新たな旅。
深奥テアとの決戦からしばらく経ったある日。
「本気ですか!?ヘルフェン君!」
「はい、もうみんなと話して決めたことなので」
「まさか、魔導国カリタスの王をネロ君に任せて旅に出るとは」
「ヤブランも残ると言ってくれました」
「ネロが心配みたいで」
「なるほど...」
「しかし、どこに行く予定なのですか?」
「決めていません」
「ハネストももう時空の移動に耐えられますから」
「色んな世界を見てみようかと思います」
「そうですか...」
ハデス様は、明らかに寂しそうな顔で言った。
「まあ、ちょこちょこ顔を出しますよ」
「ネロが心配なのは僕もですし、師匠やハデス様にも会いたいですしね」
「ふむ、絶対ですよ!?」
「神界暦一年に一度は帰ってきてください!」
人間界の十年程度か。
「はい、もちろん」
「では仕方がないですね、あなたの旅が良いものとなることを祈っています」
「ありがとうございます!」
「ところで、バシレイアの守護神の契約はどうすれば良いでしょうか」
「持っていてください、何かあった時、きっとあなたを守りますから」
「ネロ君に関しては私が面倒を見ましょう」
「なので、ネロ君に契約を譲渡する必要はありませんよ」
「ハデス様...ありがとうございます!」
僕は深々と頭を下げた。
「頭をあげてください、友人として出来ることをしようとしているだけです」
「では、行って参ります!」
「はい、くれぐれも気をつけるのですよ」
「後、もし神界で何かが起きた時、あなたの助けが必要になるかもしれません」
「その時は、瞬時に駆けつけます!」
「ありがたい、ではそろそろお別れしましょう」
「はい!ありがとうございました!」
ハデス様の事務室の扉を閉めると、中から誰かが泣きじゃくる声が聞こえた。
人間界の三年に一度くらいは帰ろう...
宮殿に戻り、みんなを集めた。
何人かは思いが瞳に溢れていた。
「ネロ、後はよろしく頼むよ」
「はい」
目に涙を浮かばせながら、ネロは必死に頷いた。
「たまには、帰って来いよ」
「うん、ヤブランも、寂しい時はいつでも呼んでね」
「寂しくなんかねーよ」
食い気味のツッコミには、やはり少し寂しげがあった。
「いつか、師匠が再び国主に着く日まで、師匠の国、必ず守ってみせます!」
ネロは決意するように言った。
「うん、いつかね」
「その時にはネロの方が国主らしいかもしれないね」
みんなが少し微笑み、家族全員としての時間が始まった。
旅に出れば、当分の間は家族全員で集まることは出来ない。
この時間は、僕らにとってとても貴重なものだった。
「それにしても、ヘルンにフィリア、アイシーにフィオナ、一人一人が国家権力級の旅団なんて、来られる世界も大変だよね」
「ハネストも人間の中では確実に頂点の存在だからね」
「そう考えると、うちの家族、凄い人ばっかりだね...」
「はは、確かに...」
こんなたわいもない話も、もうすぐ全員では出来なくなる。
僕の心では、ネロ達と別れる寂しさと、新たな世界への興奮がぐるぐるとかき混ぜられていた。
放浪の旅。
それはかつてこの体になった時から目指していた目標。
前世で出来なかった分、今度は様々な世界を見て、楽しく生きる。
あの時はその事しか頭になかった。
でも今となると、僕は死神という職業に大分魅了されたらしい。
この職業のおかげで、今の家族と出会うことも出来た。
ずっとこのままでもいい、そう思ったことも多かった。
だけど、やっぱり。
僕は、新しい世界を目一杯楽しみたい!
その次の日、魔導国カリタス開国から半年という短期の間王となった少年が、自国から旅立った。
新たな国主はこれまた若々しい少年で、隣には頼れる男が居た。
一時期多世界に名を轟かせたヘルフェンファミリーは、ネロとヤブランを除き、行方が知られることはなかった。
ある所の噂では村を強盗団から救い、またある所の噂では水に困った地域に川を流した。
二百年後、ヘルフェン・カリタスの存在があったことを示すものは、もはや国名だけとなった。
その名は既に物語の一種となっていたが、確かに、その存在は魔導国のみならず、様々な世界に影響を与えた。
ヘルフェンの名は日常では聞かないものとなったが、その代わり、魔導国カリタスでは一つの冒険者パーティが名を馳せていた。
その名は、「ヘルンファミリー」
ーヘルンの旅立ちから二百年、ネロは国主としての仕事に十分になれ、国全体を栄えさせていたー
見た目は二十歳位の青年で止まり、今では全国民から慕われている。
たまに教会の子供達と話すのが楽しみだ。
「ネロ様ー!また昔のお話聞かせてー!」
「あぁ、いいよ」
「昔、この魔導国の王様が僕じゃなかった事は教えたね」
「うん!ヘルフェン・カリタス様でしょ!」
「そうだね」
「その人はね、とても勇敢で、強くて、格好良くて」
「でも、一緒に居ると安心する、とても優しい人だったんだ」
「へー、その人はなんで王様辞めちゃったの?」
「あの人は旅に出たんだ」
「信頼出来る仲間を連れてね」
「本当は僕も行きたかったんだけど、あの人からこの国を任されてしまってね」
「その時、この国はその人のおかげで急成長していた」
「人々は活気づき、みんなが彼を慕っていたよ」
「だから、僕は命をかけてでもこの国を守ると誓ったんだ」
「そうなんだ!その人凄いんだね!」
「うん、僕の師匠は、凄い人だった」
「あぁ、最初の頃は数年に一度会っていたんだけどね」
「もう数十年会っていないよ」
「なんでー?」
「さあね、あの人は忙しい人だから」
「でも、早く会いたいね」
「僕だって、寂しいものは寂しいのだから」
「早く会えるといいね!」
「ふふ、彼は旅立つ時、僕になんて言ったと思う?」
「なんて言ったのー!」
「それはね」
続けて言葉を発しようとした時、衛兵が扉を開けて言った。
「ネロ様ー!そろそろ時間です!」
「ああ、もう会議の時間か」
「この話は、また今度しよう」
「えぇー、わかった」
「よし、いい子だ」
僕はその子の頭をそっと撫でた。
それは、あの人が僕にしたように。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
約5ヶ月半に及ぶ連載に、一度区切りを付けさせて頂きます!
ここまでを第1期とさせて頂き、第2期の制作も予定しております!
ブックマークをして頂いていると、第2期が始まった際、スムーズにお読みいただけますので、是非しておいて下さい!
ヘルンの楽しい生活は、これからも続きます!
「新しい世界を、仲間と一緒に目一杯楽しむぞ!」




