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「初めての戦い」

お久しぶりです。

始まります。

「やはり、ライド導師様は迷宮に落とされていたようだ。」

管理人室の本棚から1ヶ月前の処罰履歴を記した書物を見つけ出し、すぐさま読み始めたバランはしばらく書面に視線を巡らせていたが突然動きがピタリと止まったと思ったらそう呟いた。

同時にそのまま立ち上がり書物をカウンターに置きながら声を弾ませた。

「ライド様は生きておられる。早くお助けしなければ。」

「・・・本当に、生きてるの?」

「ああ。そもそも地下迷宮刑とは長々と地下牢獄を彷徨う内、苦しみながら死なせる為の刑なのだ。その効果を最大限にする為にその時身に着けていた物はそのままに落とされる。」

「・・・どうして?」

「最期まで悪あがきをさせて苦しめる為だ。」

嫌な刑だ。

よくそんな事を思いついたものだと胸中でうなりつつ次の質問を口にするモナ。

「でも、だからって本当に生きているの?1ケ月も前に落とされたんでしょ?」

にわかに信じられないといった表情をしながら手元の記録書に視線を落とす。

「ああ、普通ならば生きてはいないだろうな。生きていても瀕死状態だろう。

「なら・・・。」

今から助けに向かっても、と言いたげに眉をひそめるモナ。

だが彼女を無視したバランは特に気にした様子もなく、不安そうな様子を微塵も漂わせる事なく続けた。

「ライド様なら大丈夫だ。地下迷宮内に城外への脱出路はないというからまだ城内だろう。」

何故か自信あり気と胸を張るバランに、少しイライラした様子のモナが何度目かの声を上げる。

「だから、何で大丈夫なの?生きてはいるっていうのは何で?でも出口がないならどこから助けるの?」

「まず、城内への出入口はある。そして生きているか否かについては問題ない。あの方は精霊との同調能力や使役能力にたけている。この城周辺の精霊達なら喜んで力を貸すだろう。あの方はなら精霊の力を取り込んだなら人知を超えた技すら使えるはずだ。その状態なら、1ケ月くらい何とでもなる。」

