二の夢、現<フタツメノ ユメウツツ>
『幼馴染のいる生活』第二話「二の夢、現<フタツメノ ユメウツツ>」
わたしの大好きな人。わたしの幼馴染。
目は細くて、身体は少し鍛えてる感じ。
背はわたしよりちょっと高くて、声は結構低い。
わたしは、そんな幼馴染に恋をしている。
「おはよ。今日はぎりぎりじゃないな」
「おはよう。昨日がイレギュラーだっただけですぅー、だ」
そう。毎日毎日お寝坊さんなわけではないのだ、わたしだって。
「あはは、そうムキにならなくていいよ。お前の無防備な姿が見られないのはちょっと残念でもあるし」
うん? わたしの無防備な姿? ……って、わたしって寝るとき下着だけじゃん。
「あー、なんだか変態さんみたいだー」
「うっ、そんな目で見るなって。お前の寝顔があまりにも可愛いから、つい……」
「えっ?」
わたしのこと可愛いって言ったよね、今。でも、寝顔が可愛いって、いや、可愛くないっていわれるよりはいいか。
「ねぇ――」
ちょっと、だから聞きたくなってしまう。
「――わたしのこと、好き?」
「ああ、好きだよ。大好きさ。それこそ、小さいときから。ずっとね」
あぁ、なんて幸せなんだろう。大好きな幼馴染に大好きだと言ってもらえた。これほど嬉しいことがあるだろうか。
「あの、ね。わたしも――」
「――起きろ! ……次読みなさい」
「え? あ、はい。……えっと、どこからですか?」
……夢か。前にもこんなことがあった気がする。
「十二行目の真ん中あたりからだ。そんなことだとテストはいい点取れないぞ」
「はい。すみません」
一応、予習はしておいたので特に引っかかることもなく指示された英文を読み終わると、また何事もなかったかのように授業は進んでいく。実際、何事もないのだけれど。
「お前、また寝てたのかよ。しかも、また幸せそうな顔しちゃってさ。どんないい夢見てたんだよ」
「そ、それは……恥ずかしいからひみつ」
「え、なになに。言えないような内容の夢だったの? どんなイケナイことをしてたのかなぁ?」
「おい、本当に下品だな。友達辞めるぞ」
「いや、ダメ、許して! マジでオレ友達お前くらいしかいないだからぁ~」
やっぱり、なんだかかわいそうに思えてならないけど、ここは何も言わないのが、たぶん吉だろう。
さて、今日も今日とて親の帰りは遅い。それは彼もまた然り。
「あのさ、今日はうちに来ない? 頑張って何か作ってみるから」
「そうか? じゃあ、材料買わなきゃな。お前んちもどうせ冷蔵庫寂しいだろ?」
「そうだね。じゃあ一緒に行こ?」
「ああ」
かくして、わたしたちは始めて、二人でスーパーへと入ったのだった。
買い物はだいたい三十分くらいかかった。で、買ったものは野菜を少々、お肉を少々とお菓子を少々。お菓子が少し多めなのはご愛嬌だ。
「さて、頑張って調理を始めたいと思います!」
「おう、ガンバ! 今日の夕食はお前の双肩にかかっている!」
わたしが作ると言った以上、彼に手伝わせるわけにはいかない。なにより、『家庭的な女の子』アピールのためだ。……とはいっても、そんなことができないことは、短くない付き合いからとっくに知られてしまっているが。
とりあえずは、買ってきた野菜を切る。テレビで見るみたいにトントントンと調子よくとはいかないけどしょうがない。なにせ、こんなことをするのは初めてなのだ。
「おい、大丈夫か? 手、切ったりするなよ?」
なんだかものすごく不安そうな声が飛んでくる。たぶん、振り返れば彼の顔も不安そうな表情をしているのだろう。わたしは半泣きで悪戦苦闘しているこんな顔は見せられるはずはないので振り返らないが。
「で、できたー!」
かくして、一応料理らしきものができあがった。
「うん。見た目は十分におししそうだな」
「でしょでしょ! 初めてにしては上出来だよね!」
で、カンジンのお味はというと。
「お、うまい。やったな」
「……おいしい」
自分で言うのもナンだけど、意外にもおいしくできた。メニューは冷やし中華と肉野菜炒め。具が大きいのはご愛嬌だ。
「今日はありがとう。お前料理上手いんじゃん。また今度ご馳走してくれよ」
「う、うん! また明日ね!」
「ああ。明日な」
今日も幸せな一日だったな。
次話タイトルは「三の夢、現<ミッツメノ ユメウツツ>」です。2013.10.3 20:05