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聖銃剣師と罪科の精霊 ━デッドオアブレイヴ━  作者: アーク@現実はクソゲー
2/6

Epsode1 落ちこぼれアーサー

~アーサー視点(一人称視点)~


 「……というわけだ。残された期間は三日だぞ」


渋みのある顔をした、三十歳後半の男性が、俺にそう告げた。

彼は《聖銃剣師》の育成機関《HBGAヘイガ》の講師役を務めるグランという男だ。


そして彼が講師ではなく教師として受け持つ担当が、生徒指導。


 《聖銃剣師》として未熟な生徒達に、普段の素行という観点から注意を呼びかける。担当する分野は多岐に渡るが、基本は能動的に活動するので、生徒側から、つまりは生徒指導部側が受身となるパターンは少ない。今回の事例も、例に漏れず…と言ったところだろう。


俺は落ちこぼれだ。


 《聖銃剣師》が持つべきスキル、剣技・銃技・体技……あらゆる観点から見ても平凡。そこらの兵士と殴り合っても勝てるかどうか、という感じで中途半端且つ基礎能力が圧倒的に欠落していた。


 同世代の中でも頭一つ凹んでいる。故に俺は《技術は凄いけど性格に難有り》な人間が集まる問題児クラス、《Iクラス》に所属していた。俺を除いて29名、俺を合計して30名の少し小規模なクラスなのだが、本来は《Aクラス》配属になるであろう猛者ばかり……授業内容は彼らと比べたら余計に出来の悪い俺の事だ、理解など殆ど不可能である。


「……分かりました」


「…アーサー、お前は努力家だとは思う。だがな、《精霊》と契約出来なきゃ、《聖銃剣師》という存在は成り立たない。いつまでも半人前以下な人材を保護しておくワケにもいかないんだ」


深刻な顔で告げられたのは、《HBGAヘイガ》からの退学要請だった。


 《精霊》と契約出来なければ、三年間以内に新たな《精霊》と契約する事によって問題は解決されるのだが、俺の場合、少し違った。彼は何度か契約に成功している・・・・・・・・


しかし、定期的…以上に供給される《魔力》に《精霊》が耐えられないのだ。

その事は講師兼教師であるグラン含む多くの人間が理解していた。


だが、代替品でほいほいと変えられる程、《精霊》は安くない。


 人間と同じく感情を持ち、五感を持ち、そして何より人間以上に優秀だ。そんな存在を使役する側である《聖銃剣師》が、使い捨ての道具よろしく使いまわすのは使役する側・される側の両方に対しての侮蔑に当たる。あくまで騎士道精神を地で行く連中にとっては、だが。


だとしても、それでは女を日に日に変えている女たらしの男同然である。

俺自体、その事を忌避しており、衆目を集める行為なので、機関側からも歯止めが掛かった。


つまり、現状俺に仕える《精霊》は居ないのだ。


「……なに、まだ三日ある。適正診断を受けて、何度かトライしてみよう。落ち着かないなら近場の山岳地帯なんかで低級の《衛護精霊》を拘束してくるのも有りだぞ。……まぁ、そう簡単な話でもないんだけどな」


「…はい」


「…よし、クラスに戻っていいぞ」


グランも多少足取りが重いのか、言っておきながら歩みは遅い。

俺は特別気にせず、そのままクラスへと入っていった。







◆      ◆      ◆







 「あ、あ……後三日ぁぁ!?」


「バカ…! うるせえよ!」


クラスへ戻るなり近寄ってきたエルナに事情を話すと、堂々と叫び散らしていた。


 エルナ・アンリフォード。《聖銃剣師》の名家に生まれた御嬢様だ。彼女もまた、本来なら《Aクラス》と張り合える実力者であり、《Iクラス》でもトップクラスの実力を持つ。此処へ転入した理由は本人からの意向らしく、詳しい理由は聞かされていない。


御嬢様、という肩書きがありながらも、気さくで話しかけやすい女性だ。

ただ、仲が深まれば、結果として秘密裏に教えた内容も大声でバラしてしまう程お転婆だが。


今日も切り揃えてある白銀のショートボブが可愛く揺れる。

……お陰様でアーサー含めて衆目の的ではあるが。


「…カカカッ!! とうとう後三日かよ、アーサー!」


「ってか良く今までここに残れたよ、うん、頑張った、努力賞!!」


「つーかさ、一ヶ月後に控えてる《銃剣乱舞祭(BBDF)》って、クラス対抗あんでしょ? 邪魔者はさっさと消えてくれない? そこに優秀なの補填する方がお得なんだけど」


