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2015年/短編まとめ

笑顔の攻略、勝率はゼロ

作者: 文崎 美生

「楽しくなくたって笑えますよ」


そう言って俺に見せた彼女の笑顔は、ひどく綺麗でひどく歪だった。

彼女はいつもそうなのだ。

自分の考えを口に出さずに、自分の思いを隠すように笑顔を作る。


だから俺と友人が彼女を見つけた時も、同じように笑みを貼り付けていた。

少しだけ眉を下げて困ったな、とでも言うような笑顔をして、複数の女子に囲まれていたのだ。


俺達がいたのが部室棟。

彼女がいたのがその部室棟と裏の隅っこ。

ジメジメして薄暗い人気の少ない場所で、どう見ても決していい雰囲気ではない状態で複数の女子に囲まれていた。


「……あれ、ヤバくね?」


「女子ってああいうのがデフォルトな訳?過去にも何回か見て来たんだけど」


友人の言葉に、ぐしゃぐしゃと頭を掻いて窓から彼女達の様子を見た。

はめ込み式の窓だから開けられなくて、声は聞こえてこないけれど女の子達が彼女に何かを言っている。

言っていると言うよりは捲し立てている、と言った方が正しいのかもしれない。


それでも彼女の表情が崩れることはない。

少しだけ眉間にシワを寄せていても、笑顔をのせて言葉を選びながら紡いでいた。

女子というものは面倒だな。


外に行くために早歩きをすれば俺に付いて来た友人は「やっぱりお前のせいか」と溜息を吐く。

物凄く不本意なことを言われているが、別に俺が直接何かをしたとかではない。

ましてや間接的に女の子の集団を使って、彼女をいじめるなんてことはしていないし、これからもない。


「お前がちょっかい出すからだろ」


「仕方ねぇだろ。好きなんだし」


悪びれることもなく言えば、友人は思いきを顔を歪めて二度目の溜息を吐いた。

一度目よりも深く長い。

二人で階段を駆け下りて、向かう先はあのジメジメして薄暗い人気の少ない場所。


隣から折角の昼休みが、とか何とか聞こえてきたけれど、俺からすれば昼休みよりも彼女の方が大切だったりする。




***




「私が好かれる理由、ありませんもん」


困ったような声のトーンで彼女が言った。

俺が足を止めれば友人は不思議そうに首を傾ける。

曲がり角から様子を覗けば、彼女は薄汚い部室棟の壁に背中を押し当てられ、囲まれていた。

中から見た時より状況が悪化しているのは一目瞭然だ。


それでも彼女の顔には笑みが貼り付く。

小首を傾げて「私みたいなのじゃない方がいいです」と言った。

何を言っているんだ。


「あの人は面白がってるだけだから、皆さんみたいに小さくて可愛い人の方がいいですよ」


困った笑顔じゃなくてふんわりとした笑顔。

あれも作られてるんだと思うと、女優顔負けな演技力と表情筋だ。


そして彼女の笑顔と言葉に、彼女を囲んでいた女の子の集団はそわそわし始める。

丁寧に朝から何時間もかけて巻いたのであろう髪の毛に、自分の指を絡めて「え、そ、そりゃあ……」なんて満更でもなさそうな声を出す。


こらこら、何勝手なこと言ってるんだ。

俺のタイプは彼女だけだし、俺が好きなのも彼女だけだから、他の女の子には興味ない。

俺からすれば女子高校生の平均身長を越してる彼女でも小さく見えるし、誰よりも彼女が一番可愛いと思う。

恋は盲目、なんてよく言ったものだ。


「俺は大好きなんだけどなぁ。そんなに、伝わらない?」


ガサリ、と音を立てて姿を表せば女の子達が、つけまつ毛やらマスカラの絡んだまつ毛に縁どられた目を大きく丸めた。

彼女だけはまたしても眉を下げた笑み。

あぁ、どうしてこうも表情が変わらないのか。

笑顔を作ることしか知らないのか。


「私は嫌いですよ」


楽しくなくたって彼女は笑う。

泣きたくっても笑うんだ。

だから好きじゃない俺にも、その笑顔をくれる。

勝率は未だゼロ。

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