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初めて

作者: 宮原周一

「えへへー」

「いきなり笑うなよ」

「ほら、なんかうれしいからつい笑っちゃってね」

年末の深夜、小さな神社の前で私は彼と待ち合わせていた。

「なんだか懐かしいね」



十年前の同じ日、私は初詣に来て彼と会った。

そのあと何回か同じクラスになって、話したりするうちにいつの間にか好きになっていた。

初詣には毎年行って、会えたり会えなかったりするときもあった。

高校は違ったけれど、メールは続いた。

仲のいい共通の友達を連れてカラオケに行ったり、御飯食べたり。

だんだん人の数が減って、高三になるころにはもうずっと二人きりだった。

去年も受験に追われて忙しかったけれど、会う約束をしてここで会った。

その時、告白をした。

「第一志望校に合格したら、私と付き合ってください」

彼はしばらく黙っていた。

「落ちたら、どうすんの」

そのときどうするかは何も考えていなかった。

今度は私が黙る番だった。

「良いよ。第一志望校に合格したら、俺たち付き合おう」

彼は優しかった。

それから彼は私のことを名前で呼ぶようになったけれど、しばらくの間は名前を呼ぶたびに顔が少し赤くなっていたのを私は知っていた。



第一志望校には落ちた。

努力しただけに悔しかった。

そのあと彼に会って、どうだったと話をした。

その途中で私は少し泣いてしまったけれど、それが第一志望校に落ちたからなのか、初詣の時のことを思い出していたからなのかはわからなかった。

彼は第一志望校に受かっていた。

私の進学する大学と、割と近い大学だった。

「じゃあ今日から彼氏彼女の関係だね」

「受かったらって言ったじゃん」

「俺が受かった。どっちが受かったらって決めてなかっただろ」

「でも」

「頼む、お前が好きなんだ。本当は初詣の時にそのまま告白したって、俺は頷いてた」

やっぱり、彼は優しかった。



「あの日から一年だね」

「ずっと気になってたんだけど、なんであんな面倒なことしたんだ」

「そのことをばねに受験頑張りたかったから」

「なんだそれ」

「そんなことより、早くお参り行こうよ」

「待て、まだ日付変わってないぞ」

時計を見れば年明けまでまだ十数分あった。

「じゃあ一回詣で納めして、もう一回ならんで初詣しよう」

適当なことを言って、彼の手をつかんで引っ張った。

本当は、彼の手を握りたかっただけ。

「それにしてもなんだか不思議な気分だな。下宿先でもちょいちょい会ってるのにこっちでまた会うってのも」

「地元が同じで下宿も近いいからね。けど確かに不思議な気分」

でも、彼とこうして手をつないで並んで立てれば私はどこだっていい。

「不思議といえば今って言うのもなんだか不思議だよね。今って言うのはいつの間にか過去になっていって、どんどん新しい今が生まれるんだよ。けど、それも全部過去になって、未来が減って過去がどんどん増えていくんだよ」

あれ、なんでこんなこと言ってるんだろう?

「……」

彼が痛い子を見るような目で私を見ている。

「眠いなら早く帰って寝なよ?」

「えー」

「明日遅れたら朝と昼ね」

「わかった、わかったちゃんと寝て時間には起きるから」

明日は初日の出を見に行く約束だ。

「今年一年は初めてばっかりだったなぁ」

「毎年同じ事するわけじゃないから来年もたぶん初めてはたくさんあるぞ」

「楽しみにしてるよ」

思ったより人が多くて、なかなか前に進まない。

「小さい神社なのになかなか進まないね」

「そうだな」

というより、列はまったく動いていなかった。

時計を見ればもう数分で日付が変わる。

そのまま列が動くことはなく、年が明けた。

「あけましておめでとう」

「ことしもよろしく」

そこでやっと列が動き始めた。

「初詣、日付変わるまで止められてたみたいだね」

列が動き出せば、すぐに順番が回ってきた。

私の願いはもちろん。


今年も初めてがたくさんありますように。

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