始まりの鎖
はじめましての方も、深海をしてらっしゃる方も新作です。
始まります!
ガチでファンタジーです!
よろしくお願いいたします。
ちなみに古城脱出劇です。
ロリコン多数出演してます(爆笑)。
始まります!
右目が熱い。
目が覚めてからずっとだ。
あの夢を見るようになってからだ。
銀髪の少女が古い城をめぐる夢。
見ていて彼女は何者で、何のためにいるのだろうかと考えてしまう。
なぜなら、彼女たちを見ていると常に頭の端で「実験」と言う言葉が浮かぶのだ。
誰かが彼女たちを、何らかの形で「実験」に使っている。
そうとしか思えなかった。
だから、なんだかいやな気持で仕方がなかった。
私には関係のない夢なのに。
―――『世界に終わりが来るとき、聖なる刻印を持つ者現る』。
それは私の願いの為。
彼の子らをその為に誘う。
『竜の詩人(語り部)』
何時からこうしているのだろうか?
―――この薄暗い地下牢の空気はヒンヤリ湿っていて、カビ臭い・・・。―――
そんな感想を漏らす人物がこの地下牢にいた。
頑丈な鉄格子の中、更に頑丈な枷で首・両手・両足を壁に固定された人物。
本来ならこんな所にいるはずのなさそうな人物である。
年は14,15才くらいだろうか?
折れてしまいそうな細い体の美しい少女がそこにいた。
肩までのまっすぐな青みがかった淡い銀髪をひとまとめにし、漆黒の大きな瞳を虚ろに開いている。
その先には何も見えないのだが、どうもねずみが動き回っている気がする。
いるもののないそこでは、一応見ものだろうか?
白い肌には何滴目だろうか、忘れるほどの水滴が落ち続けていた。
しかし、少女は気にならないのか眉ひとつ動かさない。
―――前、食事が運ばれてきてからどのくらい経ったんだろう?―――
この暗い地下では時間感覚も麻痺してしまう。
だから食事は時間を知らせる唯一のものだったのだが、どうも1日に2度しか貰っていない気がしてた。
しかも不規則な時間だ。
これでは一体今がいつなのか分からない。
ただ、ここに連れられてこられたあの日から少なくとも1週間は経っているのではないのかと思われた。
だがこの日、少女はいつもとは違う何かを感じ取っていた。
―――静かすぎる―――
いつもなら絶えず、上の城から貴族や国王の家臣達の声がするはずなのに。
夜にしても何かしらの音がしていたし・・・。
それが今は全くしない。
いや、実はもう少し前からしていないのだが。
そのもう少しが一体いつなのかすら、少女にはわからなくなっていた。
カチャンッ
手首を少し持ち上げてみると手枷が鳴った。
衰弱はしていないがあまり長い間動きを封じられていると全身がだるい気がする。
今までにない感覚にため息をつきつつ少女は瞼を閉じた。
カツ―ンッカツーンッ
「・・・。」
音がする。
これは・・・。
―――足音?―――
瞼は下ろしたままで聞き耳を立てる。
カツ―ンッカツーンッ
やはり足音のようだ。
しかも、ひどく不規則な。
酔っぱらいの兵士か?
何かの間違いで入ってきたのかとも思ったが、ここは滅多にひれる場所ではないと言うような事をここに入れられる時に誰かが言っていた気がする。
だから思い出すと同時に即、違うと間歩らを開く。
暗くてほとんど何も見えないが、慣れてくると大まかには見えてくる。
それでもほとんどは記憶の中にある風景と照らし合わせているのだが。
今捕らわれているこの大きな地下牢は壁などはなく、目の前の大きな通路の両脇に数十の老がある。
正面の通路の左の方に地上へと続く階段が。
右方向は行き止まりで、壁には奇妙な彫刻があるだけであった。
だから、入口からはほぼ死角などなかった。
カツ―ンッカツーンッ
「・・・。」
音が近づいてきて、牢の目の前まで来て止まった。
ガッチャンッ
「・・・。」
おそらく牢の扉を止めていた錠が落ちた音だろう。
思わず出口のほうを向いた。
そこには男が立っていた。
手に持っていたランプの光がまぶしくて、ここで初めて眉をしかめた少女は口を開いた。
「食事ですか?」
「・・・。」
少女の問いに全く反応する事無く、男は無言で目の前まで来て止まる。
ガチャンッガチャンッドサッ
「・・・!」
体を壁に貼り付けていた枷が落ち、同時に支えを失った体が重力のままに床に沈んだ。
何が起きたの分からず目を白黒させつつ目の前の男に目をやると同時に男も床に沈み込み座り込んだ。
「・・・。」
呼吸がかなり乱れ、暗い地下を唯一照らしているランプの光が男の額を流れる大粒の汗を光らせた。
汗と同時に男の腹でも何かが、今度はどす黒い光を反射させた。
「その傷は・・・?」
思わず口を開いて男をのぞき込む少女。
どうやら男はこの城の兵士の様で支給品の白い甲冑を身に着けていた。
その白い甲冑の腹の部分は赤く染まり、大量の血が染み出ている。
傷から男の顔へと視線を移すと目が合い、男が口を開いた。
「・・・ここから、逃げるんだ。」
同時に持っていた袋を少女に押し付けてきた。
袋の重みを腕に感じながら少女は怪訝そうに、何でそんな事をこの城の兵士であろうこの男が言うのかと首をかしげながら口を開いた。
「・・・逃げる?どこへ?脱獄しろって事?」
あっけらかんとした少女の返答に男は苦々しそうな顔で首を振る。