自信たっぷりに説明しながら記録書類を収めるバラン。

方や横で、なら城内の出入口と地下路迷宮の地図類はどうするのだろうかと頭を抱えるモナ。

もう、考える事もないが・・・。

「とりあえず、シャルの所へ戻ろう。」

「あ?ああ、そうだな。」


コンッコンッコンッ

「ど、どなたですか?」

相変わらず豪奢な扉をノックすると、少し怯えの色を含んではいるが鈴を鳴らしたような愛らしい声が響いた。

「シャル?私だよ。ドア開けるね。」

短く言い立派なドアノブを回し引く。

するとシャルメリスがこちらに向かって小走りに駆けてくるところで、そのままモナにぶつかるようにしがみついてきた。

いくら王族然としていてもい姫君にはさぞ心細い時間だったのだろう。

恥じらいはあったのかもしれないが、それ以上に不安を落ち着けるようにモナを気遣ってきた。

「モナ、良かった!おかえりなさいませ!・・・あ。」

受け止めていたモナの腕の中から、不意に頭を出しモナの後ろに立つ青年兵士に気付き目をやった。

「ご無事で何よりです、姫。」

言い放つバランも心なしか安堵しているように見えた。

それはシャルメリスも同じだったようで、モナから離れると姿勢を正して向き直る。

「貴方は先生の護衛の・・・兵士さん。」

「護衛?」

なんだそれはとモナは首をかしげて2人を交互に回し見る。

「ああ、言っていなかったな。上級魔導士には護衛が何人か付くのだ。だからライド様には私の隊が付いていたのだよ。」

「そうだったんだ。」

だから詳しかったんだね?と納得しながら2人を部屋へ押し込み、ドアを閉めるモナであった。


「では、先生は生きて?」

バランの報告にシャルメリスは大きな目をさらに大きく見開いて尋ねる。

「地下迷宮にいらっしゃるようです。」

それにうなずき答えるバラン。

その様子に安堵を滲ませながらシャルメリスは考え込み辺りを見回しながら口を開く。

「そうですか・・・、地下迷宮ですね?確か出入口が城内にありましたわね。確か、私も『導きの灯火』をひとつ持っていましたわ。」

今に至るまでの事をシャルメリスにあらかた話し終わると、彼女はそんな事を言って立ち上がり部屋の一角に置いてある豪奢だが随分古い人形の前に歩いていく。

その人形の服に着いた装飾品をひとつ外して、再びモナの前に戻ってくると掌に載せてモナの前に差し出した。

「これは『導きの灯火』と言います。」

何かの呪文などが彫り込まれた銀の指輪だ。

見たところかなりの値打ちがあるものの様な指輪で、1度視線を落とした後シャルメリスに視線を戻す。

「出入口はいくつかありますが、ここから1番近いのは侍女達の居住区域のお風呂場にあったはずです。この指輪は魔道反応で装着者を導きますので迷う事もないでしょう。モナ、お持ちください。」

