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「刻印の意味」

続きます。

そこにはまだ幼い少女がいた。

腰より下まである金の髪は大きく幾重にもカールし背中を隠し、大きな新録色の瞳は鮮やかで。

着ているドレスも非常に豪華できらびやかで・・・。

お姫様?

絵本で見たお姫様が現れたのだと少女は見入ってしまう。

それほどまでに美しいい幼女が目の前で自分を見上げていた。

「ね・・・え。」

アンティークドールの様な幼い少女は泣きはらしたのであろう目でこちらを見つめつつさらに近付いてきた。

「あ・・・ああ。えっと、私は・・・モナ。モナ・コリンズ。えっと・・・。」

「・・・?あ・・・、『刻印』の人?」

「え・・・うん。」

少女―――モナはまずいと思った。

人には会いたいと思っていたけれど、やはり捕まるに決まっているのだから。

囚人が逃げ出したなんて騒ぎ出すのではないかと1歩後ずさるモナ。

だが、金髪の少女は一瞬ひどくつらそうな、悲しそうに顔をゆがめるとスッと身を引き表情も凛としたものになり淑女の例をと口を開いた。

「申し訳ありません。」

「え?」

突然の謝罪にモナはどうすればいいのか分からず目を白黒させうろたえる。

そんなモナの事も気にせず幼い少女は続ける。

「父は間違っていたのです。『刻印』は悪い物ではありません。それなのに父も誰も信じてくださらなかった・・・。」

最後の方は力なくしりすぼみに消え、何かを考え込む様に黙る幼女。

謝罪されたモナは何が何だか分からない、と落ち着きなく視線を行ったり来たりしながらも話に耳を傾け幼女を見る。

その間再び、今度は少し声を震わせながら幼女は話し始める。

「魔導士様が、私の先生が言ってらっしゃったの。世界中の人々は言い伝えの意味を間違えていると。本当は『刻印』の人は【世界の終わりを救う勇者様】なのだと。なのに、先生や隊長さんはその事を言ったら、先生は殺されて・・・。」

幼女の声が徐々に小さくなり、やがてしゃがみ込み嗚咽が聞こえてくる。

何?本当は『刻印』を持つ者は世界を滅ぼすんじゃなくて、助ける勇者がわ?しかも、自分が?

目の前の幼女に視線を向けつつ立ち尽くすモナ。

内心は混乱している。

同時にそれを訴え泣いている幼女には何か言葉をかけなければとしゃがみ込み話しかけた。

「今のはどういう意味なのか、良く分からないんだけど・・・。私は、『刻印』は悪い物じゃないんだね?」

少女は大きな目に涙を一杯ためたまま大きくうなずいた。

そうだったんだ。

今まで『刻印』の事で下を向いていた気持ちが少し軽くなっていくのが分かる。

まだ、良かったとか安心したとかは考えられないけど。

何か、解放されたような感覚が胸に広がっていく気がしていた。

しかし、なぜこの幼女がそんなことを知っているのか?

一体誰なのだろうと思い、視線を幼女に向けて口を開く。

「ところで貴女、誰?」

「え・・・?あ、わたくしは・・・シャルメリス。」

幼女は立ち上がり背中をピンッと伸ばしてモナを見据えて再び口を開く。

「シャルメリス・ヴィレンティス・ラーガスティン。この国の王女です。」

「は・・・?」

この幼女がこの国の王女様!?



