守護神
「よく来てくれました、ヘルフェン・カリタスよ」
「お初にお目にかかります、シュッツ・カリタスの弟子、ヘルフェン・カリタスです」
これが、死神の王、ハデス様...
思ってたより、大分若そうだ。
二十代くらいに見えるその人は、死神の王と言われるには、顔が優しすぎる気がする...
「話はシュッツ君から聞いていますよ」
「上級相当の悪魔を倒したと」
「師匠の訓練の賜物です」
「謙虚なのは良いことです」
「さて、この度来ていただいたのは、雑談をするためではありません」
「もちろん、それが出来るに越したことはないのですが」
「今は時間が無いのです」
死神の王にしては、口調が丁寧すぎないか...
「それで、僕に御用というのは」
「あなたには、今すぐバシレイアの守護神となって頂きたい」
「え、いや、それは、まだ僕には早いと思いますが...」
「上級悪魔を倒せるならば、力は十分です」
「そして何より、あなたは、慈愛の死神、シュッツ・カリタスの弟子だ」
「慈愛の死神?」
「あれ、話を聞いていませんか?」
またですか師匠!!!
「聞きそびれているようです...」
「彼女は、死神の最上位に位置する3人の死神の1人です」
「その中でも、特に能力が高く、死神の統帥を任せています」
・・・え?
いや、たしかに、師匠が上の方の階級であることは知っていた。けど、死神の最上位で、死神の統帥を任されている!?
あの人の忘れっぽさは、その能力との引き換えなのだろうか...
「シュッツ君には、引き続きあなたのサポートについてもらいます」
「バシレイアは、神王勢力にとって、再重要拠点ですからね」
そんな重要な場所、僕にはとても守りきれない...
「一つお聞きしたかったのですが、よろしいでしょうか」
「遠慮せず聞きなさい」
「何故、僕がそんな重要な場所の守護神に選ばれたのでしょうか」
「師匠が選ばれるのは分かります」
「しかし、私は適任では無いと考えます」
「ふむ、死神の訓練を始めて数ヶ月で上級相当の悪魔を倒した死神が、何人居ると思いますか?」
「分かりません」
「あなたを含め、二人です」
「そして、もう一人は、何を隠そうシュッツ君です」
「師匠と僕だけ...」
「つまり、あなた方以外に適任はいません」
「な、なるほど」
「どうにか、バシレイアをお任せ出来ませんか?」
「わかりました...やれるだけやってみます」
「それはありがたい」
「では早速、儀式へ向かいましょう」
「儀式、ですか?」
「はい、守護神になるための儀式です」
「簡単なものなので、あまり気負いせず、少々お待ちください」
「分かりました」
その会話から数刻、僕は今、数百人の死神に囲まれている。
これが、簡単なものなわけないでしょうが!
大きな宮殿の中で、左隣にはハデス様、右隣には師匠。目の前には数え切れない人数の死神が、美しく整列している。
やばい、倒れそう...
「まさか、あんな弱そうな子供だったお前が、こんなに早くここに立つとはな」
「やるじゃないか」
「からかわないでくださいよ...緊張で死にそうです」
「死ねませんけど」
「さあ、式典が始まりますよ、先程説明した通りにして頂ければ良いですから、力を抜いて、頑張ってください」
「はい、頑張ります」
時間になると、ハデス様が一歩前へ出て、高らかに優しい声を響かせた。
「よく来てくれた、親愛なる死神達よ」
「皆と歓談したいところだが、今回集合をかけたのはそれでは無い」
「ここにいる、ヘルフェン・カリタスの、バシレイア守護神任命式の為である」
僕も一歩前へ出て、頭を下げる。
ゆっくりと頭を上げ、精一杯の声を出す。
「シュッツ・カリタスの弟子、ヘルフェン・カリタスです!」
「この度、バシレイアの守護神となります!」
「未熟者ですが、全力を尽くしてバシレイアの平穏を守り通すことを、ここに宣言します!」
大人数の前で話すのは、これが初めてだった。
目の前の死神たちの反応は、良くも悪くもあっさりとしていた。応援の声を掛けてくれる人も居れば、興味のなさそうにしている人もいる。
それくらいが、ちょうど良かった。
「シュッツ・カリタスだ」
「ヘルフェンの補助として、バシレイアに拠点を置くこととなった」
「よろしく頼む」
その時、宮殿全体から、とてつもない大きさの歓声が聞こえた。
みんなの興奮度合いを見ると、師匠は相当腕の立つことで有名なようだ。
師匠はやっぱり凄いんだなぁ。
あ、それよりも、守護神任命の儀式!
