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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天使な私と豚な俺の両片想い

作者: 黒城ルミ

二日クオリティ。誤字脱字等がありましたら申し訳ありません。設定が生かしきれてません。いじめ?描写あり。

お暇な時にどうぞ。


連載更新しないでごめんなさい。まだ書いてるのがモブ子の途中で終わってる………orz


私、御坂(ミサカ) (アカネ)は彼、寺井(テライ) 翔天(ショウマ)のことが好きだ。



彼とは幼馴染だが親愛としてではなく、異性として好きだ。like(ライク)じゃないlove(ラブ)なのだ。

彼とは家が隣同士で、お互いの両親も友達同士だから、一緒にまとめて面倒見ようという感じで遊んでた。

彼は小さい頃からとっっっても意地悪だった。

カエル投げてくるし(私は平気だったが彼の方にカエルが飛んで涙目で逃げてた)、

髪引っ張ってくるし(彼のお兄さんに見つかって逆に引っ張られてた)、

蔵の中に閉じ込めるし(私が暗くて寝ちゃったら泣き怒りながら起こされた)、

外で遊んでたら私を置いてどっか行っちゃうし(諦めてその場にいたら泣きながら探しに来てくれた)、

馬鹿って言ってくるし(テストの点数は私の方が上だったから悔しそうだった)、

私の物を隠すし(私は予備を常に持っていたから気づかなかったこともあった)、

虫を持ってきたりしなかった(彼は虫が苦手だ)、

………まあ、彼は色々ないたずらを私に仕掛けてきたのだ。小さい頃はそれがイヤでイヤで一時期は本当に彼のことが嫌いだった。


でも、彼にも優しい一面というものがあるのだ。

私を野犬から守ろうとしてくれたり(近所の山田さんの飼い犬で私に懐いていた)、

転んで怪我した私を家までおぶってくれたり(彼は途中でばててしまったから両親が迎えに来てくれてた)、

私が飼ってた小鳥が死んだときは一緒にいてくれたし(彼も一緒に泣いてた)、

怖い夢を見たら一緒に寝てくれたし(私の怖い夢の内容を聞いた彼は震えてた)、

寝込んだら看病してくれたし(その後彼も寝込んだ)、

私が他の子にちょっかいかけられたら威嚇してたし(勇ましく立ち向かう彼の足は震えていた)、

私の好きな食べ物は譲ってくれたし(大抵彼の嫌いな食べ物だった)、

………まあ、彼にだっていい所はあるのだ。そのためか、嫌いと言ってもいつの間にか一緒にいたこともあった。


彼には意地悪なこともされたが、同じくらい優しくもされた。

いつからかは分からないけど、私にとって彼はなくてはならない存在となってしまった。

自然と彼のことを目で追ってしまうし、彼が他の子と話してると私の方を向いてくれないかなとか思ったり、一日でも彼の姿を見ないと悲しい一日だったと感じてしまう。

私の恋の病は末期だ。そんなの一時期の気の迷いだと嘲笑ってくれても構わない。

私にとって彼は唯一無二なのだ。




同い年の私と彼も、もう高校三年生だ。

二年の時だけ違うクラスになった時は、彼を一目見るだけに廊下に出ていた。それによって、私の友達がぞろぞろ付いて来て廊下を塞いでいたこともあった。あれでは彼も出ようと思わず、出てきてくれないことが自分の容姿を恨むことになった。


学校にはスクールカーストという階級が存在する。あくまで私の学校の話なので他の学校がどうかは知らない。

クラスの中にも階級があって、私は上位のヒエラルキーに存在していると思う。最上位といってもいい。

残念ながらうぬぼれではない。

ここで私の容姿について解説しておこう。

まず私の両親は日本人特有の黒髪だが、私はふわふわ綿菓子のような金髪だ(友人談・他称)。どうやら隔世遺伝というもので祖母が欧米系の人だったらしい。

目もくりくりのお人形のような蒼い宝石のような瞳というものらしい(同じく友人談・他称)。

顔も街を歩けば芸能プロダクションのスカウトに会うぐらいだ。

祖母の血が濃かった私は周りの人より彫りが深く、黙っていると本当に精巧な人形に見えるらしい。

人付き合いも悪い方ではなかったし、大好きな彼に見てもらうためにオシャレにも気をつけた。

頭の出来も悪くはないし、運動だって音痴というほどではない。

金髪碧眼で美人で頭もセンスも人付き合いも悪くないとくれば、人が集まるのは時間の問題だった。


対して彼はカーストの中でも最下位のヒエラルキーに属しているようだ。

他の子たちの彼に対しての認識というのは周りにいる子達が勝手に喋ってくれる。私が彼のことを好きだという事を知らないのだから、心無い人たちが集まっても仕方ないことなのだけれどね。

