『帝都新聞』ウィスコット月九日号
《メイファート王子廃嫡へ!? 揺らぐ後継問題の裏にシュルンベルク財閥の影!?》
婚約の噂されるメイファート王子と妹君のミレイユ姫が先月謎の失踪を遂げたことは読者諸氏の記憶にも新しいことと思うが、その後さる温泉旅館で発見された王子は王家の遣いへの同行を拒否した模様。
関係者には箝口令が敷かれているが、関係筋によると王子と妹姫との間柄が親密にすぎるのではないかという話は王家の人間の間では以前から公然の秘密となっており、今回の失踪も王子と妹姫との関係を裂こうと画策した妃殿下の意向に反発してのものであったとも噂されている。
また、今回の事態の収拾に当たり、王子と姫の宿泊していた旅館の隣にあるシュルンベルク系列のリゾートホテルにたまたま滞在していた、シュルンベルク財閥総帥の御曹司にして《王の杖》の出張裁判官でもあるグレフェン・ガリウス・シュルンベルク卿が、王子と王家の遣いとの仲裁を買って出たことも注目を浴びている。
そのような「偶然」があるものか、という本紙記者の追求に対し、グレフェン卿はたくみにはぐらかして明言を避け、リゾートホテルの経営者である妹の元に滞在していただけだという従来の主張をくりかえすばかりだった。
グレフェン卿はかねてより王家とシュルンベルク財閥の仲介役であったと言われ、王子および妹君のご結婚についても、財閥総帥であり実父であるヒルベルト・ファイガルス・シュルンベルクからの指図を受けて暗躍していたとの噂がある。
成り上がりと言われがちなシュルンベルク財閥は王家とのつながりによって自らを権威付けしたいと思っている。
一方、長年の借財に悩む王家にとって、シュルンベルクからの利益供与は喉から手が出るほど魅力的に映る。
事実であれば、王家と財閥の許されざる癒着に、あろうことか公平中立であるべき《王の杖》の裁判官が手を貸しているということになる。
本紙はこの問題について今後も徹底した糾明を行っていく方針である。
読者諸氏においてはぜひ続報を待たれたい。
それにつけても不可思議なのはメイファート王子とミレイユ姫へのご処分である。
お二人には廃嫡も含めた厳しい処分が検討されているとのことであるが、これは王族の無断出奔に対する罰としては重すぎるものであるため、市民の中には下世話な勘ぐりをする者まで現れる始末である。
が、王子との接見を許された本紙特派員の感想では、お二人のご関係を疑うことはまさしく下衆の勘ぐりというものであり、お二人の今回のご出奔は意に沿わぬご結婚や王家と財閥の癒着を行動において批判されるという崇高なご意図に基づくものであったという。
ヒルベルト氏やグレフェン氏のごとき俗物と比べるに、王子のご気品のいかにまばゆく目に映ることか! かくのごとき気高き王子があらせられるうちは王家に腐敗の生じる余地などあるまいと本紙特派員は目を輝かせて語った。
ところで、王子が現在ご滞留されている宿、ハイネ&ハイネケン旅館は、温泉王時代から続く名宿であり、現在は年若い館主によって経営されている。
王子はこの宿について往事の温泉王さながらに激賞され、この名宿がより多くの旅行者に知られることを望むと異例のお言葉を下された。
本紙特派員によるこの宿の紹介は本紙七面「文芸・紀行」欄に掲載されているので風雅を好む読者はぜひご一読されることをおすすめする。
(『帝都新聞』ウィスコット月九日号より抜粋)




