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店主は護衛と日常を満喫したい  作者: 白縫 綾
1:店主と護衛の一日
5/11

閑話;

+バレンタイン話。

ちょい短めです。

※この投稿の後、充電期間に入ります。


 ある日のことである。


 何やら最近の町は随分賑やかだと思えば、バレンタイン、という行事が出来たらしい。


 いつにない程の熱弁をふるいその説明をするクロークの言葉を聞き流しながら本をぱらぱらとめくっていた彼女は、顔を上げて護衛が帰ってきたのを出迎えた。



「おかえり、レオ」


「ただいま戻りました……」



 どこか疲れた様子にも見えるレオに、怒涛の勢いで話していたクロークがようやく口を閉じて、はて、と首を傾げた。



「荷物、多くないか」



 クロークに代わりの護衛をしてもらっている間、レオは買い物に行っていたのであるが、それにしては、量がやたら多かった。



「どうかしたの?」



 尋ねられて言い淀む護衛にスティナとクロークは眉を上げた。主に聞かれて困ることがあったのか。



「まあ、言われないものは仕方ないけど……で、クロークは何を言ってたっけ」


「バレンタインの話だ、チョコを仲のいい人、あるいは好きな人に渡すとか」



 話を逸らそうとして言った端から、どさりと音がした。

 レオが買い物袋を落とした音らしく、野菜やら何やらがはみ出ているのが見えた。


 ……まさかの図星だったようである。


 一緒に頼んでいた卵の心配をとっさにしてしまったスティナだが、顔を青ざめさせた護衛を放っておく程薄情ではなかった。



「レオ?」


「っ、チョコはいけませんスティナ様!」


「………………ああ、なるほど」



 何となく理解する。何がとは言わないが、きっと恐ろしいものでも見たのだろう。


 涙目の美形もやはり美形には違いないのだという発見をして、スティナは錯乱している護衛を珍しいものだと思いつつ眺めた。





~閑話;バレンタイン話~





「見苦しい様を晒して、申し訳ありません……!」


「落ち着いたならいいのだけど」



 で、どうしたの、と。


 テーブルの上にはいろいろとかわいらしくラッピングされたチョコの山がある。クロークがその内の一つを手にとりふむ、と呟いた。



「狼獣人の女性からか」


「何で分かるんだ……」



 耳を萎れさせるレオにこれ以上追撃をしてもいいのか、と思いつつ、



「この菓子、狼獣人の鼻でも分からないような媚薬が仕込まれてるが」


「…………」



 結局言ってしまったクロークに、レオはありありと分かるほどに嫌そうな顔をした。

 何やら厄介事に巻き込まれたらしい。


 魔術師からかくかくしかじかと事情を聞く。

 正直、解析と解毒の魔術が使えるならどうってことはないのだが、あいにくレオは身体強化魔術しか習得していない脳筋である。スティナのためにも前々から習得を迷っていたのだが、それでようやく決心がついたらしい。

