Prologue :遭遇 ━Encounter━
時間軸がブレてますが、次回はこの話より前となります。
拙い駄文では御座いますが、読了後、お気に召されましたら、評価……指摘やアドバイスがありましたらコメント等、お待ちしております。
「よく此処まで来れたわね、褒めてあげるわ」
最奥に位置する祭壇から、高圧的な甲高い声がする。
それと同時に、パチンというハンドスナップを合図に、松明に火が灯る。
揺らめく炎に映し出された少女、その姿は幼く、しかし高貴な雰囲気を漂わせる。
だが、少女の右手には《霊剣》、左手には《霊銃》が握られていた。
彼女は人ではない。《精霊》だ。
《精霊》は人知を超越した膨大な《魔力量》と《属性耐性値》を持つ。五つのカーストからなるが、最下位という評価を受けている《衛護精霊》でさえ、《聖銃剣師》としてその道を極めた人間を軽々と凌駕する。人外にして法外、それが《精霊》のあるべき姿だ。
そして、《精霊》達が独自に有する《精霊回路》が、その力の源だ。
《精霊回路》は《霊子》と《因子》を合成させて、人間とは違う濃密な《魔力》を生み出す。故に、人間は拳銃ならば弾丸を、剣ならば飛距離を補う為にのみ使われる《魔力》を、拳銃や剣そのものにまで適応させ、瞬時に物質として錬成する。
彼女が持つ《霊銃》と《霊剣》、それは《精霊回路》の成せる業だ。
対して、問いを投げかけられた少年は、微動だにせず、拳銃の鋒を向けている。
「お褒め頂き光栄の至りだ。だが、その高圧的な態度、取らせなくさせてやる」
「あらあら、無粋な発言してくれるじゃない。……そう言ってやってきた連中は、何人も居たわね」
打って変わったように、冷酷で鋭い、視線を彼女は少年に向けた。
それは、少年の生殺与奪の権利は自分にある、と言外に主張していた。
「ここまで来れる者は相応にして実力者ね。けど、見たところ貴方は違うみたい。運良くここまで来れた、って感じかしら。それで、よくもまぁ、そんな偉そうな事が言えたわね」
嘲笑と舐めきった罵倒を浴びせかける。
しかし、少年は大して気にした風もなく、さらりと告げた。
「ああ。運が良かったんだろうな。だから、強運でお前を打ち負かしてやるよ」
「………へぇ。中々言うわね」
少年が遠巻きに居なければ、彼女の額に青筋が浮かんだのが見えただろう。
彼女━━━《精霊》は臨戦態勢を取った。
元来、人間と契約を交わす《精霊》は、《聖銃剣師》を育成する側である各国々が提供する。無論、タダではなく、高位の《精霊》は競争率が激しく、《銃剣乱舞祭(BBDF)》の上位者にのみ継承権が与えられる。強者が強者を得る、実に理に適ったやり方だ。
そうなれば当然、負けて最高位から妥協してワンランク下の《精霊》を取る者も居る。
そういう奴らに限ってプライドだけは高く、何週間後かには《契約解消》となるパターンが多々ある。
少年はその類の人間ではない。
ならば何故、彼に《精霊》は居ないのか。
理由は二つある。
一つは、彼自身がそこまで強くないという事。
《精霊》である少女が語ったように、少年はそこまで強くない。剣技、銃技共に、お世辞にも上手いとは言えないレベルだ。下の下ではないが、下の中といったところか。
そして、二つ目。
少年の保有する《魔力量》が尋常ではなく膨大だという事。
《精霊》は宿主である《聖銃剣師》から定期的に《魔力》を供給する。対価として《精霊》は《聖銃剣師》に対して《能力》を分け与える。手にした《精霊》によって効果は違うが、ランクが高い、強い《精霊》になればなるほど、与えられる《能力》は強化されていく。
だが、彼の場合、定期的以上に《魔力》を供給してしまうのだ。
それも、無自覚のうちに。
《魔力》を糧とする《精霊》に与え続ければ、全てが必要以上に満たされてしまう。
過ぎたるは及ばざるが如し、過剰摂取を続ければ《精霊回路》が焼ききれる。
畢竟、少年と《契約》する《精霊》は滅多に、否、殆ど居ない。
だからこそ、危険な手段を彼は取った。
帝国に仕える《帝国聖衛団》、その中でもトップクラスの《聖銃剣師》でさえ恐れ戦くと言われているこの場所。《大罪の洞窟》に、未熟で中途半端な少年は意を決して潜り込んだ。
死は覚悟の上、それでも彼は《精霊》を求めた。
何故なら━━━
「…お前を手に入れなきゃ、俺は《聖銃剣師》をもう一生目指せない」
━━━《聖銃剣師》
《精霊》と共に、鍛え上げた己がスキルで戦場を横行闊歩する騎士。
本来相反する拳銃と刀剣を持ち、より対象を殺しやすくする為に造られた騎士。
敵を狙撃し、獣を薙ぎ払う。こと全ての生物に対して有効な手段を持つ。
だが、そんな彼らには《十月の誓約》と呼ばれる誓いがあった。
1、無益な殺生はする事なかれ
2、精霊を敬い丁重に扱え
3、欲望を抑え慎ましやかな生活を送れ
4、国王及び国軍重役職には忠義を尽くせ
5、任務を受けたら死してでも遂行せよ
6、敵前逃亡は騎士の誇りと名誉に掛けて行うな
7、自他共に支えてくれている国民に敬意を払え
8、前線から離反する場合は武器を捨てよ
9、決して国に反抗することなかれ
そして……。
10、《精霊》を持たぬ者は《聖銃剣師》とは認めず、今後一切の採用を許容しない。
期限は、《精霊》を失ってから三年間。
残された時間は残り僅か、生命線である《聖銃剣師》という特権を、少年は捨てられない。
「……そう。なら、姑息なことはしないわ。全面対決、決闘よ」
「理解のあるヤツで良かったぜ。じゃあ……」
お互いに向けあった拳銃の銃口から、強烈なマズルフラッシュが焚かれる。
亜音速で飛来する弾丸を、圧倒的な身のこなしで両者共に避けた。
「……命を掛けた決闘の、幕開けだ」
━━━━━未来や将来なんて、誰にも分かりはしない。
幼少期から天才肌で、年齢を重ねるごとに出世街道を突き進む人間も居れば。
同じくして天才肌であったが、年齢を重ねるごとにその能力が衰退していく者も居る。
━━━未来は決定しているが、変えられる。
平凡で底辺な少年が、何十年もした後には、世界一の《聖銃剣師》になるかも知れない。
生まれ持った才能に囚われた少女が、世界に仇なす《精霊》となるかも知れない。
遠くない未来へ向けて、進むべき道を見つける事が重要なのだ。
だから言おう。
━━━誰が予想出来たであろうか。
大した血筋でもなく、手腕があるわけでもなく、学力も知識も技術も経験も少ない平凡な少年が。
聖銃剣師史上最強と言われた。
《聖銃剣王アーサー》、その姿に成り得たるなんて。
━━これは、弱小な少年が歩む道程。
《聖銃剣王アーサー》という、輝かしい勲位を得るまでの物語である。