巣立ちと出会い
「家を出ていってもらうってどういうことですか!」
「ずっとついててくれるって言ったのに」
怖い。凄く怖い。師匠を失うのが。発狂してしまうほどに、怖い。
「待て待て、話をちゃんと聞け」
「はい...」
「出ていってもらうというのは、お前が守護神となるこの世界を回ってこいということだ」
「もちろん、私はずっとここに居る」
「なるほど...?」
「つまり、別に離れる訳では無い」
「帰りたくなったらいつでも帰ってくればいい」
え...めちゃくちゃ恥ずかしい....勝手に勘違いして、一人で突っ走って...死にたい...
「そうだったんですね...」
「なんだ、そんなに私と離れたくないのか?おいおい」
「もちろんですよ」
「お、おう、まあ、さほど急ぐ必要もない」
「しかし、お前はもう守護神だ」
「もう少ししたら、この世界でも何らかの式典が開かれるだろう」
「それまでに、守護神ではなくただの人として、この世界を回っておくといい」
「なるほど...」
「わかりました、準備します」
「あぁ、頑張れよ」
「あ、その前に、言っておかなければな」
「どうかしました?」
「いや、この世界のことを説明してないかと思ってな」
師匠が珍しく先に言おうとしている!?
「神達からは、ひとつの世界としてバシレイアと呼ばれているが、バシレイアの中は意外と普通で、人間が盛んに活動している」
「な、るほど?」
「つまり、この世界も何国かに分かれていて、いざこざも絶えず起こっている」
「それは大変ですね」
「それを治めるのも、守護神の仕事だ」
「え」
「戦争の仲介、国際問題の解決、異常への対処」
「その他にも多くの問題が、守護神に委ねられる」
もう...やだ...
「そうなんですね...それも含めて世界を回ろうと思います...」
「あぁ!応援してるぞ!」
その日の夜、僕は部屋を見回しながら持ち物を確かめた。
「それにしても、たまたま拾った子供に部屋をあげるなんて、やっぱり師匠は優しいな」
準備と言っても、召喚魔法の系列の収納魔法で荷物は運べてしまうため、さほど準備することなどなかった。
この家を出るのか...寂しいな...。
来てからそんなに経っていないのに、師匠の家が故郷に見える。
でも、気を張らなくちゃ!僕はもうこの世界の守護神なんだから!
いつもより少しだけ早い朝
僕は黒いローブを着て、家の扉の外側で、師匠と向き合っている。
「まさか、言った次の日に出るとはな」
「早く師匠の助けになりたいので」
「それに、僕はこの世界の守護神ですから」
「この世界のこと、沢山学んでこようと思います」
「寂しくなるな」
「え?」
師匠は、今までに見たことないような、悲しそうな、嬉しそうな、懐かしそうな、言葉には出来ない顔をしていた。
「これだけは覚えておけ」
「お前に何があっても、お前がどんな苦難に立ち向かっても」
「お前は、私の、唯一かつ最高の弟子だ」
「師匠...」
涙が湧き出てくる。
嬉しいのに、心が締められるような。
これが、本当の愛情なのかな。
「師匠は、僕にとって最高の家族です!」
「さあ、行ってこい!我が弟子ヘルフェン・カリタスよ」
「はい!師匠!」
後ろを向き、前へ歩く。
振り向かず、立ち止まらず。
涙が垂れないように。
その時、後ろから優しい声が聞こえた。
「ずっと待ってるからなー!ヘルンー!」
振り返ってしまった。
師匠には勝てないな。
「成長して帰ってきます!師匠!」
これからは、一人でこの世界を見る。
頑張るぞ!
森に入ったので、暗くなる前に突き抜けようと、魔法で森の上を飛んでいると、少し先から大きな馬の鳴き声が聞こえた。
そちらに向かってみると、遠目に赤い馬車が見えた。
馬車には、荷物しか積まれていないようだ。
森の中に降り、視力を強化してその辺りを見ると、馬車の近くには、茶色い服を着た、いかにも怖そうな人達が、ナイフやらショットガンやらを持って馬車を囲んでいる。
馬車の周りには、赤い隊服を着た数名の兵士と、白い隊服を着た階級の高そうな女の人が居た。
強盗か!?