「アーサー程度ならこんなもんっしょ。それより昨日のこれなんだけど~……」


罵倒罵倒…もうボキャブラリーが無いんじゃ無いかって程の罵倒の嵐。

しかしながら、初日からこんな感じだからか、慣れたもので、然して耳にも入ってこない。

一通りの罵倒が終われば各々気になる話題でグループを形成するから楽なのだ。


「ひっどい……」


「いや、お前が叫んだからだけどな…。って、どのみちバレてたんだろうから、いいんだけど」


嫌悪感を丸出しにした表情で男子諸君を睨みつける。

味方として君臨してくれるのは有難いが、エルナまでもが忌避されては色々と終了してしまう。

実力主義を語るこのクラスにおいて、エルナの発言権は八割以上に効果はある。


だが、それでも上は居る。投げかけられる言葉は、勝者から敗者へ、といった感じだ。

騎士道云々を語るあたり、陰湿なイジメなんかは無いが、堂々と言われれば少しは凹む。


「(……ま、今更か。気にしても仕方ねえ、一発逆転、なんかねえもんか…)」


椅子の背もたれに両腕を組んで、その上にむっすーとした顔を置いてこちらを見るエルナ。

最初からエルナは俺の味方だった。…いや、昔は正義感に駆られていただけかも知れないが。

ただ、今は違う。そう思えば、エルナが俺のことで心を痛めるのも癪に障る話だ。


アイツらに一泡吹かせてやろう。


そんな意気込みが生まれてくる。

どうせ後三日で居なくなる身だ、捕まえるならとびっきり高位な《精霊》が良い。

死んだならそこまで。死なないで手に入れたらそこから、だ。


空虚な時の流れが打ち付ける波のように、行ったり来たりする。

その時だった。


「ん、何だ、アーサー。もうお叱りは終わったのかい?」


笑顔が似合う優男、《Iクラス》一の美男子、セント・ウェイルズがこちらにやって来た。


 セントは柔和な態度と優しい性格、加えて甘いマスクと爽やかな笑顔を兼ね備える、男子としてのカッコ良さを全て詰め込んだような人間だ。家柄は無名なのだが、その実力はエルナと同等かそれ以上のもので、男子からは疎まれるが、女子からはモテまくる、良くある構図に立つ男だ。


似通った(ベクトルは全くの正反対だが)境遇の俺達は少しして打ち解けあった。

そして、それと同時に。


「あーらら、アーサー。また怒られたの? ほんっと、不出来なヤツは罪よねぇ」


高飛車で高圧的、初対面から印象最悪な見かけだけ美少女、キリアが付いてきた。

いや、普段からセントと殆ど一緒に活動しているから、分かってはいたけど。


 キリア・ヴァルシュタイン。現在《HBGAヘイガ》が位置するディファナ大陸の覇権を握る、《ラークシュティン帝国》の国王(つまり俺達が暮らしている帝国の国王)の娘だ。血筋にも恵まれ、性格さえ何とかすれば、一見して敵なしな最強少女である。


最弱な俺に対して《Iクラス》内部でもトップクラスの三人。

珍妙な構図だが、意外と普段からこの四人で居ることが多い。


 セントは言わずとも知れるだろう。キリアもあの対応が男女共に人気がない、聞いた話では一部の男子には女王様とか何とか持て囃されているらしいが。エルナはエルナで、超絶美少女なのだが、それ故に男女共に声を掛けづらい雰囲気が漂っている。


エリートぼっち、というヤツだ。

因みに俺はノンエリートぼっちだ。なんかそれっぽいが、つまり落ちこぼれである。


「……うっせえよ。出来過ぎて罪なヤツよりゃ幾分マシだ」


「あら、僻み? 妬み? 仕方ないわよ、輪廻転生する前からして違うんだから」


「おい、何で俺の生前さえも否定した?」


「生まれても生まれなくても、結果はこうだったでしょう?」


「いやいや、何で純粋に不思議そうな顔をする? ちげえよ! どっかで道を誤ったんだよ、多分。そこさえ何とかなってれば、俺は多分今頃世界を股にかける━━━」


「はいはい戯言戯言。愚者が何を言っても聞こえませんわ」


「聞こえてんだろうが! 戯言って言ってんだから聞こえてんだろ!?」


素知らぬ振りを決め込んだキリア。

セントはクスクスと朗らかに笑い、エルナは何故かむすっとした顔のまま睨んでいる。

毎回毎回胃が痛くなりそうな強烈なメンバーだ。


「(……はぁ。こんなんで大丈夫なのか………。崖っぷちに右手一本ってトコだぞ?)」


退学。それはつまり今後一生《聖銃剣師》としての道は歩めない、ということだ。


 《聖銃剣師》は《十月の誓約》によって多少の縛りこそあるが、基本的に特権階級だ。その権利を正しく使えば、色々な分野に対して有利に事を運べる。国家機密事項の文献を読んだり、国軍重役職の人間とコミュニティを持つことも出来るのだ。


