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第1話 誕生日

 少年は石のブロックが一つ一つ丁寧に並べられた石道の中央を歩いていた。大勢の人がこの石道を行き交っている。道の両端には石造の家が立ち並び、その中の一つの手前で立ち止まった少年は扉を開けて中に入っていった。

 少年の名前は葵マキナ。日本人の父にギリシャ人の母を持つハーフである。ギリシャで生まれたマキナは当時ヨーロッパの流行の最先端を行く錬金術に心を奪われ、物心ついた頃から父の書斎に置いてあった錬金術に関する書物を読み漁っていた。


 そもそも錬金術とは何か。錬金術とは無機物や有機物といった物質を対象とし、それらをより完全な存在に錬成する術の事を指す。四大元素説から始まった錬金術は瞬く間にヨーロッパ中に広まり、今では各地で錬成方法が派生する程である。


 マキナが入った家は自宅だ。二階に上がり、自室に入った。ベッドの上に大の字で転がったマキナは心の底から湧きあがる笑いと高揚感を抑えずにはいられなかった。今日はマキナの誕生日で19歳になる。誕生日を迎えたことで高揚しているわけではない。19歳の誕生日を迎え成人となった今日、マキナは錬金術の専門学校であるトリスメギストス錬金術学院の講師に赴任することが決まっていた。

 この学院で主席だったマキナには講師の資格試験を受ける権利が与えられ、それに合格したのだ。学院の講師に求められる錬金術の才能は、四大元素の錬金術全てが基準に達していることと、その中の得意分野一つが最上位クラスに達していることである。


 ヨーロッパで現在主流の四大元素説はアリストテレスが提唱したもので、火、空気、水、土の四つを「単純物体」と呼び、ほかの物体はこれらで構成されていると説明した。そしてこの「単純物質」は「熱・冷」、「湿・乾」という二対の相反する性質を挙げ、これらの組み合わせによって成り立つという説である。火は熱・乾、空気は熱・湿、水は冷・湿、土は冷・乾という性質から構成されており、性質のひとつが反対の性質に置き換えられることで、相互に転嫁するとされている。


 マキナはこの資格試験を歴代最高の評価で合格した。それもそのはず、通常の錬金術師には得手不得手があり全ての分野を最上位クラスまで極めることは不可能だが、マキナは全ての錬金術のクラスが最上位だからである。その結果、錬金術の歴史が始まって以来の天才などと呼ばれ話題となった。 

 しかし、講師は成人であることも条件にあったため、試験合格の通知が来てから半年間をマキナは待ち続けたというわけだ。

 午後からは学院でこれからの予定などを確認する手筈となっている。その時間まで残り3時間ほど。

「まだ、時間があるけど昼食を済ませておくか」

 ベッドから起き上がると、キッチンで昼食の準備を始めた。出来上がった昼食を食べ終えたマキナは身嗜みを整え、学院へ向かうために家を出た。


 学院に着いたマキナが最初に訪れたのは校長室。挨拶を済ませると、職員室へと向かう。職員室で今後の授業や行事などの話を一通り聞いた後は施設の案内だった。

「毎日通ってましたけど、やっぱりここは広いですね」

「そうですね、寮なども含めると相当なものです」

 案内をしているのはマキナが1年生の時に担任を務めていた教員である。マキナはその教員の後に続く形で敷地内を回っている。元生徒であるだけに、生徒が入れないような場所が中心だ。

 今は離れた棟に向かうために中庭を歩いている。自分の教え子だった生徒がこれから一緒に働くという事でテンションが舞い上がっている元担任の教員は、歩きながらマキナの方を向かずにひたすら教師の苦難や困難、思い出を語っていた。

 最初からこんな先生だったなー、とマキナも過去を振り返る。その時――――、

 マキナの頭上と足元の地面に光る文様が浮かび上がった。

「!?」

 その文様にマキナは心当たりがあった。幼い頃、父の書斎で書物を読んでいた時に見つけた1冊。それには魔術についての記載がなされていた。その書物に書かれていた魔法陣という物にその文様は似ていたのだ。