目の前に差し出されている指輪を控えめに摘み上げて指にはめるモナ。

随分古い物のはずなのにキラキラ光る銀の指輪を見つめてシャルメリスに視線を戻す。

「ありがとう。行ってくるから待っててね?」

「はい、モナもバランも置きおつけて。」

1度優雅に淑女の礼をとるシャルメリスに目を細めながら扉に向かうモナとバラン。

さて出発と扉を閉めようとしたところでモナが振り返り思い出したとばかりにテーブルを示す。

「パン、食べてね?」

モナがパンが広げたテーブルにシャルメリスも視線をやりながらうなずき微笑む。

「はい、ありがとうございます。行ってらっしゃいませ。」


「・・・うむぅ、中はこうなっていたのか。」

厨房に入るとバランが物珍しそうにあたりを見回した。

天井を見上げ調理台の周りをうろつき、配置された家具を見て回るバラン。

そんな様子をドアを閉めながらモナは不思議そうに見ていた。

「台所、来た事ないの?ここに住んでたんだよね?」

心底不思議だ。

自分の住んでいる場所は家という感覚が強いモナにしてみれば、理解できない感覚だった。

「ああ、場所は知っていたが実際入ったのは初めてだ。基本的に料理人や侍女以外なら男は入った事がないんじゃないかと思う。」

「そういうものなの?」

「ああ、王城などではな。」

そうなのか、と首をかしげながらモナは近くのパンを慣れた手つきで包み、袋に入れると背中にしょい込んでバランに向き直った。

「じゃあ、行こう。」

「ああ、急ごう。」

バランの返事を聞き厨房の奥の扉へ歩き出すモナ。

後を数歩遅れてついていくバラン。

「・・・。」

フッと何かが気になって目を瞬かせるモナ。

「どうした?」

「うん?なんでも。」

妙な音がした気がしたが気のせいだろう、と先ほどの風呂場へ急ぐのだった。


「だぁかぁらぁ、この先がお風呂なの。何で入れないの?」

風呂場の扉のの前でモナの困った様な声が響いている。

続けて、これもまた困った様なバランの声が言い返した。

「この先なのはわかっている。ここに入らなければならないのも・・・。いや、しかしだな・・・。仮にも婦女子の浴室に入るのは・・・。」

眉をしかめて難しい顔をしてはいるが、少し顔が赤いバラン。

だが、何が言いたいのか分からないのかモナも面倒くさそうに言い返す。

「何言ってるの?誰も入っちゃいないよ?ここに入らなくちゃ魔法使いさんを助けに行けないんだよ?」

「魔法使いじゃなく、魔導士様だ。とにかく、何だ・・・。ここは男の入る場所では・・・!」

細かく誰も気にもしないような事を指摘しながらうだうだ言っているバランは再び視線を泳がせ始めた。

同時に注意がよそに行ったのを機に、素早くバランの背後にバ割り込んだモナはこれがまた素早く彼の背中を押し浴室に向かって押し込んだ。

「うわぁ!?」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ?もおいい?行くよ!」

「ちょっと・・・本当に待て!」

声をあげ抵抗しようとしたバランだったが、一気に押し込まれすでに戸口を超えていた為浴室に転がり込んだのだった。


「こ、こら!」

勢いあまって床に転がったバランは瞬時に体制を整えながら叫んだ。

「別に覗きに来たんじゃないんだし、誰かは言ってるんじゃないんだから。」

何を気にしてるの?この人。

内心あきれながら押し込んだバランから視線を離し、背後のドアを閉めてやれやれと言ったヨスで肩を落とすモナ。

その間も講義をつづけるバランはやかましい事この上ないとため息をつきつつ受け流していたが、フッと静かになったので傍らの彼を見上げる。

「・・・どうしたの?」

「今、何か音がしなかったか?」

「何の・・・?」

チヤプンッ

水の音が室内に響く。

モナは視線の向こうにある湯船を凝視した。

そこには細いシルエットが湯煙に浮かび上がっている。

「・・・誰かは言ってたの?」

思わずつぶやきを漏らしバランをつつくモナ。

「ごめん、入浴中の人いた。」

「違う・・・。」

「え?」

バランに視線を向けてたところで視界の端のシルエットが揺らぐ。

続けて言葉を低く紡ぐバラン。

「そいつは、人間か?」

「何を、言って?」

バシャンッ

大きな水音に肩をビクッと震わせて振り向くモナ。細いシルエットは長い髪の細い女の様に見える。

だが、今まで静かに佇んでいたその人影がムクリッと膨れ上がり始めた。

「・・・。」

息をのむモナの視線は膨れ上がり大きくなった影のあちこちに飛ぶ。

そうしている間にシルエットはどんどん膨れ上がり、湯煙をかき消して振り返った。

そのすがたは・・・。

「何が入浴中だ?こんなモノの湯あみなんぞ見ても、何の楽しみもないな!」

低い声は強く言い放ちながら、剣に手をかけて今しがた現れた魔物のほうを向くバラン。

その大きさは長身なバランですら見上げなければならないくらい大きい一つ目の魔物。

その目は目の前の2人を無感情に見下ろしている。

「さっきはいなかったのに・・・?」

「あちらの壁を見てみろ。」

視線で示された先の壁には大きな穴が開いている。

先ほどまでなかった大きな穴で、魔物はここから入り込んだようだ。

今まで同じ城にいたというのに何故気づかなかったのか?とモナは眉を寄せる。

しかし、考えている暇はない。

魔物は既に2人を認識し攻撃態勢をとっているのだ。

「モナ、進入路が分かった事だし、さっさと倒してしまおうか?構えろ。」

低く言い、自身の腰の剣に手をかけスラリと引き抜き構える。

その様を勇ましいものだと感心した風に見つめるモナ。

同時に自身も構える様言われたことを思い出し慌てて声を上げた。

「え?構える!?何!?どうしたらいいの!?」

1人あわあわとしているモナにバランは”何だと?”と言った風に振り返り、戸惑いを含んだ声が向けられる。

「どうって・・・、前衛は私が勤める。その代わりにお前には魔法支援を頼みたい。私は炎系攻撃魔法しかできないのでここでは不利なんだ。」

「ま、魔法で支援!?魔法ってどうやって使うの!?何すればいいの!?」

地下住居で暮らす生活を送っていたモナには全くない知識である。

そもそも魔物と出くわした事もないのだからどうにもならない。

だが目の前の魔物あいてはそんな事はお構いなしである。

自身の体に巻き付けていた触手を振り回しながらこちらに向かってきた。

この魔物の皮膚は赤く触手で構成された一つ目の魔物で、攻撃はその触手を鞭のようにしならせ、時に突剣のごとく突き刺したりなどの方法をとってくる。

その触手がビシッと床をたたき音を立て動きを変えてモナに繰り出される。

え、うそ、何で私の方に一直線!?