「・・・違、う。隊長が言っていた。お前は世界の終わりを告げる者じゃないと・・・。王が隊長の言葉に耳を貸していれば・・・!」
「・・・?」
何の事だろうかとさらに不審に思いながら少女は男と視線を合わせ、次の言葉を待つ。
男はそんな少女の反応が煩わしくなったのか、さらに続ける。
「とにかく、ここを・・・!」
「貴方は?」
さえぎるように少女が割り込む。
「私は、この通り動けない・・・。行・・・け。」
言いながら腹の傷に視線を落とす。
同時にゴボリッと血の塊を吐き出し男は横に倒れこんでしまった。
ほんの数秒のうちに起きた出来事を収拾出来ず固まる少女。
だが慌てて男の肩を揺さぶるがすでに息をしていない。
これは悪い夢だ。
そう思おうとしたが指先でぬめる男の血に現実に引き戻される。
秘話化に震える指を男から離す。
「・・・一体、何が?」
呟き後ろに倒れこもうとしたが、男が押し付けてきた袋が引っ掛かった。
そういえば先ほどは咄嗟に後ろに放り出してしまっていたのだと思い出す。
思い出したら男から少し離れて背を向け、1度深呼吸をして座る。
まだ胃からこみ上げて来る物はあったがとにかく男が押し付けて来た袋を改めて開いた。
まず目に入ったのは細い短剣であった。
1度鞘から短剣を引き抜いた少女はポカンッとした様子で呟いた。
「・・・贅沢な短剣。」
短剣には派手な装飾はなかったが鮮やかな藍色の握り部分と銀で出来たつかの部分等はかなり上等な物である。
改めて握ると護身用にもならないんじゃないかと思うほどに細い短剣だ。
長さは大体20cmくらいで、つかの部分に何かをはめ込むような内側にこすった様な傷が付いた輪っかがある。
まるで少し大きな指輪かと思うような銀で出来た輪である。
「・・・鞘も高そうだし、金子にでもしろって事?」
そうとしか思えない品だ。
だが今は役に立ちそうにないと再び袋の中を探る。
他にも何かが入っているらしいズタ袋をひっくり返しながら少女はもう1度男を、男だった遺体に目を向けた。
―――一体、何に襲われたっていうの?獣じゃないし、戦争とかでもなさそうだし・・・。―――
刃物で突き刺しても、獣に噛みつかれてもこういう傷はつかないだろう。
どう言えばいいのか?
柔らかい果実をしゃぶった時の様な傷だ。
「一体、何があったんだろう・・・。それに・・・。」
<お前はこの世界の終わりを告げる者じゃないと・・・。>
「どういう意味?」
男の遺体から再び袋の中に視線を戻し黙り込む少女。
傍らに置いた短剣がランプの光を反射させている。
「・・・。」
牢屋の隅でネズミが鳴いている。
それなのに静かすぎる。
あまりにも静かすぎる場所は、いざ何かを考えようと思っても考え事には向かないのか関係ない事ばかりが頭に浮かびまとまらない。
そこまで考えると不意におなかが鳴った。
こんな時でもおなかは減るんだね?と、眉をひそめつつ立ち上がる。
結局袋の中には使えそうな物はほとんどなかった。
最初に見つけた短剣。
小さなリュックの様なカバン。
城の見取り図。
入っていたのは目の前に置いたこれらだけである。
それでもとりあえず袋を背負い、短剣をベルトに差し扉のほうを向いた。
「・・・。」
牢の扉を1歩出た。
そして、もう1度男の方を見て頭を下げ少女は歩き出した。
久しぶりに歩いてみたと言うわりにはしっかり動けそうだと思いながら地上へと続く階段の方へ向かう。
「あ・・・。」
階段の前まで来ると外の明るい光が見えた。
同時に牢の奥からは見えなかったが、入口脇に椅子と机があった事に気付く。
何と言う事はない。
だがなんとなく近付いてみた。
どうと言う事もない質素な木製の机と椅子の様だった。
だがその上に小さな袋が置いてあり、少女は何なのか気になりためらいがちに手に取ってみる。
手にはズシリとした重みが感じられ、長らく使っていなかった腕に伝わってきた。
一体何が入っていたのかと袋を開いてみると、中には・・・。
「・・・綺麗。何これ?」
袋の中には色とりどりの正六面体の石が入っていた。
「赤、青、緑に黄色い・・・石?」
まるで宝石のような輝きを持つ4色の石が5つか6つづつ入っている。
何でこんな物がこんな所にあるのかと考えてみたが分かるはずもなく、とりあえずベルトに引っ掛けると再び上の階を見上げた。
あの兵士の様子だと何かがいるのだろうかと思う。
獣か曲者か、もっと恐ろしい物か?どちらにしろこのままここに立っていてはどうにもならない。
それなのに足が進まない。
自然と額に汗が滲む。
喉がカラカラになっていく。
そのうち飲み込む唾も無くなる所まで来て、ようやくキッと唇をかみしめて階段を1段上がった。
次も十分な時間をかけて踏みしめていく。
やがて石造りの廊下に出た。
どうやら地上の様だ。
どす黒い鉄格子の窓から外が見える。
風を感じる事は出来ないけれど、窓の外の木々は激しく揺れている。
今は夜明け前で真っ暗だが久しぶりに見る月明かりに固く結んだ唇を緩める。
そのまま廊下を進んで行くと木製のドアが現れた。
この外は自由なんだろうか?と、胸中で呟いてドアノブを握る。
そのまま回してドアを押してみた。
その先は、静寂だった。
少しホラー(?)テイストで始まりです。
しばらく続きますが、途中から変わりますので、
お付き合いの方、よろしくお願いいたします。