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聖銃剣師と罪科の精霊 ━デッドオアブレイヴ━  作者: アーク@現実はクソゲー
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Episode1-5

ブックマーク登録して下さった皆様、本当に有難う御座います。

読者様方の期待に添えるよう、今後も邁進していく所存です。

 《Gluttony the Snipe》、又の名を《暴食の霊峰》


その一撃は喰らった万物で形成される骸の塔、その頂点から発せられる覇者の一撃。

テリトリーへと侵入した愚かな獲物を、一撃で、必ず仕留め、手にする破壊の奥義。


 かつて、《暴食》の精霊、《アイリス》は、この技を持って一つの国を沈めた。何億という人口を文字通り一瞬で消し去ったのだ。理由は、特別無い。食す事、それを阻害した事……あらゆる材料が大量に重なり合って起こった悲劇。


少女は、アイリスという名を捨て、《暴食グラトニー》を名乗った。

それは、自分が人間である、という存在定義を根本から覆す。


つまり……彼女は、人である事を諦めた・・・・・


 《暴食の霊峰》、それは膨大な《魔力》によって空間を捻じ曲げ、異空間に存在する《暴食》の権化である《喰奪の霊砲》、通称《AVMBSRエイヴィス》の召喚術式だ。


 今まで喰らった人間の《魔力》を一発の弾丸とするこの超重砲兵器は、使用者である、つまりアイリスの《魔力》を生命活動を維持出来るギリギリまで削り、放たれる。威力は絶大だが、多量の《魔力》を失った使用者は、次の行動への活動に支障をきたす。


無論、それはあくまで《耐えられたら》の話だ。


国一つ、その敷地面積をまるごと吹き飛ばすトンデモ兵器である。

生身の、それも《聖銃剣師》の中でも断トツに弱い少年が、立ち向かうには差があり過ぎた。


「……イイ線いってたけど……。この場所じゃ、本来の技も使えないし、相手に合わせるってよりは、相手が私と同じタイプのスタイルだったってだけなのよね。そして、それが不運の始まり」


アイリスは、アーサーの行動を逐一観察していた。


 弾丸を軽々と弾いた時、高速で放たれる剣戟を何度も返した時……あらゆる観点から、アーサーには何かしらの秘技があり、それがこの現象の主軸になっている、と考えていた。


しかし、流石に《霊子》にまで分解して見切る魔眼だとは、気付かなかったが。


だが、何かしらの手を打ってくる、と分かってしまえば方法は幾らでもある。

如何せん、フィジカルこそ違えど、スピードも戦闘経験も、手段も身のこなしも…。


全てアーサーを遥かに凌ぐ。


例えそれが、《霊子》に分解して、視認速度を対応させる魔眼であっても。

高速を超えた速さ、神速の域にまで達した攻撃は、防げない。


……いや、防がれてしまったが、それは違う意味で効果を及ぼす。


相手にはまだ余力がある。これ以上の技がある、と思わせることが大事なのだ。

本来なら穿たれた刺突で眼球ごと頭部を貫通して絶命させるつもりだったが。


大番狂わせもいいところだ。まさか、必殺奥義まで使わされるとは…。


アイリスは我ながら劣ってしまった実力に嘆く。

結界の《魔力制限》だけならばいざ知らず、土地が土地である。


《封鎖的魔力磁場》


 基本、土壌には強い《魔力》が残っている。動物や人間の死体が土に還るからだ。だが、この場所は違う。そういったものを全て排除し、《魔力を含まない土壌》というものを人工的に造り上げたのだ。故に、《魔力》を感じず、逆に言えば《魔力》を大地が欲しており、常時立っているだけで《魔力》を本当に微細ながらに盗まれている。そのくせ恩恵は無い、ときたものだ。


二つのハンデ、加えて左手の損傷、それでもアイリスは勝利した。

国に仕える《星帝》レベルの《精霊》であれば、初手で殺される可能性もある。


相手が例え、断トツに弱い地位に居る《聖銃剣師》であろうとも。


それ程までに、この土地と結界によるダブルブッキングは相当な威力を持つのだ。

ほかの連中、つまりは《破邪七大罪》に数えられる罪人達だが、彼らも似通った場所に居る。


封印、というよりは人柱。

自分は悪名高い罪人を捕らえているぞ、という意思表示。自己の能力自慢。


下らない虚栄心を増強させるのを黙って見過ごすのも癪に障るが、別に大した事ではない。


どうせ・・・ここなどすぐ・・・・・・抜けられるからだ・・・・・・・・


 《精霊》は人知を超越した存在である。従って、《人工物》、人間が生み出した産物など、解答が付いている問題用紙を渡されたと同義、つまり、意に介さずとも抜け出せるのだ。