ハデス様に膝まづいて、ハデス様と僕の魂が契約を結ぶ。この式典で、最も重要な儀式だ。
「さあ、始めよう」
ハデス様が小声で合図をくれた
「はい」
僕は、ハデス様に膝まづいた。
ハデス様が、優しく僕の頭に触れる。
「神王ハデスの名において、このヘルフェン・カリタスを、バシレイアの新たな守護神に任命する」
その瞬間、死神達からの拍手が巻き起こった。
それは、儀式の一環で、決して暖かいものでは無かったが、僕を緊張させるには十分だった。
「これで、バシレイア守護神任命式は終わりである」
「皆気になるだろうから、ヘルフェン君について雑談程度に話そう」
「ヘルフェン君は、人間から死神になった、所謂後天性覚醒者だ」
「皆も知っての通り、後天的に死神に目覚める者は、強力な死神になることが多い」
「ヘルフェン君も例外ではなく、最近、訓練を初めて数ヶ月にして上級相当の悪魔を倒した」
宮殿中がどよめく。
誇らしさと恥ずかしさで、死にたい...
「ヘルフェン君には、今後も素晴らしい活躍を期待している」
「だが、ヘルフェン君は死神になってから日が浅い」
「彼が困っていたら、皆、先輩として助けてやってくれ」
『分かりました!』
その場にいる死神全員が同時に出した声は、宮殿が少し揺れるほど力強いものだった。
ハデス様は、相当慕われているようだ。
「では、解散!」
『ハッ』
死神は忙しい。先程まで死神でごった返していた宮殿は、少し経てば寂しくなるほどに空いた。雑談していた死神も居たが、決して長くはならなかった。
「私達も帰ろう」
「はい」
「シュッツ君、ヘルフェン君、バシレイアをよろしく頼むよ」
「あ、ハデス様、頑張ります!」
「ハデス様の為ならば、最善を尽くします」
慈愛の死神状態の師匠は、出会った時と思い出す格好の良さがあった。
家に着くと、なんだかとても安心した。
師匠の家は、既に僕の落ち着く場所となっていた。
「疲れたか?」
「はい...」
「まあそうだろうな」
「何せ、初めてハデス様に会ったんだから」
「めちゃくちゃ緊張しました」
「あ、でも、僕、死神になって良かったって思えました!」
「ほう」
「たしかに、冷たい人も多かったですけど、ハデス様や、師匠、僕を応援してくれた人、あんなに優しい人が自信を持って死神として働いている」
「それを見て、僕もそんなふうになりたい、清く、自分の仕事に自信を持って生きていきたい」
「そう、思えたんです」
「そうか、それは良かったな」
「あと、師匠、とても格好良かったです!」
「え?あー、そうか?今回は死神の大半が集まっていたからな、ちょっと頑張ったのだ...」
「はい!素敵でした」
「もうそんなことはいいのだ!」
「そんなことって、本当に格好良かったのに」
「分かったから、もうやめてくれ!」
師匠は、さっきまでの師匠とはまるで違う、いつもの親しみやすい師匠に戻った。
「守護神として、やっていけそうか?」
「やっていけるかは分からない、けど、頑張りたいと思います!」
「あぁ、この世界を目一杯楽しむといい」
「もう少ししたら、この家から出てもらうつもりだしな」
え?...
次話は、2025年8月20日(水)12時に投稿します!
ご意見、ご感想、お待ちしています!
下の評価の星5、ブックマークもよろしくお願いします!