家柄も特別良くなければ、技術も大したことない落ちこぼれ。

そんな俺のことだ。諦めてしまえば農夫一択、もしくは漁師辺りが妥当なトコだろう。


嫌だ。それは嫌なのだ。


 俺は幼い頃に両親が死んでしまい、親戚の下で育てられた。老齢の夫婦であったが、余所者に近い俺に対してそれなりに愛情を注いでくれていた。親戚孝行とでも言うのか、兎に角恩義の押し売りは忠義の押し売りで返してやるのが俺の流儀だ。


俄かには信じがたいが、俺の両親は高明な《聖銃剣師》だったらしい。

本来なら俺にもその素養やセンスが一欠片くらいあっても良いはずなのだが……。


しかし、俺はその胡散臭い話を、心の何処かで少しだけ信じている節がある。


何故なら。


「(………《ブレイヴ:オン》)」


視界が切り替わるような感覚、次いで視界には埃のような細かな粒子が蔓延した。

それが《魔力》を形成する《霊子》である事は、俺しか知らないだろう。


そう、俺は本来事象として見ることの出来ない《霊子》を捉えられる。


それはつまり、異様な程《魔力》に敏感だ、という事だ。


 《魔力》に敏感である、という事は、裏を返せば反応速度・反射速度が飛躍的に高まるという事だ。無論それは《魔力》に対してのみだが、弾丸を《魔力》で形成する《聖銃剣師》、俺の目は亜音速で飛来する弾丸をも捉える。それも、正確に、より確実に。


「(……誤差はない、か。事故死、とか有り得ない死に方は無くなったな)」


直様状態を解除する。


《ブレイヴ》、これが俺の持つ能力である。オンとオフで切り替えが可能だ。

先天的なもので、俺は生まれた頃からこの技術を会得していた。


ただ、後天的に身に付く事はないのだろう。

今まで見てきた人間の中で、同じような力を持つ部類の人間に出会ったことがない。


「(下級の《精霊》じゃもっても三日……となれば、先生グランには悪いが、少しばかり強硬な手段を取って、でっけえヤツを捕まえなきゃならないな)」


チャイムが響いた。

次の授業は《魔導基礎》、《魔法の歴史》についての学習だ。


担当の講師が入ってくるなり、黒板に文字を書き始めた。

俺はそもそも授業など真面目に受けていないが、その日はなんとなく授業を真面目に受けていた。


気まぐれ、というよりは、もう目にする事もない授業に対して感慨深くなったのかも知れない。

見知らぬ史実を薄っぺらい羊皮紙の束に書き込みながら、俺は幾重にも考えを重ねていった。


「(……近場で手に入りそうな高位の《精霊》…って薬草かなんかじゃねえんだから、そうそう居るわけがないか……んじゃ中級、上級でも及第点って感じか………?)」


思考が深くなれば、周囲の音や景色、匂いや味覚がシャットダウンされる。

普段授業に活用しない圧倒的集中力で思考を海底に押し沈めるように、深くさせていく。


そんな時、集中の壁をすり抜けて耳についたのは、皮肉な事に講師役の男の声だった。


「え~……《暗獄協定》とは、《破邪七大罪》に数えられる《罪科精霊》が結んだ協定です。難しい内容なので、関連付けて覚えると良いでしょう」


「(……《罪科精霊》…)」


「そういえば、この付近……と言っても直線距離で100kmはありますが、そこに《暴食グラトニー》を司る《罪科精霊》が眠る洞窟がありますね。強靭な結界と地脈による強力な魔力磁場が発生していますから、眠りから覚めて災厄を振るうって事は有り得ませんけども…」


「(……《暴食グラトニー》……聞いたことあるぞ。何万人もの人間の魔力を喰らい尽くして、尚腹が減ったと言って人間をやたらめったら襲い回した災厄の《精霊》…)」


その時、俺の中で全てのパーツが見事に収まった気がした。

膨大な魔力。行き過ぎた魔力供給。暴食の権化。魔力の莫大消耗。


俺の中のデメリットな要素が、相手のデメリットな要素と打ち解け合い、消えていく。


たくさん有り過ぎて食べ尽くせない《魔力量》を持つ俺。

たくさん《魔力》を食べ過ぎて大量の命を奪った《精霊》。


「(……勝算は、あるッ!)」


全てのパーツが揃って、見事に嵌った。

俺は歓喜のあまり、思わず立ち上がって周囲の人間を驚かせてしまった。


しかし、そんな事はどうでも良かった。


「(いけるぞ……!!)」





━━━だが、一つ俺は重要な事を忘れていた。


《破邪七大罪》に数えられる《罪科精霊》。

 それらは全て、帝国が管理する最上位精霊である《星帝精霊》を、遥かに凌ぐ実力を持っているということに。




多分二話くらいで時間軸がプロローグ(現在進行形のモノ)に戻ります。


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