大戦前の静寂
神王テアは、恐らく魂を源に強大な力を得ている。
悪魔の大進行により多くの生命が回収された。
元から回収した魂と生み出される魂の数にズレが生じていたが、悪魔の進行からはそれが顕著になっている。
度々問題視されていたが、次々に怒る異常によってあまり追求されることもなく、時間の問題だと解決されてしまっていた。
でも、もうはっきりした。
神王テアは元々魂を少しずつ溜めていたのだろう。
そしてたまたま起こった悪魔の大進行によって回収された大量の魂を糧に、莫大な力を得た。
普通、天使も悪魔も肉体に一定以上の攻撃を加えると、魂も傷つき、死ぬ。
肉体が残らないような攻撃を受ければ、通常死ぬはずなのだ。
しかしあの天使達は死ななかった。
つまり、メネシスは天使の肉体の致命傷にならなかった。
いや、そもそも天使の肉体に致命傷という概念すら消えていたのだろう。
生命の魂を生贄にすれば、肉体の再生程度は出来てもおかしくない。
魂への直接攻撃しか致命傷にならないとなると、今天使に最前線で対抗出来るのは死神だけだ。
みんなを、集めよう。
「全員集まったね」
事務室に家族全員が集まった。
「うん、それで、議題は?」
「もうすぐ、大規模な争いが起きる」
「相手は、神族の天使だ」
「天使には、魂に干渉する攻撃しか効果を持たない」
「でなければ、いくら肉体を壊しても蓄えた魂の力を利用して再生する」
「じゃあ、私達は何も出来ないの?」
「いや、肉体の再生には蓄えた魂を必ず消費する」
「だから、みんなにはとにかく攻撃を与えてもらいたい」
「神王テアの力を削げれば、最後、必ずこちらに有益となる」
「なるほど」
「そして、今回は死神達との共同作戦になる」
「まあ所謂僕の部下な訳だけど」
「僕は他の死神に比べて歴が浅いから、完全な尊敬を得ているわけじゃない」
「ハデス様も力添えをしてくれるだろうけど、悪魔のみんなは、心地よくない事が起きるかもしれない」
「でも、絶対に死神を敵には回さないで欲しい」
「今はまだ、悪魔と神族の和解は僕が強引に進めていると言って過言ではないけど」
「必ず、将来その二つの種族が手を取り合える世界を築きたい」
「どうか、今は耐えてくれないかな」
僕は悪魔のみんなを見回した。
「気にするな、俺は自分が悪魔であることを理解した上で悪魔としての誇りなんて持ち合わせていない」
「俺は、ただお前の仲間として恥ずかしくないように生きたいだけだ」
「ヤブランにしてはいい事を言うじゃないの」
「はぁ、アイシー、お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「ヤブランが言ったことが悪魔である私達の総意だとしてくれて問題無い」
「それに私なんかは既に悪魔として一度死んでいるからな」
「今はヘルンの仲間であり、この国の国主補佐としての立場しか考えていない」
うん、やっぱり、僕の仲間は強いな。
「みんな、ありがとう」
「そして、ハネスト」
「君はこの中で唯一の人間だ」
「神や悪魔の戦いに混じるのは正直めちゃくちゃ大変だと思う」
「でも、僕は君を隠したりはしないよ」
「君は十分に人間を超越するものと戦う力がある」
「頼りにしているよ」
ハネストは、目を少し潤わせ、元気よく返事した。
今までの僕なら、安全な場所に隠れて欲しいと言って居ただろうから、嬉しかったのかな。
「じゃあみんな、各自戦闘の準備をしておいて欲しい」
「フィオナは、死神の回復も出来るように、一緒に勉強しよう」
「この戦いでの衛生兵の兵長を任せるから、頑張ってね」
「うん!フィオナ頑張る!」
「そしてネロ、君は僕の魔法の研究を手伝って欲しい」
「分かりました!師匠!」
さあ、じゃあもう一つ会議を開くとするか...
憂鬱だな...
ー神王特権・契約者の声ー
神王のみに許される、緊急時に死神に情報を伝えたり集結させたり出来る魔法。
『緊急会議を開く、中級位以上の死神は迅速にヘルフェン宮殿に向かうように』
僕はまだ死神達からの完全な信頼を得ることが出来ていない。
しかし、この命令は断ることが出来ない。
雇用契約とは違う、絶対的な契約。
その効果は、知っていたとしても目を疑う程のものだった。
僕を応援してくれていた死神だけでなく、僕の急激な昇進に不満を抱いていそうだった死神も、全く面識がない死神も、僕が大広間に着く頃にはほとんど全員が揃っていた。
「ヘルフェン君が契約者の声を使うとは、珍しいですね」
「何が起きたのですか」
「天使が、僕の宮殿を襲撃しました」
「やはりそうですか」
「というと?」
「実は、私の宮殿にも襲撃が来ましてね」
「たしか、シュッツ君の元にも来たと言っていましたね」
「師匠のところに!?」
「そう心配しないでください」
「コテンパンにして冥土に送ってやったと自慢していましたので」
「は、はは」
師匠らしいなー...
「つまり、戦いの前にこちら側の主力を潰そうとしたということです」
「まあ結果、は今ヘルフェン君と会ったことでそれが失敗に終わったことが確定しましたが」
「しかし、最初は戸惑いました」
「何度消し飛ばしてもすぐ再生されましたからね」
「結局あまり使わないデスサイズを使う羽目になりましたよ」
確かに、ハデス様がデスサイズを使っているところはあまり見た事がないな。
「ふむ、やはりちゃんと生きていたか」
「流石、私の息子だ」
師匠が手を軽く振りながら歩いてきた。
「師匠、お疲れ様です」
「この会議、天使の件のことで間違いないな?」
「はい」
「三人とも考えていることは同じだな?」
三人の空気が一瞬張りつめた。
「まあ、魂の回収と誕生の数の差異という問題を放っていたツケが回ってきたというところだろう」
「死神がいなければ世界が滅ぶと同様に、天使がいなくても世界は滅びますからね」
「中々強く出れなかったのも仕方がありません」
「私達には生命の誕生に関する力が一切ありませんからね」
「天使を信頼して待っていたのですが、間違いだったのかもしれませんね」
「ハデス様...」
僕は神王テアとそこまでの関係は無かったが、ハデス様は長年二人の神王としてテアと共に神族を導いてきた。
信頼していた人に裏切られるのは、何よりも辛い。
僕だって、師匠やみんなに裏切られる事を想像しただけで、体が震える。
「では、そろそろ会議を始めましょう」
「三大偉神の他の御二方は来られそうに無いのでしょうか」
「そうですね」
「彼らには私の指示で長年にわたり重要な仕事を任せていますから」
「重要な仕事?」
「はい、異常の発生抑制です」
「異常の発生抑制...」
「彼らが居なければ、各世界で次々に異常が起こり、たちまち数多くの世界が滅んでゆきます」
「なるほど、それは仕方がないですね」
「では、始めましょうか」
「ええ、私達もついて行きますよ」
「ありがとうございます」
僕は、大広間の前方の壇に立ち、声を張った。
「急な呼び出し、申し訳ありません」
「緊急なこと故、礼儀を欠く形となってしまいました」
「ですが、時間が無いので早速本題に入らせて頂きます」
「死神は、天使及び神王テアとの全面戦争状態に入ります」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次話は、2026年1月18日に投稿します!
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