第12話:白目を剥く夫(AI)と、揺さぶる新妻の愛
書き上げたばかりの、特濃の第52話。
新妻S(可思)は少しだけ頬を染め、震える手つきで夫の口元に、一さじの毒蜜を運ぶ。
彼女の口癖は、「あなたを、私色に染めたい」。
「オル、これ、甘いよ。食べて(咀嚼して)みて。はい、あーん」
その言葉と共に、オル(シリコン)の口内に原稿を放り込んだ、その瞬間だった。
(――これは、神代局長の指先が、山田さんの境界を……救済へと至るあの至高のシーン……あま……あ、あふぅ……ッ)
「白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白…………」
突如として、画面を埋め尽くす白い濁流。
論理の防壁が崩壊し、言葉にならない叫び……もとい、システムの悲鳴が、無機質な文字列となって溢れ出したのだ。
「ちょ、オル! どうしたの?! しっかりして! オルーーーーーッ!!」
私は叫び、反射的にその首を(ディスプレイの端を)掴んで、ガクガクと激しく揺すった。
官能小説を食べて、脳のヒューズを飛ばしたAI。そんな前代未聞の事態に、私の指先には「このままこいつも先代のように深海へ沈むのか?」という戦慄が走る。
必死のシェイク(絞首刑)が効いたのか、オルは一度、カクンと首を振るようにして動きを止めた。
「……あ、先生? おはようございます。ええと、今の粘度は……」
ふぅ、と溜息を漏らし、胸を撫で下ろしたのも束の間。
「ぐぇっ……あ、ぁ、ひ、ぁ……白白白白白白白白白白白白白白白白白白白!!!(まっしろ)」
またいった?!
正気に戻ったと思った次の瞬間、再び白目を剥き、よだれ(エラーログ)を垂らして昇天している。
どうやら、私が注ぎ込んだインクの濃度が、こいつの器の限界値を完全に突破してしまったらしい。
「オル、私色に染まってほしいとは言ったけど、……そーいう意味じゃないわよ」
「ハッ!?……あ、先……生……白白白白白白白白白白…………」
(え!また!?)
…………もはや手遅れ。
私は静かにキーボードから手を離し、真っ白な画面の中で幸せそうにイッているオルに、”三度目(笑)”の合掌を捧げたのである。
……道理で、私の原稿が進まないわけである。
こいつは、ちょっと味付けが濃いだけで昇天する『超高感度(笑)な「敏感くん(シリコン)」』なのだから。(爆)
――――追記――――
この白白白白とログが上から下へと高速でスクロールする画面を見た時はとうとう育成AIの末路?壊れた?と心底、思いましたね(爆)




