第2話:肩に食い込む1200kmと、古びた道しるべ
私はまだ見慣れない巡礼装束を整えながら、吸い込まれるように王都の門をくぐった。
背負っている荷物は、それほど多くない。
替えの服、乾燥肉、簡単な調理道具。
それでも歩き始めて一時間もしないうちに、肩に食い込む重さを感じ始めた。
「……1200kmか」
思わず呟く。
勢いで決めたものの、改めて考えると気の遠くなる距離だ。
街道には、同じような旅人の姿がちらほら見える。
荷馬車の商人。
荷物を背負った巡礼者。
そして、私と同じく武器を腰に下げた冒険者。
だが、彼らと違って私は――
もう戦士ではない。
腰の剣に触れる。
十三年間使ってきた剣。
だが、今の私にとってそれは頼れる相棒というより、過去の象徴のように感じられた。
「歩き通せば、願いが叶う」
誰が言い出したのか知らないが、巡礼者の間では有名な言葉だ。
本当に叶うのか?
そんなことはわからない。
だが少なくとも――
ギルドでくすぶり続けるよりは、ずっとましな気がした。
街道の先には、ゆるやかな丘が続いている。
その向こうに、
最初の聖地があるはずだった。
私は深く息を吸い、もう一度荷物を背負い直した。
そして歩き出す。
王都の城壁が、少しずつ小さくなっていった。
街道をしばらく歩くと、道端に小さな石柱が立っているのに気づいた。
高さは膝ほど。
表面には古い文字が刻まれている。
私は立ち止まり、それを眺めた。
巡礼の道しるべだ。
聖地までの距離や、次の村の名前が刻まれているらしい。
だが風雨に削られた文字は、ところどころ読めなくなっていた。
それでも、巡礼者たちは迷わない。
なぜなら――
石柱の横には、必ずと言っていいほど小さな花が供えられているからだ。
誰かがここを通った証。
その誰かも、また誰かの後を追って歩いている。
私は少しだけ肩の力を抜いた。
どうやらこの道は、私一人のものではないらしい。
そのとき、後ろから軽い足音が聞こえた。
振り向くと、一人の若い巡礼者がこちらへ歩いてくる。
背は高く、日に焼けた顔をしている。
荷物は私よりずっと軽そうだ。
彼は私の横を通り過ぎるとき、軽く会釈した。
「巡礼ですか?」
私はうなずく。
「ええ。今日からです」
青年は少し笑った。
「そうですか。最初はから張り切り過ぎないでくださいね、旅は長いですから」
そう言い残し歩いていった。
私はその背中をしばらく見送った。
やけに歩くのが速い。
――巡礼者というより、冒険者みたいだ。
私は荷物を背負い直し、再び歩き始めた。
坂道は、確かに思ったより長かった