どう見ても目の前の幼女 ―――この国の王女・シャルメリスはどう見ても5、6才にしか見えなかった。

モナは目を白黒させてしまった。

まあ、それもそのはず。

この国、ラーガスティンの王女は美しく求婚も絶えないという話を耳にしていたからである。

だからさぞ美しい婦人だろうと思っていたのだが、まさかまだこんなに幼い少女だったとは・・・。

「お父様は大袈裟ですから・・・。」

少し恥ずかしそうに肩を落とすシャルメリス。

そんな様子を見つつモナは口を開いた。

「・・・ねえ、・・・あ、シャルメリス、様?」

固い口調と表情でシャルメリスを呼ぶ。

すると少し考えてからシャルメリスが頭を振りながら口を開く。

「・・・シャルでいいです。お母様はいつもそう呼んで下さいましたから。」

少しはにかむ様に微笑みながら「さあどうぞ、お呼びください」とばかりのシャルメリス。

いいのかなぁ?と、ためらいがちに再び口を開くモナ。

「じゃあ、シャル。この城、何があったの?何で人がいないの?この部屋だけはどうして無事なの?」

あの後城をめぐってみてわかったのが、どこもかしこも崩れたり壊れたりしている箇所があちこちに見つかったのだ。

勿論、戦争云々で壊れたというほどではないけれど。

思い出しながら城内の様子を説明していくモナ。

この部屋だけ無事という言葉と彼女の説明を聞き徐々にシャルメリスの顔色は青ざめていき、能面の様な硬い表情になり考え込み始める。

「シャル?」

「大丈夫です。」

背を向けベッドのそばまで歩いていくシャルメリス。

気を落ち着かせるように大きく息を吸い込み、数度繰り返してこちらに向き直り口を開く。

「この部屋の外には誰もいなかったのですか?」

「うん、誰も。私を牢屋から出してくれた兵隊さんがいたけど・・・怪我をしていて、助からなかった。」

「・・・そうですか。」

人が死んだ。

恐ろしい話だ。

目を伏せるシャルメリス。

数度の瞬きを繰り返して、彼女は顔をおあげた。

「少し前に城に来客があったそうなのです。」

いきなりモナを見据えるように視線を向けてきたシャルメリスは、はっきりした声で言った。

先ほどまで動揺したり泣いたりして、目は赤くはれて痛々しいが幼女とは思えない堂々たる姿である。

自分より年下だがさすが王族だと思いつつモナが聞き返した。

「来客?こんな時間に?」

「はい。」

シャルメリスは思い出す様に語り始めた。



早朝に急ぎの来客がありました。

私もその席にと言われて支度をしていたのです。

何でも珍しい『卵』が羽化するところをお披露目するとだけ言われました。

珍しくお父様も興奮したような様子で不思議に思いながらも支度をしていました。


そろそろ支度も終わるかという頃、謁見の間の辺りから何か大きな音と耳をつんざく様な悲鳴が1度したと思ったら、この部屋のドアがいきなり開き兵士と魔導士が駆け込んできたのです。

魔導士はこの部屋に『月光粉』という金色の粉をまき、決壊を張ったのです。

そして、侍女も兵士も魔導士も出て行ってしまったのです。

出がけに魔導士の1人が「決してドアを開けてはいけない。部屋から出ないように」と言って出ていきました。

それから少しの間、この世の物とは思えないようなうめき声が城内のいたるところからしていたのを聞いていました。

しかし、先ほどからその声も止み、今度は全く声も何も聞こえなくなってしまったのです。




「・・・『月光粉』?この粉?」

足元の粉を指で救い上げてモナが訪ねる。

「はい、魔道に用いる媒介の1つで、もとは1つの石。オーブを砕くんですよ?」

「石・・・?あ、これ・・・。」

地下牢を出る時に見つけた石をだし、近くのテーブルに広げた。

シャルメリスは石のひとつを手に取ってうなずく。

「はい、これは火・水・風・地のオーブですね。魔力がないとできませんけど、イメージして簡単な詠唱・・・掛け声の様なものを言えば魔法が発動しますね・・・。あ、モナの腰の短剣!」