デブ、巨体、地味、根暗、キモイ………なんていうのが周りの、彼に対する評価だ。

デブでもいいじゃない、ぷにぷにで可愛いのにとか、大きくて安心感あるじゃないとか、彼は内弁慶なだけよとか、キモイなんてあなたの目腐ってんじゃないのとか、言いたいことはいっぱいあっても口にしたことはない。


彼の事を好きな私だが、実はこの心の内は誰にも明かしたことはない。それは恥ずかしさからくるものではない。

私は自信がないのだ。彼に愛される自信が。

本当は彼が悪く言われたら言い返したいけど、彼の迷惑になってしまうから口を挟むことはできない。小説を読んで、極力目立たちたくない人っているのが知ってからはなるべく彼には関わるのを避けた。

というか私が避ける前に彼は私を避けていたから、私も極力学校では関わらないようにした。

家では普段通りの彼だから安心するんだけど、学校の付き合いとかがあると家でも会えないことがあるから寂しい。

彼に私の好きだって気持ちを伝えてあわよくばと思うんだけど、臆病な私は彼に近づくこともできない。近付いたらきっと迷惑になってしまうし、彼が傷つくのを見るのも嫌だし、彼に嫌われるのも嫌だ。

何より私がこの想いを伝えたら彼が私を捨ててしまうんじゃないかと思ってしまう。

世の中には色んな人がいる。彼が私を手酷く捨てるなんてありえないと思っているのに、もしかしたらなんて思ってしまう。

でも、たぶん、彼が私から離れていってしまったら私はもう、ダメだと思う。

私の彼への想いは執着の域にまで来てしまっている。

それこそ彼が知ってしまったら、私から離れて行くぐらいに。

彼に嫌われる事を恐れている私は、自分が何もしないのに彼が離れて行く事を恐れている。

滑稽なことだと自分でも思っている。


ああ、でももし、彼が私のことを好きだといったなら、私はもう一生………彼から離れられない。




「御坂さん………御坂、アカネっ」

夕暮れ時の放課後、友達や周りの子たちとお喋りをしながら鞄に明日の予習のための教材を詰めている時だった。

一瞬どころか名前呼ばれても本当に気づかなかった。

学校で彼の声を間近で聞くことなんてなかったし、御坂さん(・・・・)なんて他人行儀で彼に呼ばれたのも初めてで、家にいる時のようにアカネって呼ばれるまで彼だと気づかなかった。

「なに?しょうまくん」

家で彼を呼ぶ時のように言うと、彼は目を隠すように垂れた前髪の隙間からじろりと睨んでくる。

あ、やばい、つい癖で。

「っと、何か用?寺井君」

言い直したんだけど、彼はしょうがないと言うように見下ろした視線を横にずらした。

「………御坂さんのお母さんが、今日はお父さんと出かけることになったからお留守番よろしくって伝えてくれって朝頼まれた」

………お母さん、朝言ってくれればいいのに。忘れてたな。まったく、夕飯の買い出ししなくちゃいけなくなった。

しょうまくんも早く言ってくれればいいのに………と思ったけど、私の周りに人が集まっているから言い出しづらかったのだろう。彼は人付き合いが苦手だから。

帰りも一緒に帰ったりしないから、放課後の今、言ってくれたのだろう。

「うん、分かった。ありがとう」

「いや、いい………」

そうぼそりと言って彼はそそくさと鞄を持って帰ってしまった。

「なに、あれ」

「感じわるぅー」

「茜、知り合いなの?」

軽い会話の中、聞かれた。

「………ううん。ただの幼馴染」

それ以上は答えずに、今日は早く帰んないといけないからじゃぁねと言って教室から出た。

胸にツキンと針が刺さったようだった。





初めて学校で彼が私に話しかけてきて、数日後のことだった。

天気が定まらないこの季節は、夕立なんて日常茶飯事で、空が沈んだように暗く曇っていた。

傘を持ってきていない私は嫌な予感がしたから急いで帰りたかったが、私にとって知り合いぐらいの子達が今日に限って引き止めてきた。

友人たちも帰ったから離して欲しかったが、鬱陶しいぐらいニヤついて言うのだ。

「面白いものが見られるからさ、ちょっと付き合ってよ。茜ちゃんのためだから、ね?」

よく分からなかったけど、何が私のためなのか。私が濡れて帰って、風邪を引くことがいいことなのだろうか。

いくら私が帰りたい理由を言っても、聞く耳持たず、いいからいいからとしか言わない。怒っていいよね?