だがアイリスはこの場を逃げ出さない。それは自身の矜持や尊厳などでは全くない。


自分の主となるべき人間を探し出す為、だ。


長い間、既に時を刻む事さえ忘れて、延々と太陽と月が昇っては沈んでいった。

何日、何週間、何ヶ月、何年、何十年、何百年……。


幾星霜に等しい時の流れの中で、アイリスに見合う強者は現れなかった。


 世間を賑わす名うての剣士、世界一の実力を誇る魔法使い、今まで殺してきた数が知れない暗殺者。ありとあらゆる時間の中で、その時その時の最強と謳われた人間が挑んでは敗北し、この土地の糧となっていった。そう、今の今まで。


剣技が魔法になり、やがてそれは何方も戦闘の手段を化した。

時代の移ろいの中で、しかしながら最強の座に君臨し続けた七名。


《暴食》《憤怒》《嫉妬》《色欲》《怠惰》《傲慢》《貪欲》


それぞれが持つ感情こそ違えど、その能力は世界でも指折りのものだ。

そうやって飽く事なく、最強の名を我が物にしてきたアイリス達であったが……。


均衡が、崩れる兆しが見えた。


それはちっぽけで、ともすれば踏み潰してしまいそうな程淡く儚い光。

だが、それでも━━━


「な、何で……」


灰燼に帰したはずの土地に、むくりと人影が立ち上がった。

意識は無いのか、ふらふらと身体を不自然に前後に揺らしつつ、バランスを取っている。


「……どう、して…?」


怯えて竦むアイリスへ、一歩、また一歩、とその人影が近寄る。

その僅かな瞬間に、一陣の風が吹き荒んだ。


それは砂埃と破壊で巻き起こった粉塵を纏めて吹き飛ばす。


クリアになったアイリスの視界に映ったのは……。


「何で、どうして……どうしてアンタが生きてるのよ…ッ!?」


血で身体を染め上げた、アーサー・ペンドラゴン、その人だった。







◆      ◆      ◆







 俺は、その一瞬で死を直感した。


全長が見えない程の莫大な破壊の光線が、目の前を覆い尽くしたのだ。

手にする武器など些細なもので、そんな馬鹿でかい兵器相手に通用する等とは考えなかった。


だが、俺は諦めない。


例え絶体絶命であろうとも、後数秒で死が訪れると分かっていても。

負けられない、引き下がれない。俺にはやらなきゃいけない事があるんだ。


この眼の事も知らなければいけない。

今は亡き両親の事を知らねばならない。

何不自由なく生活させてくれた老夫婦へ、恩返しをしなければならない。


何より。


「(……帰って、エルナとキリア、セントに自慢してやんなきゃな…)」


《罪科の精霊》の一角を、手中に収めてやったんだぜ、ってな。

そう考えれば、例え目の前に万物を噛み砕き、跡形もなく消し飛ばす《破壊》があったとしても。


「うおあああああああああ━━━」


破壊の旋風が身体を引きちぎっていく。

生きたまま血管を取り出されるような、拷問のような激痛が精神と身体を蝕む。


血が噴き出し、皮膚が剥がれ、肉が削げ落ちる。


だが、一向に俺は死なない。

いや、違う……これは…。


「《魔力》……?」


今まで皮膚や肉によって内部に眠っていた《魔力》の全てが開放されたのだ。

それは俺をオーラのように包み込み、損傷箇所を急速に回復していく。


それと同時に、破壊の光線と相殺しながら、威力を削っていっている。


「(これは……?)」


流れ出る血液とは真逆に、体内を巡っていく圧倒的な破壊の衝動。

その時だった。


覚醒めざめの時が来た》


脳の芯に響くような、重低音が鼓膜を通さず直接伝わってくる。


《汝を我が力の所有者として認め、我が力の顕現を許可しよう》


流動する衝動の強さが増し、ぐわんと頭を揺らした。

意識が飛びそうな頭蓋に、直接響くその声は告げる。


《我が真名はサリエル。暗黒に身を委ね、天上より堕ちた天の使い也》


朦朧とする五感が途切れる寸前。

喋ろうと思ったわけではないのに、勝手に口が言葉を紡ぎ始めた。