説明していたシャルメリスが指さしながら近寄ってくると腰に差してある短剣の柄の部分の穴に石―――オーブをはめ込んだ。

「こうやってオーブをはめ込んで地面や壁などを詠唱とともに刺すと魔法が発動するんです。・・・モナは魔法は?」

「・・・え、分からない。やった事ないから。」

「そうですか?でも『刻印』を持っているのですから魔力はあるはずですよ?機会があれば試しておくといいかもしれませんね?」

「あ、うん分かった。」

オーブのはまった短剣をベルトに刺しなおしながら辺りを見回したモナは、オーブの入った袋を受け取りながら思い出したように口を開いた。

「・・・ねえ、シャル。そういえばこの城窓も扉も開かないんだけど、出口ない?」

袋を渡して数歩下がったシャルメリスが振り向きながら少し考えながら返事をした。

「窓も・・・?もしかして封印されているのかもしれません。・・・そうなってしまうと、封印術に関係なく使用できる通路・・・。地下にあると聞いた事がありますね。」

「あるの?何処の地下!?」

「どこ・・・地下牢の端の彫刻の仕掛けの向こうだど聞いた事があります。」

モナのいたあの地下牢の事だ。

「ですが・・・。」

「何?」

思い出していたモナの思考にシャルメリスの声が困ったように響く。

「仕掛けを解くには7つの紋章をはめ込まなければならないんです。城内のどこかにあるのですが・・・場所はちょっと・・・。」

申し訳なさそうにシャルメリスが口ごもってしまう。

「大丈夫だよ。うん、そうなの。分かった、探してくるからここで待ってて。準備できたら呼びに来るからさ。」

あまりに明るく言い放つモナに驚いた声でシャルメリスは返事をする。

「え・・・あ、はい。私も助けて下さるんですか?」

「うん、一緒に逃げよう。・・・どうしたの?」

モナを見上げるシャルメリスの瞳は不安そうに揺れ、震える声で言葉を絞り出した。

「私のお父様が、貴女を・・・。」

貴女を捕らえた。

言いかけたところでモナは首を振った。

「シャルは何もしていないじゃない?それじゃ、行ってきます!」




王族にも色々な人がいるんだな、と思いつつ歩いていくモナ。

シャルメリスの部屋から出て反対側の階段を下り再び1階へ行こうかと思った。

だが、階段を下りて行くと途中からおかしな事に気付く。

「あれ?この階段、地下に続いてるの?」

随分長い階段だと思ったら、頭の上に明り取りの窓がある。

まあ、どこかに続いてはいるのだろうと足は止めないままに右手で右目を包む様にして触れてみる。

「悪い物じゃなかった・・・。」

呟いて立ち止まる。

シャルメリスの言葉を思い出して何かが解き放たれて軽くなった様な気がした。

「これからは、私も胸を張って生きていけるかな?」

言葉にして微笑んだ。


少しの間余韻に浸った後、再び歩き出そうとしたその時・・・。」

「・・・え?」

かすかな音がした気がする。

今度はいったい何だろう?

何かがうめくような声だったけど、今度こそ本当に魔物なの?

どうもこの音は地下からしているみたいだ、とこれから進もうと思っていた方向に目をやる。

「大丈夫・・・。」

ベルトから短剣を引き抜き、固く握る。

深呼吸をゆっくりして足を踏み出していく。

1段、また1段と階段を下りて行く。

しばらくしてついに1番下の段に足を置くと立ち並ぶ牢屋が目に入った。

モナのいた牢屋に比べれればはるかに明るく、1つ1つの牢屋の間も石の壁で仕切られ寝台も生活道具もある。

ここは一般囚人用の牢屋の様だ。

本当に自分のいた牢屋と違うと思いながら声のする方へ歩き出す。

声が近付くにつれ、鼓動が激しくなる。

大丈夫。相手は牢の中。

胸中で呪文のように唱えながら進み、ついに声のする牢屋のすぐ前のの壁までたどり着いた。

1度止まり深呼吸をして次の瞬間、声のする牢屋の前に出た。

しかし、そこにいたのは・・・。

「・・・あ。」

牢屋の壁に、モナ様に張り付けられた若い男がいた・・・。

だが、その男の服はほとんどが破け半ば裸になっていた。

細身でしなやかではあったが、筋肉で構成された体には無数の切り傷や鞭で打ったような赤い筋でズタズタになっていた。

あまりの事に声もなく固まっていたモナに男は気づき、垂れていた頭を上げこちらを向いた。

血に染まり、かすり傷が付いたりはしていたが男の顔は綺麗だった。

綺麗というのもおかしいのだが・・・なかなかの男ぶりで、肩につかないくらいのまっすぐの黒髪に深紅の瞳をした男だ。

「・・・?」

男は何かを言おうとしたが声になっていない。

口の動きからすると”誰だ?”とでも言ったのかもしれないが。

ここでハッとしてモナは声をかけながら動いた。

「大丈夫、ですか・・・?あ、ここ開けますね?えい!」

持っていた短剣を錠の部分に刃を「カツンッ」と当てた。

次の瞬間、火花が散り錠が落ちた。

驚きのあまりに思わず短剣を落としそうになるモナ。

同時に、今度は聞き取れるかすれた声がした。

「・・・魔道、師・・・なのか?」

男のものと思われる低い声が響いた。

もう一は続きます!

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