私がクラスの子達(格下げしました)に連れてこられた場所は、校舎裏の使われてない体育館倉庫だった。

「え………?」

そこにいたのは――――

「キモ豚のくせに生意気なんだよ、身の程を知れってねぇ?」

――――逃げれないように手足を縛られた、全裸のしょうまくんだった。



----



俺は寺井(テライ) 翔天(ショウマ)。高校三年のどこにでもいる………一人か二人はいる普通の男子高校生だ。

自分でも自覚しているが、俺は初めて見たら思わず後ずさるぐらいの巨体でデブだ。おまけに面倒で切ってなかった長い前髪と、意気地なしという性格のせいで根暗とか地味とか言われてる。そのおかげで学校の立ち位置的には底辺とも言える。


こんな俺だが、俺は身の程知らずの恋をしている。

御坂(ミサカ) (アカネ)。彼女と俺の関係を言い表すなら幼馴染といったところだ。

まだ俺も彼女も碌に喋れない頃には気づいたら常に一緒にいた。

彼女の容姿は今も昔も変わらず天使のような姿だが、生まれて間もない頃から一緒にいると見慣れたものだ。

俺にとっては彼女が俺の行動でころころと表情を変えるのが嬉しくて、ドキドキしていた。多少意地悪なこともしていたが、好きな子を苛めてしまうのは男子の(さが)というものだろう。


彼女は基本無表情だが、よく見ると感情豊かだ。

カエルをプレゼントしたときは笑ってくれたし(俺が逃げる姿を見て笑っていたような気もするが)、

髪についてたゴミを取ろうと引っ張たら苦笑いしたし(俺が兄ちゃんにやられてる姿を見てだが)、

蔵で遊んだ後にいないと気づいて必死に探したら寝起きで驚いてたし(俺の形相に引いてた感じもしたが)、

外で遊んでた時も気づいたらいなくて見つけたらホッと安堵したようにしてたし(彼女は意外に鈍い)、

危険な事を平気でしようとするから馬鹿と言ったら拗ねたようにするし(そのくせ勉強はできるから解せない)、

彼女を狙った変態から彼女の私物を守ろうとすると困った顔をするし(予備という名の俺のを使わせてた)、

………まあ、傍から見れば彼女の表情筋は働いてなかったそうだが、彼女は周りが言うような人形じゃないのだ。

彼女は頭はいいんだが、抜けているというか、普通じゃない思考回路をたまに発揮するから目が離せない。

気づいたら彼女がいることが当たり前で、なくてはならない存在になっていた。


だけど成長していき、彼女以外の周りと接していくと俺は彼女と一緒にいてはいけない存在のように感じられた。

彼女は花のように咲き誇る光だが、俺はそこらの影に生えた雑草だ。

そう考えると彼女と前と同じように接することができなくて、察した彼女も学校や人の目があるとことでは接触してこなかった。それを寂しいと感じてしまうのは俺の我儘だって分かってんだけど、二人だけの時は昔と変わらず接してくれる彼女を見ると自分が嫌になる。

いつかは彼女もダメな俺に気づいて離れて行くのは分かっている。分かっているからこそ、この甘酸っぱくて苦い彼女への想いを諦めなければいけない。大丈夫。叶うはずのない恋なのだから俺が告白しなければ、この幼馴染という関係も今までの綺麗な思い出もそのままになるはずだ。

そして、この関係(幼馴染)をできる限り続けるために学校で致命的なことがあってはいけない。いつかは諦めて消えていく想いだが、頭では分かっていても彼女に嫌われたくないという願いはどうしようもない。