 後でクロークに教えてもらおうと思いつつ、する必要もない弁明をする。



「スティナ様、勘違いしないでいただきたいのですが俺は貴女こそを至上としていますのでそれ以外の者など、俺にはどうだっていいのですどうか分かってください」


「……うん、お前がひどい目に遭ったのは何となく分かったよ」



 やはりまだ落ち着けていないようである。

 レオの言動にクロークが呆れたような目をするのを視界の端に捉えつつ、そっとスティナはその手を撫でた。


 何せレオは美形である。美形に女が群がるのは必然なのだ。

 一度忠誠を誓った狼獣人がその主以外見向きもしなくなるとはいえ、それが好きにならない理由とはならない。

 逆にスティナに対して向けるその瞳に宿る熱が、更に女性を引き付けているとは、なんともまあ不憫なことである。


 宥めるように彼の手の甲をさすりながら、スティナはクロークの方に顔だけ向き直った。



「で、クローク、人がもらったものを食べるのはどうかと思うんだけど」


「解毒の魔術をかけたから問題ない、心配するな……で、全部もらっていいか。タダで」


「レオがいいと言うなら私は何も言わないけどもさ」



 もともとその、バレンタインやらを口実にもっとお菓子をたかるつもりだったんでしょう、と。

 スティナがそういえば、そのための熱弁だということを見透かされて逆に開きなおったようである。


 彼女は口をもぐつかせる魔術師から視線を外し、レオに尋ねれば、切実な表情で「むしろもらってください」という答えが返ってきて。


 無表情の下で「ああ、大変そうだ」とそんなことを思った。





 ✥  ✥  ✥





「というわけだから、しばらくクロークは来ないんじゃないかな」


「ぐぬぬ、なんという伏兵っ! レオ君この罪は重いぞ覚悟しろ!」


「あの、主……これは?」


「お前のせいじゃないから気にしなくていい。ペトカ、君もレオのトラウマを掘り返さなくていいから」



 どうやら既に遅かったらしい。

 何やら負けたような気分になりつつもすとん、と椅子に腰を降ろしたペトカと昼のこと(トラウマ)を掘り返されて顔をしかめたレオに紅茶が差し出されて、ちびちびと飲む。

 ペトカが唇を尖らせてだって、と言った。



「せっかく作ってきたのに……」


「保存できるんだから、機会はあるさ。何なら知らせておいたっていい」



 時間があるなら多分来れるのだろうから。

 スティナはくすんだ金の髪を一回撫で付けてからぷちり、と一本引き抜き魔力を込める。と、それはたちまちくすんだ金の鳥の姿になって窓を通り抜けて飛んでいった。

レオが咎めるように彼女を見やる。



「そういうことは俺がやりますから」


「次からは頼むさ」



 無表情で小さく肩を竦めて紅茶に口をつける。

 その様子は何の気もないように見えて、ペトカもつい顔をしかめる。


 事実、これは魔力さえあれば誰でもできる――魔術師でなくとも魔術を日常的に扱っているならば可能な程度の――技術である。

 相応のコントロール力が必要とされるが、気軽に知り合いに伝言等を伝えたりすることができるので使う者も多い。スティナも並程度にはできるし、レオだって身体強化を部位ごとに使うので操作は得意だ。だが、食事以外は基本店に引きこもる彼女が使うかといえば、全く使わない。


 先程も、「そういえばこんなのあったから使おうかな」くらいにしか思っていなかっただろう。


 ペトカは、もちろんこのものぐさな友人が自分のためにしてくれたことであるのは嬉しかったが、とはいえ、レオがどれだけスティナを大事に思っているかを知っているので。


 それを思うと――確かに過保護だとは思うが――それに対する彼女の気のなさは問題であるのだろう、と思った。



「スティナ、あんたレオ君大事にしてあげなさいよ」


「……大事にはしてるよ」



 ただ、負わせるものが多すぎるのだから。

 スティナだって少しくらいは自分でやろうと思う時はあるのだ。


 だが残念、いくら友人であろうとそんなことを本人(レオ)の前では言えないし、それを言ったところで聞いているのは常に美男子の味方のペトカである。



「やってくれると言ってるんだから主人らしく任せとけばいいの!」



 まあ、それでレオが満足してくれるのなら、スティナもそうするのだが。

 ペトカに返事するその前に何かが店の中に入ってきて、それに目を取られる。



「あ、返事」


「ちょっとスティナ聞いてるの!?」


「早いですね」


「えぇ、無視……うん、知ってた。スティナとレオ君がこんななのは今に始まったことじゃないもの」



 早い返事だった。

 彼に限ってそんなことは考えられないのだが、暇していたのかというくらいには早い返事だった。

 窓からミニマムな黒犬が駆け込んできて、クロークの声で言う。



『夜に取りに行く。ついでに飯も頼む』



 それだけ話してふっ、と掻き消えた。

 どちらがメインか分からない、とは言えない。何せ家事能力ゼロである。主従は二人同時にそう思って、口を慎んだ。

 その一方で、ペトカは返事の内容に固まっている。



「飯って……え?」


「クロークは料理ができないからね。ペトカ、君はむしろ普通の料理の練習をした方がいい」



 お菓子屋の君にとっては範囲外かもしれないけどさ、と言うと、一瞬考え込むような顔をした後にペトカはおもむろに椅子から立ち上がった。



「帰る?」


「用事思い出したから!」



 帰る、と慌ただしく出ていったあとにぽつん、といつものバスケットが残された。



「……忙しい人ですね」


「ペトカらしいよ」



 そう呟き、少しだけほほ笑んでからスティナもまた立ち上がった。



「レオ、お前は店番していてね」


「何かなさるおつもりで?」


「『好きな人に渡す』んだろう?」



 その意味を遅れて悟り「スティナ様!」と叫んだ時の護衛の顔を他の人に見られていなくてよかった、と後に彼女は語る。





 ✥  ✥  ✥





 クロークがやって来たのはあまりにも遅いと二人が食事をとり終えてしまった後だった。何となく服がよれよれしていて、スティナはわずかに眉を上げた。



「なんだかボロボロだけど」


「こっちが仕事してる途中に女から連絡が来てみろ。部下からは質問攻めにされるに決まっている。ここまでも、何度か撒いてやっと来れた」



 これだから不真面目(ニート)は、と険しい顔でボサボサになった髪を直しつつ席に座る。

 スティナとレオもその向かいに腰掛けた。



それ(ニート)については関係ない、と言いたいとこだけれどね。お詫びも込めて、はい」



 す、と夕食とは別の皿を手渡されて、クロークは意外そうに目をしばたかせる。



「お前が?」


「……君は私を何だと思ってるのかな」



 普通の食事が作れるのに菓子が作れないという道理はないだろう。

 そう抗議して、スティナも自分が作ったそのチョコを一つ摘み、護衛の口に放り込んだ。




【バレンタイン】

※レオは美形。

それだけで大体のことは納得できる。

でもどう見えようと今の段階では彼らはあくまでも主従である。今の段階では。


涙目の犬耳美形とか誰得なのだろう。


【連絡手段】

自分の髪に魔力を通し何らかの形を生成する。相手の魔力を知っていればそれを目印(マーカー)にして生成したものを送り付けることができる。言葉を乗せることが可能。

なお、役目を終えれば生成されたものは消滅する模様。


【ジャンル:恋愛にあるまじき無糖】

スティナ視点からすると(まだ)恋愛感情はない。あって親愛。

無表情系美人は伊達ではないのである。


※評価、感想などもらうと狂喜乱舞します。

変なところとか、誤字報告とかあればよろしくお願いします。


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