数では、強盗が圧倒的に有利だった。
助けに行かないとだけど...下手に魔法を使うと、今後の旅に響くかもしれない。
この世界の魔法レベルによっては、浮いてしまう。
でも、助けに行かないと死んじゃうかもしれない!
「よし、行こう」
足に強力な強化魔法をかける。
左足を少し後ろに下げ、右足で思いっきり踏み込む。
その瞬間、まさに瞬きすら間に合わない速さで、僕は強盗団の真上に来ていた。
宙に浮きながら周りを見下げる。
顔はフードで隠していた。
なるべく低く、威厳のありそうな声を出す。
「貴様ら、やられたくなければさっさと散れ」
「なんだお前は!」
そんな言葉が、強盗団側からも、兵隊側からも聞こえた。
「私は通りすがりの旅人だ」
「強盗にあっている馬車を見つけたから助けに来たまで」
「お前一人が来て何が出来る!」
「それはやってみれば分かることだ」
やりたくないな...早くどっか行ってよ...
「おいお前ら!先にあの浮いてるやつをやるぞ!」
「全隊員、あの旅人を守れ!」
「それは大丈夫ですよ、女騎士さん」
「皆さんはなるべく離れておいてください」
「本当に大丈夫なのか!」
「大丈夫ですから、早く」
「分かった、全隊員、旅人の周りから離れろ!」
「ありがとうございます」
これで、魔法を使っても問題ない。
ただし、攻撃魔法は無しだ。
僕は守護神。どんな人でも殺す訳にはいかない。
彼らの処遇は人間に決めてもらおう。
とはいえ、強盗団には少し腹が立っている。
強盗をすることは許せないし、何より僕の旅を邪魔された。
「少しヒリヒリしますよ」
「パラライズ」
途端に強盗団の全員が倒れ、地面で痙攣していた。
「旅人殿、一体何をしたのですか?」
「魔法で全身を麻痺させただけですよ」
「普通の人なら、一日もすれば元に戻ります」
「なるほど、御協力に感謝します」
近くで見た彼女は、騎士にしては明るそうで、綺麗な人だった。
「いえいえ、では」
「お待ちください、旅人殿は、どこへ行かれる予定で?」
「僕は、ここから一番近い国に適当に行くつもりです」
「では、私たちがお送りしましょう」
「いえ、結構ですよ、悪いですし」
「大丈夫です、私たちはそこの国の者ですから」
「国に帰る途中に、強盗団に襲われたのです」
「なるほど...では、お言葉に甘えさせて頂きます」
「それはこちらとしてもありがたい!さぁ、どうぞ、ご乗馬ください」
彼女は、自分の馬を手で指しながら、嬉しそうに言った。
「大丈夫です、飛ぶので」
あと、女の人と二人で乗るのは気まずい...
「そうですか、分かりました...」
なんだか少し悲しそうだった。
なんかごめんなさい...
兵士さん達に合わせて飛んでいると、森を抜け、すぐに大きな石壁が見えてきた。
「あそこが我らの国、イレーネです」
「大きいですね」
「他国と比べればそこまで大きくはありませんが、他国に負けじと栄えております」
「そうなんですね」
「私たちは兵士用の通路から入るので、旅人殿は正面の門からお入りください」
「では、また中でお会いしましょう」
「はい、また後で」
いい人達だな。
正面の門には、重装備の二人の兵士が居て、通行人の何かを見ていた。
とりあえず列に並び、それが何なのかを観察していたが、結局それが分からずに自分の番が来てしまった。
「共通身分証明書をご提示ください」
「あの、持ってないです」
「え?」
「え?」
そして今、僕は牢屋の中にいる。
なんでよ...
次話は、2025年8月21日12時に投稿します!
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