せめて影から彼女の姿を眺めるのは許して欲しい。彼女は人の上に立つ光なのだから、俺のような人の後ろに蹲った影に気づくはずはない。何も起こらなければ。



ある時彼女の母親に偶然出会った時に頼まれた伝言を伝えるために、高校に入ってから、いや小学校の時以来初めて学校で彼女に声をかけた。

彼女は俺が話しかけてくると思わなかったのか驚いた顔をしていたけど、とても嬉しそうな顔をしていた。

思わず目を逸らしてしまって、気まずくなったから思わず教室から逃げるように出てしまった。

俺はこの時久しぶりに彼女と話せて、笑顔も見れたから有頂天だった。


それが、まさかこんなことになるなんて。

「寺井さー、お前如きが御坂さんと話すなんて生意気なんだよねぇ………」

「え………?」

帰り際のことだった。

いつものように荷物を鞄に詰めてさっさと居心地の悪い教室から出て、いつも決まって通る人通りの少ない落ち着いて歩ける廊下を渡ろうと角を曲がった時だ。

滅多に人が通ることなんてないから少しは驚いたけど、通り過ぎようとしたら声をかけられた。それがさっきの、お前生意気という発言だ。

話しかけられるなんて思ってもみなかったから正直その後に続いた言葉を半分も理解してなかった。ただ、俺がアカネにこの前話しかけたことや、俺が彼女と幼馴染であること、なんか気に食わないなどなどの特に俺が悪いことって?というような内容だった気がする。

話しかけたことと幼馴染であることは俺にはどうしようもないことだが、なんとなくで気に食わないのは俺の悪いところがありすぎだからか。

話しかけてきたのは髪をうっすらと茶色に染めたチャラそうな男子で、その周りにはよくアカネの周りにいる女子と男子が合わせて五人ぐらいいた。みんなニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていて、防衛本能が働いた俺は無意識に後ずさっていた。

「――――ってことで、自分の立ち位置も分かんない豚には分からせてあげないとねぇ?」

「え?ぐぁっ!?」

腹に衝撃が走った。

後ろに吹っ飛んだ俺は続いた頭への衝撃によって意識を失った。





「おい、起きろ豚っ!!」

また腹に衝撃が入って、目を覚まさせられた。

頭と腹がズキズキと痛かった。他の場所も固いところに放り出された時に打ったようで痛むところがある。それに固いところと接している左半身が冷たい………?

目を開けると、灰色の所々が黒ずんだコンクリートの床に転がされていることが分かった。床の上にはマットやハードル、ライン引きなどが置いてある。さしずめ、校舎裏の体育倉庫だろうか。

視線を上げると、さっき話しかけてきたチャラ男がイライラとタバコの煙を吐き、床に落としたタバコを靴裏で踏みにじった。

「てめぇ、重すぎんだよ!くそっ、このデブがっ!!」

また蹴られた。今度は胸だ。直接伝わる靴の感触が気持ち悪い。

俺は全裸にされていた。手も足も動かない。縄か何かで後ろ手に縛られていた。

なんでこんなことになってるんだと周りを見渡せば、気を失う前に見た面々が揃っていた。女子は俺の方を見て顔を顰めていたが、男子はニヤニヤとした笑みを浮かべたままだ。

「んじゃ、うちは茜ちゃん連れてくるねー」

といって女子の一人が出て行った。だけど、アカネって………?

