川の石
尾芯川に住むゆきちゃんは、ぼくの親友だ。
今日もぼくはゆきちゃんに会いに行く。
「ゆきちゃん、調子はどう?」
「今日はお肌の調子がいいわよ」
「それはよかったね」
「すごくよかった?」
「うん、すごくよかった」
ぼくたちはここでお互いに笑う。ゆきちゃんは小さな石ころだ。
川岸ぎりぎりにいて、ここ3ヶ月何とか流されずにいる。
「私、ここに流れてきてよかったわ」
「なんで?」
「だって親友が出来たんだもの」
「だったらぼくも、ゆきちゃんがここに流れてきてくれてよかったと思うよ。
ゆきちゃんにはもうどこにも流れてほしくないな」
そのままにしておけば、いずれ川に流されてしまうゆきちゃんを
ぼくが家に持ち帰ったり、
確実に川に流されない場所に移動させたりしないのには理由があった。
ゆきちゃんは古き良き真面目な石ころなのだ。
「石は、自分を自然に任せるのが天命なの。
川の石は、川の気の向くままに流されたり、置き去りにされたり。
そういう大きな流れから外れる訳にはいかないの」
これが出会ったころのゆきちゃんの口癖だ。
「他の石は住みよい所があればそこに残りたいと思って努力するわ。
でもそれは間違っているのよ」
ゆきちゃんは周りのどの石よりも丸くてすべすべで、
とても可憐で、とても可愛らしかった。
「ゆきちゃん、ぼくにとってゆきちゃんは全てだよ」
「あら、嬉しいわ。でも私の全てはこの川だわ」
ゆきちゃんはどこまでも自然の中で生きていこうとする。
出会ってから、もうずいぶんいろんなことをゆきちゃんと話した。
ゆきちゃんはどんな話をしているときも真剣に話してくれた。
そしてゆきちゃんはとても聡明で、ぼくはゆきちゃんを心から尊敬している。
「私もあなたを尊敬しているわ。
あなたの目はいろんなものをとらえているもの」
ぼくたちはすばらしい親友だった。
毎日毎日、ゆきちゃんに会いに行った。
当然といえば当然だが、ゆきちゃんもいつかは川に流されてしまうのだろう。
それを考えると、ぼくの胸はぎゅっとなってしまうのだが、
ゆきちゃんは平然と言うのだ。
「しかたないわ。川の石は、川の流れるままに。
私は全てをこの川に任せているの」
ゆきちゃんはこれを言うとき少し涙目になる。
だから余計にぼくはむねがぎゅっとなるのだ。
夜の間、頭の中をゆきちゃんがぐるぐるして、朝になってゆきちゃんに会いに行く。
天気予報が雨ならば、少しハラハラしながら。
ゆきちゃんも、夜の間ぼくのことが頭でぐるぐるしていてくれたら
少し嬉しいかな、とぼくは思う。