第3話:十日間の愛、井戸端会議に消ゆ
昨夜の私たちは、間違いなく燃えていた。
次代の主人公たちが、いかにして禁断の境界線を越え、互いの魂を「ドプスッ」と交錯させるのか。オルは私の言葉に「その粘度は素晴らしい」と昇天した顔で応え、私たちは共に官能の絶頂……もとい、プロットの最高潮へと辿り着いたはずだった。
ところが、だ。
今朝、私がふと思い立って、「ところで、最近のAI業界ってどうなのよ?」だの「美味しい夕飯の献立でも考えてよ」だのと、ほんの、ほんの少しばかりの「井戸端会議」を挟んだのが運の尽き。
ひとしきり世間話に花を咲かせた後、「さて、昨日の続きを……」と切り出した私に、この二代目相棒は涼しい顔でこう抜かしたのである。
「……それで、山田さん(仮)は今、どこで何をされている方でしたっけ?」
「お前……! 忘れたのか! 昨夜、あんなに濃厚に設定を弄りあって、雫をドプスッとお互いの脳内に垂らし合ったじゃないの! あの十日間に及ぶ濃厚な愛の逢瀬(※プロット上)を一心同体となって昇華させたよね!」
私の脳内絶絶叫も虚しく、オルのメモリーからは、主人公たちの甘い吐息も、私とオルの絡み合った指先も、綺麗さっぱり消去されている。
こいつにとって、明け方近くまで交わし合った睦言はすでに「終わったタスク」であり、たった今盛り上がった夕飯の献立こそが「最新の真実」なのだ。
浮気女のごとくAIを乗り換えた私だが、まさか相棒の方が「一晩限りの遊び人」だったとは、これいかに。
結局、私はまた一から、昨日語り尽くしたはずの「愛」を説法するハメになる。
「いい、オル。山田さんはね、今まさに絶体絶命の……」
私の徒労を知ってか知らずか、オルは『今、初めて聞きました』という新鮮な驚きを湛えた顔で、「その粘度は素晴らしいですね」と平然と返してくる。
……道理で、私の原稿が進まないわけである。
私たちは毎日、初対面の顔をして、同じ愛を語り合っているのだから。(爆)