「お前って、御坂さんのこと好きなんだろ」

俺を見ていた周りの男子の一人は質問ではなく、分かりきったように断言した。

呆然と、その嘲笑うような目を俺は見上げた。

「分かりやすすぎなのよ。いやらしい目で御坂さんを見てんじゃねーよ、この豚が」

その男子の隣にいた女子が蔑んだ目で見下ろしながら吐き捨てた。

いや、俺はそんな目で見たことなんて………あるな。

「そ、そうだぞ。御坂さんをそ、そんな目で見るなんて許せんなっ」

「う、うん、だよな。お、俺はそんな目で見たことなんてないぞっ」

妙にどもって言い訳のように喋る男子勢には同情を禁じえない。女子の視線が俺だけじゃなく一緒にいる男子にも突き刺さった。


妙な空気で沈黙が支配し、どれくらいかの時間が過ぎた。

長かったのか短かったのかは分からなかった。時間なんて気にしてられなかった。

一番の問題はここにアカネが来ることだ。

もし、アカネがこんな俺の姿を見たら幻滅するだろう。いや、絶対する。彼らもそれを見越して俺を拉致してきたのだろう。

それに彼らの口から、俺がアカネのことが好きだってばらされたら終わる。幼馴染でさえいられなくなる。

どうにかこの状況を打開しなくてはと焦って考えても、無情に時間は過ぎていくだけだった。


足音が聞こえてきた。

この体育倉庫を使う部活動の人ではない。来週がテストのため部活はテスト休みとなっているから、必然的にここに来る人はいない。違う目的がない限りだ。

「ちょっと、私は今日用事があるから帰りんたいんだけど」

外から足音に続いて若干苛つた声音でアカネが言ったのが聞こえた。

「ね、ちょっとだけだから。ほら、もう着いたからさ!」

最終通告のように扉に手が掛かる音がする。

本格的にやばいと思った。アカネの機嫌が悪いのが俺には分かるのに、誰も焦った感じはしない。アカネが怒っても大抵の人は気づかないが、アカネは天使のように見えて結構容赦ないから早くここから逃げ出したかった。

最後の悪足掻きだと分かっていても、身を捩って抜け出そうと奮闘する。誰も俺の邪魔をしようとはしなかった。みんな生き途絶える寸前の獲物を楽しむような捕食者の目で俺を見下ろしていた。




「え………?」

無常にも扉は開いたが、幸いなことに暗く澱んだ空で影が差してアカネの顔は見えなかった。

今、アカネがどんな顔をして俺を見下ろしているかなんて知りたくない。ただ、驚いたような声に嫌悪の色がなかったことが救いだった。

「キモ豚のくせに生意気なんだよ、身の程を知れってねぇ?」

アカネを連れてきた女子が何かを言っていたが、俺はアカネのことを考えると絶望的な気持ちになって顔を俯かせた。

雨が降り出す音が聞こえ始め、全ての音を遮断してくれればいいのにと思った。

「ねぇ、御坂さんってこいつの幼馴染なんだろ。可哀想に、こんな豚が毎日付きまとってくるなんてな」

「そうそう。アカネなんて呼んじゃってさ、気安く呼ぶなっての」

「だからさ、こいつに現実を見せてやろうってね」

雨なんか降っても、楽しそうに話す言葉は耳に入っても通り抜けていった。ただ、アカネが無言のまま何も言わなかったのが恐ろしく感じていた。

明日からはこれまでのように家で会うこともない。幼馴染としての笑顔も向けてもらえなくなる。きっと会ったら嫌悪の眼差しで見られるだろう。それを考えてると、アカネに対する想いなんて早く諦めておけばよかったという後悔の念に駆られた。

「なぁ、茜ちゃん知ってる?寺井って茜ちゃんのこと好きなんだって。信じらんないよねぇ」

雨の煩わしい音と俺を罵倒する言葉の中で、決定的な言葉がアカネに伝えられてしまった。

「おい、豚。お前からもちゃんと言えよ、最後なんだからさ」

明らかに嗤いを含んだ声が脳内に響く。

もう、ヤケだ。

「…ずっと、……ずっと小さい頃から、アカネが……好きだ………ごめん」

終わった。

俺はもう諦めていた。どうしようもない。アカネとはもう………

「ほん、とうに………?」

喧騒の中でアカネの透き通った鈴の音のような声は小さな呟きだったにも関わらず、全員の耳に届いた。その声は少し震えているようにも感じられた。

途端に空間は静寂をもたらし、激しく降る雨の音だけになる。

コツンと、ローファーが床に着いた音がした。最初は恐る恐るだったその音は続き、迷いなく俺の目の前で止まった。

下を向いた俺の視界の端に、綺麗に磨かれたローファーのつま先が見える。

視線を上げる気にはなれなかった。アカネも周りも黙ったままの空間は居心地が悪くて、身を僅かに縮こませた。

もう、終わらせてくれ。

「しょうまくんっ!!!」

アカネの嬉しそうな声が降ってきたと同時に俺は抱きしめられた。アカネが好んで付ける花の香りがするコロンと、ふわふわの柔らい金髪が鼻をくすぐる。

俺は思わず俯いた顔を上げた。視界にアカネの顔は映らなかったが、俺の胸に顔を埋めて抱きついてるアカネの姿が映った。

「え、え?あ、アカネ??」

もう、俺の頭ん中は疑問符だらけだった。アカネの不機嫌さえも消えてるし、むしろ浮かれまくって嬉しそうな雰囲気が分かる。

考えても答えの出ない出来事に思わず視線を彷徨わせると、俺と同じように困惑した面々が口を開けて突っ立ってた。

「ふふ、しょうまく~ん」

今、絶対に最後にハートマークがついた。そんなしょうもないことを考えて、思わず現実逃避してしまう。

アカネは周りのことなんて構わずに俺に頬ずりまでしてきた。だめだ、自分の世界に入ってしまっている。

「アカネ!!」

アカネ以外の全員が呆然としている間にアカネは俺の手足の縄を取っていた。アカネの奇行はたまにある。学校で見ることはないが、長い付き合いだから俺は周りよりも早く再起動した。

