お昼の公園
「ねぇ、キスしてもいい?」
彼女はそっと目を閉じて、わずかに唇を尖らせた。そんな彼女の姿に、私はドキドキせざるを得なかった。とても美麗な女の無防備な動きは破壊的だ。
「もちろん」
と言って彼女の唇に唇を重ねた。
なんとも羨ましい。
白昼の公園のベンチに並ぶカップルを見つめながら、私は落胆した。もしあの彼女の恋人が自分だったなら、と。現実にしているのは変質者のごとく、カップルをまじまじ見て悶々と胸を押さえることである。
どうして私には彼女ができない。容姿だって性格だって悪くないはずだ。向かいに座る先刻の彼氏のほうがよっぽど不細工で、美麗な彼女を持つに不相応だ。お金だって懐から溢れ出すほどある。平均の数倍の年収だ。
しかし彼女はできない。これまで一度だ。もう四十手前だぞ。もう諦めたほうがいいか。一回くらいは欲しかったな、彼女。
私が深くため息を吐くと、隣に腰かけた子どもが尋ねた。
「お母さんどうしたの?」
十五の息子が心配そうな顔をする。
「大丈夫だよ。さ、帰ろ」
促して立ち上がる。続けて息子も立つ。
しばらく歩いていると、息子は私のようにため息を吐いた。
私は言った。
「どうしたの? なにか悩み事?」
すると息子は、長い髪を耳にかけて言った。
「お母さん、どうやったら彼氏できるのかな」
私は苦笑いをした。親子ってよく似るものだな。