「これは……魔法陣?」

 魔法陣らしき物は回転を始め、その速度を増していく。それはマキナに狙いを定めているようで、動けば動いた方へとまとわりついてくる。

 高速で回転するそれが発する光は段々と強さを増していく。そして地面と頭上の魔法陣が一際強い光を放ち繋がると同時に、その場から魔法陣とマキナの姿は跡形もなく消えていた。


 マキナが目を開くと、辺りは噴水や植木のあった錬金術学院の中庭ではない。そこは好き放題に生い茂った木々が空を覆わんばかりに広がる森だった。辺りは暗い。

「ここは一体……。それに夜のようだが」

 学院内にいた時は明らかに昼下がりだったことに疑問を抱くマキナは辺りを見回す。すると、真夜中の森だというのに目の前に立つ少女と目が合った。少女は笑顔である。

「で、出たぁぁぁあああああ!!」

 マキナは尻餅をつき後ずさる。それを見た少女は頬を膨らませ、ふくれっ面というものを見せた。

「人をゴーストみたいな扱いしないでください!」

「いやいや、こんな真夜中に森の中で笑顔な少女なんてゴースト以外にいるか? いないだろ!」

「ち、違いますよ」

 少女は両手を使って自分がゴーストだということを否定した。

「じゃあ何で君みたいな女の子が深夜にこんな森の中にいるって言うんだ?」

 マキナはすばやく切り返す。

 少女は暗闇に同化するかのように黒いショートボブに海のように深く青い瞳である。子犬や子猫を思わせる雰囲気を持っているその少女は、髪と同じように黒いローブに身を包んでいるが、身長はマキナの肩ほどのため150半ばといったところか。

「私は……その、助けになってくれる強い人を召喚しようとしただけで」

「まさか、俺をここに呼び出したのはお前か?」

「そうです。でもこんなに弱そうな人が出てくるなんて。失敗したのでしょうか……」

 そう呟いた少女は屈んで頭を抱えた。

「マズイです、もっと強そうなカッコいい鎧で武装して伝説の武器とか持ってる人を召喚する予定だったのに。いざ召喚してみれば、どこにでもいそうな少年が出てきちゃったよ~。私の魔力が足りなかったのかな。こんなモンスターがいるような魔力濃度が高い秘境まで来て結果がこれなんて、私の人生はこれまでなの……?」

「随分と俺を虚仮にしているように聞こえるぞ。それに君の人生が終わりとか」

 マキナが話しかけるが、完全にスルーしている少女は気を取り直したのか立ち上がる。

「まぁいいです。召喚してしまったからには手伝ってもらいます。まずこの森を出ましょう。でももう夜なので手強いモンスターに遭遇する確率は高いと思います」

「何で日が暮れるまでに事を済ませて帰らなかった?」

「夜の方が大気に溶ける魔力の濃度が上がるのと、英雄のような人が召喚されると思っていたのでモンスターに関してはさして脅威ではないかと思いました」

「でも実際は俺なんかが召喚されてしまったんだろ?」

「すねないでくださいよ」

 二人は森を用心深く歩きながら話していた。辺りは暗闇が覆い尽くしている。

 夜行性の猛獣は比較的少ないという少女の話だったが、夜行性の猛獣は他の森に比べて凶暴だと聞いたマキナは気が抜けなかった。頬には汗が伝う。

「この森の広さから考えて、あと15分程で抜けられると思います」

「そうか、それなら大丈夫そう――」

 そこまで行ったところでマキナは頭上、木の上から降り注ぐ視線と殺気に気付く。

「おい」

「はい、何ですか?」

「どうやら俺たちは猛獣とやらに見つかったようだ……」

 少女はマキナが指差す方を見て凍りつく。指が差す先の一際太い枝の上には、灰色の毛並みを逆立てた獣が鋭い眼球で二人を見ていた。

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