内心パニック状態のモナは動けずに向かい魔物を前にさらにあたふたしている。

魔物の方は単純に魔力量の多い方に向かって来ただけなのだが。

1人パニックに陥っているモナだが、触手は左右から鞭のごとく襲い掛かる。

あ、これ終わったかも。

スッとぼけた顔でモナが考え衝撃を待った。

だが目の前で触手はばらけて床に落ちる。

「とにかく短剣に青いオーブを!」

「え、ええ!?」

もはや何が何だか分からないが、とにかく言われるがままに青いオーブを短剣のリングにはめ込みながらさやから引き抜く。

「で、どうしたら!?」

勇猛果敢と以下言いようのない戦いっぷりで交戦中のバランは触手を受け流しながら叫んで返事をした。

「何でもいい!詠唱しろ!こいつは炎属性だ!青のオーブは水や氷の魔素マナを宿しているから氷に魔物こいつが串刺しにでもされるような事を考えて関係ある言葉を選んで短剣をどこかに突き立てろ!」

ここまで一気にまくし立てながら戦っていたバランだったが、少しきつくなったのか1度態勢を立て直して再び構えて間合いを取り踏み込む。

その間も若干肩で息をしつつまだ動けていないモナに向かって叫ぶ。

「オーブは具現したい事と、その時のイメージを作り的を絞るよう念じる事により魔法になる!詠唱はそのイメージを出しやすくする為の掛け声だ!」

そこまで言い終わるとさらに上下から迫りくる触手を叩き切り、本体に切りつけていく。

ただしゴムのごとく弾力がある成果ほとんどダメージになっていない。


「イメージって・・・。」

氷は冷たい。

正直そのくらいしか思いつかない。

そもそもモナは氷に触れる様な事は今までほとんどなかったのだから。

それでも今までにあった氷についての出来事を思い出そうとする。

―――ほら、あまり窓辺に近付かないの・・・。氷柱つららが落ちてくるからね?氷柱に当たったら大けがするよ?―――

幼い冬の日の記憶に母の声が重なる。

氷柱?

ここで「あ!」と声を発して思い出す。

あれも氷じゃない!

考えるや否や、短剣のオーブが光を放ちモナを中心に床に銀の線で描かれた円形の魔法陣が浮き上がり周りを冷気が渦巻き始める。

刹那―――!

彼女から直線上にいる魔物までの床を白い空気が進んで行き、ついには魔物を包み込む。

「行け!氷柱!」

声と共に振り下ろされ地面を穿つ短剣。

鋭い金属音が響いたと思った次の瞬間「ザシュッザシュッ」という音と共に白い空気が通った道筋を氷の大きなとげが出現しながら進んで行きついに魔物のましたから幾本の氷の柱が魔物の皮膚に食い込む。

食い込んだ氷の刃から徐々に凍っていく魔物。

その様を見ながら走り込んでくるバランは最後の触手を避け切った次の瞬間剣を氷が刺さり変色して弱った場所へ叩きつける。

その中から出現した魔物の心臓とも言える宝石ごと真っ二つにしながら。

グギャァァァァァァァァッ

けたたましい断末魔が室内を揺るがし大量の光が溢れ、魔物は消し飛んだ。


終わった?

半壊した浴室に広がる静寂。

何となく身動きしてはならないような気がして、目だけ動かして辺りを窺うモナ。

もう動く物は見当たらない。

そのままバランを見ると剣を収めうなずきこちらへ歩いて来るのが見える。

終わったのね?

考えた途端に膝の力が抜けて座り込むモナ。

同時に短剣が手から滑り落ちるが今は拾う事すらままならない。

「お見事。」

すぐ近くまで来たバランが笑顔で見下ろしてくる。

うん、見事じゃなきゃ大変だったよ。

返事はできなかったがうなずき返して短剣を拾う。

「今のが魔法?」

やっと出た言葉は間の抜けたものだったがうなずき返したバランは手を差し出し、モナもその手をつかみ立ち上がる。

「そうだ。見事な物だ。次も頼むぞ?できればもう少し早く、な?」

あ、そうだね。

随分パニックになっておりひどい状況だったに違いないと苦笑いをしながらバランを見る。

「分かった。あ、あの、怪我は?」

服があちこち汚れている。

このどこかに傷があってもおかしくない気がして尋ねた。

だが、当のバランは軽く肩をすくめて「なに、心配するな」と笑う。

「そ、か・・・。あ、それじゃ地下の入口を探さなきゃ。」

まだ少しふらついていたが歩き出すモナ。

その背にやれやれと言った風についていくバランであった。

第一回戦、終了です。

モナはただただあたふたしていました。

戦いながらの魔法指導。

バランはタフですねぇ。

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