そして、アカネをまずは自分の体から引き剥がす。さすがに全裸状態で好きな子に抱きつかれたら危ない。特に息子が。

「と、とりあえず、座れ。いいな?」

「うん」

そう返事をして正座するアカネ。俺がアカネの奇行について問い詰める時のお馴染みになっているから、自然と俺も正座してアカネに向き合う。

「まず、なんで俺に抱きついた?」

「しょうまくんが好きだから、しょうまくんが私を好きだと聞いて我慢できませんでした」

『は………?』

俺と周りの声が一致した。アカネが言ったことが耳には入ったが、頭が理解しようとしないのだ。

アカネはそんな俺も周りもおいて、勝手に言葉を続ける。

「私はずっとしょうまくんのことが好きです。愛してます。………しょうまくんは迷惑かもしれないけど、こんな姿のしょうまくんを見たら我慢できませんでした。しょうまくん、お願い、私を捨てないで………好きなの」

最後にはアカネの声は震えていた。それでも俺から目を逸らさず縋る様に、固まった俺を見つめて手を伸ばす。アカネの手は俺の頬に添えられ、アカネの体が釣られるように引き寄せてきて―――

「しょうまくんは私のこと好き………?」

キスをした。




俺の理性は完全に切れていた。

ホコリよけの大きめなカバーを体に巻きつけ、呆けたアカネを抱き上げ、未だ呆然としている周りを無視して体育館倉庫を飛び出した。

雨は通り雨だったようで、暗く澱んだ雲は跡形もなかった。

人生で一番最速だったと言えるスピードで家に帰った。もちろん腕に抱いたアカネも一緒に俺の部屋に連れてきた。幸い親はいなかったから、この状態に突っ込んでこられることはなかった。

俺は自分の部屋に好きな子と二人きりという状態だからというわけではなく、全力疾走によって動悸と息切れに見舞われていた。

「大丈夫?しょうまくん、無理しちゃだめだよ?」

アカネは俺を心配しながら、背を撫でたり水をくれたりと甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれた。

そうすると俺も落ち着いてきて、自己嫌悪がやってくる。

だが、アカネは俺が落ち着いてきたのを見計らって、戸惑いがちに体をもじもじとさせ、上目遣いで頬を染めて口を開く。か、かわいい………

「しょうまくん………ぁ、あの、部屋に連れてきてくれたってことは、あの、そういうのき、期待してもいいのかな………?」

自信がないのか震える声と僅かに濡れた蒼い瞳が俺に問いかける。さらに頬は色付き、白い肌が綺麗に赤く染まるのに目が逸れる。きっと目を直視したら、戻った理性がとんでもないことになる。

だが、答えない俺に不安が募ったのかアカネの顔は見る間に絶望に染まり、今にも消えてしまいそうな思いつめた表情になってしまった。

そんな顔をさせたいんじゃないのに、踏み込んでしまうのが怖い俺は本当に臆病者だ。

「しょうま、くん………」

その声はもはや涙声で、ポロポロと流れる涙なんて見たら、自分のことなんてどうでもよくなった。ただアカネに応えたくて、俺よりも遥かに小さい体を抱きしめた。

「アカネ………俺、アカネのことが好きだ。

………だから、俺はもうアカネから逃げない」



そう言った瞬間のアカネの心底幸せそうな笑顔はこれからも俺の中に二人の思い出として一生残っていく。

きっと、俺たちはどちらかが踏み出せば迷う必要なんてなかった。離れてしまっても、きっと最後には出会っていたと思うが、このきっかけで結ばれてよかったと思っている。

予想以上に執着の強かったアカネだが、俺はそれでも幸せだ。この幸せに終わりなんてないと思えるぐらいに感じられるのだから、きっと運命だったんだって言える。自分でもくさいなって思うんだけど。


「ありがとう、アカリ」

「?どういたしまして?」




晴れ晴れとした青空の下、柔らかく輝く髪と澄んだ空の瞳の彼女は、いつも俺の隣に並んでいた。

読んでいただきありがとうございました。


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