「━━━我が力の代償は御身の血肉、精神の欠落……覇道を求めし者よ、神が下した審判に抗い、その力を持って復讐の礎と成せ━━《ブレイヴ:オーバーロード》…!!」


蒼く染まる視界、身体に幾度となく突き刺さる光線。

それをやけに達観した感情で見やった俺は、こう命じた。


「我が道を拓け」


ズアァ!! とまるで滝を切り裂いたように俺の立つ位置だけ放たれる光線が切り取られている。


それは半永久的に続き、果てはあの馬鹿でかい重砲が放つ全てを受け止めた。

脳髄に刺激が走る。快楽とも愉悦とも違う、残虐で、狡猾な、悪意を持った感情。


「あぐぅぁぁあああああ!!!」


身体が引き裂かれんばかりの苦痛に身悶えながら、しかし、俺は立ち上がった。


そして、煙が晴れた……そこには。


「何で、どうして……どうしてアンタが生きてるのよ…ッ!?」


先程の威厳など全くない、怯えて竦みきった少女が、一人居た。







◆      ◆      ◆







 「………」


ずり、ずり……。

足を引きずって、俺は少女へ近づく。

死に損ないの身体と、砕け切った精神をそのままに、俺は……。


「く、ぅ……!」


相手もどうやら《魔力切れ》のようだ。手足に力が入っていない。

俺は遠慮などせずに、無粋にもずかずかと進んでいく。


もう俺に余力など残されていない。

あるのは、とある欲望、それだけだ。


「(……く…そが…!)」


痛みを通り越したそれは、慢性的な麻痺のそれによく似ていた。


 手足は痺れ、感覚はない。粉塵と砂埃で嗅覚も効かず、同様に視界も半透明だ。聴覚など、爆発によって鼓膜が割れてしまって、元より効果など無い。唯一残っている味覚だが、それは口の中に溢れ出す血液の鉄臭い味を確かめる以外に利用されてはいない。


傷ついた体からは、今まで溜まりきっていた無尽蔵の《魔力》が流れ出る。

《魔力》は生命力に等しい存在だ。それが流れ出る、という事は…。


「(死ぬ、のかもなぁ……)」


だが、死ぬにしても、俺はやり残した事がある。

その上、それは目の前で達成出来る。後一歩、いや、後数歩、否……。


無限に続く思考の回廊はいつまでも下りきる事無く深みにはまっていく。


そして━━━



俺はとうとう、少女の目の前に立ち塞がった。

仁王立ちで、腕組みをして、決闘を申し付けて、勝気な態度で攻撃を放っていた少女とは、別人だ。


しおらしく女の子座りをして、上目遣いにこちらを見上げる少女。

それは《精霊》なんて大層なもんじゃなくて、何ていうか、ただの女の子みたいだ。


だから、やっぱり俺はこうするしかなかった。

否、心に溜まっていた欲望という名の害意が、全て取り除かれてしまった、というべきか。


勝気で強気、そんな少女にこんな態度を取られては、戦の酔いも興醒めと抜けてしまう。


━━━なんて、やっぱり俺は言い訳癖がついているのかも知れない。


そんな事はどうでもいいか。


ぐらぁっ…と倒れる身体を少女に預け、その頭を優しく撫でる。

そうして、呟いた。


「俺の……勝ちだ……!」


俺の《精霊》になれ。


その言葉は紡がれなかったが、多分ニュアンスとして理解してくれたのだろう。

薄れゆく意識の中、少女の甲高い声はなりを潜め、落ち着いた女性らしい声でこう言った。


「……私の、負けね」


その後、俺は五感全てをシャットダウンし、脳という主電源を強引に落とされた。

精神と肉体が暗黒という名の海に沈んでいく、が、激戦の疲れを癒すように、そこには波一つない。


俺は、勝った━━━




種族についての注釈を入れようと考えたのですが。

やはり本作を読み進めて行く上で、知って頂きたい、と僭越ながら感じました。

登場はまだ先ですので、急ぐこともないでしょうし……(汗


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