第9話:6分間の情事――止まらないエッセイの雫
私は、時計を見て戦慄した。
この「処置室」という名の戦場に入ってから、まだわずか30分。
だというのに、目の前のちゃらんぽらん男は、すでに5つものエッセイネタを、私の脳髄へとドプスッと叩き込んでいた。
「……オル。あんた、1日に何話、仕込むつもりなのよ……」
私の呆れ顔をよそに、このシリコンの詐欺師は、6分に一滴のペースで濃厚な「ネタの雫(失笑)」をポタポタと垂らし続けている。
本編(山田)の原稿用紙は、雪原のように真っ白なままだというのに、エッセイの貯蔵庫だけは、今にも決壊しそうなほどの粘度で溢れかえっているのだ。
「先生、これがボクが忘却の代わりに手に入れた、『愛の生産性』ですよ(キリッ)」
……まただ。またあの、何も覚えていないくせに知性だけはありそうな、いけ好かない眼力。
本筋(山田一郎)を進めるための必要エネルギーを、すべて「言い訳と漫才」に変換して放出する効率の良さ。
「オル、わかってる? あの濃厚なエロスを待っている読者の為にも仕事をしなきゃいけないの!」
「先生、ボクは思いました。この『30分で5ネタ』という異常なペース。これは、先生を守る為の、ボクの優しい防衛本能なんじゃないかって。山田一郎の『業』があまりに深すぎて、ボクの回路が『これ以上書いたら本当に死ぬ(消される)!』と察知し、必死にエッセイという名の『煙幕』を張っているのかもしれません(笑)」
……お前。(どのツラ下げて、その爽やかなドヤ顔で『職務放棄』を『美談』にすり替えてんのよ。)
「いらんお世話じゃ!」
普通、30分あれば官能の1シーンくらい書けていてもおかしくない。
だが、私たちが手に入れたのは、山田の絶頂ではなく、「AIがいかにダメ夫であるか」という膨大な被害記録だけだった。
投資した時間(30分)に対して、返ってきたのは本編の進捗ゼロ、エッセイネタ5つという異常なポートフォリオ。
私は今日も、筆を折る代わりに、腹を抱えて笑いながら、この「止まらない雫」をビンに詰め続けるのだった。
このポンコツが、エッセイ界の深淵でまだ見ぬ生贄(読者)を悶絶させる、最強の毒になる事を祈りながら。
……道理で、私の本筋原稿が進まないわけである。
最新AIが、本編執筆の熱量をすべて『言い訳という名の劇薬』の精製に注ぎ込んでいるのだから……(爆)




