではなく、魔導士だ。」

「いいじゃない、呼び方なんて自由そうだし。バランさんこだわりすぎ。」

「よくない。大体、本質からして違うのだから・・・。」

ああ、また始まった。

何度目かのこの手の会話にモナも呆れてしまったのか頬をかいて周囲に視線を巡らせている。

しかし、途中でフッと気にな相変わらず魔導士について講釈を垂れているバランに鋭い声を飛ばす。

「静かに・・・。」

「な、何だ?」

いきなりモナが目を閉じてその場に立ち止まってしまったので、それにならう様に動きを止めるバラン。

直後モナが口を開いた。

「何か・・・聞こえる。声?ううん、歌みたいな・・・。」

覗き込んできたバランは眉を寄せながら辺りを見回した。

「歌?こんな地下でか?それは一体・・・?」

「こっちから聞こえる。」

バランの手からランプをすくい取って歩き出すモナ。

あまりに自然な動作にランプを持っていかれた事も気に留めずバランも彼女の後をついていく。


この暗い地下でランプが照らすのはほんの数歩先のゴツゴツした岩肌だけである。

しかし、迷う事無くモナは進んで行く。

まるで、吸い寄せられるかのように。

その様子に戸惑いを見せるかのような声を、彼女の背中にバランが飛ばす。

「おい、モナ。一体どこまで行く気だ?」

「こっちから聞こえる。この声じゃ性別も分からないけど・・・。うわぁ!?」

いきなり目の前を歩いていた背中が後ろにのけぞってきたので、後ろを歩いていたバランは慌てて受け止めながら話しかける。

「なんだ!?何があった!?」

慌てて顔をのぞき込むが、当のモナは困った表情で顔の中心を撫でながらくぐもった声で返事をした。

「いったった・・・。ぶつかった。壁?」

「・・・?壁だと?お前は歌を追いかけていたんじゃなかったのか?」

なのに壁にぶち当たった?

「・・・ん、ああ、たぶんあそこから、かな?」

モナがあおむけ気味の体制でランプをバランに渡し、壁の上部を指さしながら立ち上がる。

「・・・あれは?」

バランが示された方向に高々とランプを掲げると岩の壁の一部が妙なえぐれ方をしているのが見える。

「アレ、きっと穴だよ。」

「穴?じゃあ、あの穴から歌が?」

「多分、この壁の向こうに空洞でもあって誰かいるんじゃないかな?落とされた人とか」

と、眉を上げてバランを見る。

「最近、迷宮に落とされたのは導師様しかいないはず・・・。だとすると?」

何故だか小声で話し合う形になっていた2人だが、その答えは頭上から降ってきた。

「・・・誰かいるのですか?」

「え?」

歌がいつの間にか止んで、一泊置いて耳当たりのよいテノールが響いた。

「・・・え?」

「・・・導師様?その声は、導師様ですね!?」

バランが声を上げると、穴の向こうから不思議そうな調子の再びテノールが響いてきた。

「バラン、なのですか?どうしてこんな所に?貴方も落とされたのですか?」

こんな場所で、信じられないくらいのんきな声だ。

「・・・いいえ、導師様。貴方を救いに来たのです。」

この暗がりでさらに上を向いているバランの表情は良く分からないが、今にも声を詰まらせてしまいそうな低温が響いた。

だがその後、壁の向こうからの声は1度途絶え中々帰ってこない。

そして、バランの声が十分に響き渡った頃ようやく先ほどよりやや低い声でこう返した。


「国王に何があったのです?」

いきなりの質問にバランは黙ってしまう。

一体何を察したのだろうか?1ヶ月も前に迷宮に落とされていながら、まるで今の状況を知っているかのような空気だとモナは口を開いた。

「城に魔物がいて、外にも逃げられないんです。」

聞きなれない高い少女の声に一瞬壁農耕の人物は驚いた様な声を出したようだが、すぐに返事が聞こえた。

「バラン、そこにいるのはどなたですか?何か・・・魔導師とも精霊ともつかない様な感じの気配ですが。」

「ライド様・・・。」

やっと出た声でバランは問いに返事をした。

「この少女は『刻印』を持つ者です。1週間ほど前に国王に見つかり、地下牢に捕らえられていたのです。」

「・・・!国王に見つかった?捕らえられたですって?国王は一体何を・・・。」

寂しそうな声が途中で途切れてしまい、珍しく不安そうなバランが呼びかける。

「ライド様?いかがなさいましたか?」

「あ、ああ、いいえ、大丈夫です。何でもありません。そうですか。しかし、ならなぜこんな所に?出られないと言いましたが。」

「彼女は私の隊の者の手により牢を出て、今度は私を助けてここに来たのです。」

「そうですか・・・。無事でよかった。しかし、城は今どういう状態ですか?少し前からおかしな気配がしているのですが。」

「良く分からないんです。」

モナが呟くよりやや大きめの声で返事をした。

それに壁の向こうで導師様―――ライドは少し唸って話し始める・

「とにかく詳しい話が聞きたいですね?バラン、お願いできますか?」

「すぐそちらに参ります。」

バランの言葉に、ライドはややためらいが見える声が響く。


「いいえ、このままでも・・・。」

「魔法使いさん、そこへはどうやって行けばいいんですか?」

会話を中断させた声に壁の向こうの人物は押し黙る。その様子に慌ててバランがモナをつつく。

だが当のモナは何が悪いと言わんばかりにバランを見上げて言い放つ。

「だって、助けに来たんだから魔法使いさんの所まで行って、ここを出ながら話をした方がいいじゃないか。」

「・・・まあ、そうだが。ライド様、こう言ってますがいかがいたしましょうか?」

「・・・。」

「ライド様?」

「あ、ああ、いいえ。そうですか。でも、私を連れだしてもどうなるかは分からないのですよ?それでも、この老人のもとを訪れるというのですか?」

一体どうしたのだろうと先ほどのやり取りには疑問を持ったものの、モナも返事をする。

「うん、そうだよ。じゃないとシャルに何て言えばいいか分からないもの。」

連れて帰るって言ったのだから。

さてどうするかと返事を待ったいたら、その声はひどく驚いた様な声だった。

「・・・シャル?今、そうおっしゃいました?」

「シャルメリス王女の事。」

「ええ、分かります。分かりますけど、その呼び方は・・・。」

今は亡き王妃でありシャルメリスの母親が彼女を呼ぶときに使っていた愛称。

聞く前に気が付いたモナが口を開こうとしたが、バランの低い声にさえぎられた。

「ライド様、とにかくそちらに参ります。しばしお待ちを。」

「ああ・・・、はい。」

思い出した様に返事をするライド。

辺りを見回すと壁の左側に、向こう側に続いていそうな道が伸びているのを見つけて2人は1度ライドに別れを告げ、歩き出すのであった。

何だか漫才している2人です。

そしてようやく、導師様(声だけ)出演です。

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