調査
先日、武闘大会終了後に魔導国カリタスの国主補佐フィリアが何者かによって精神を乗っ取られた。
その時は何とか意識を取り戻し原因を消滅させたけど、それを送り込んだ犯人はまだ分かってない。
恐らく、開国祭二日目に魔導国を襲った魔力で出来た雷龍を送った犯人と同じ人物だろう。
雷龍からは神族の魔力を感じた。
仲間の中に、敵がいる。
戦闘に関わる魔法が得意なのは死神。
雷龍の事件から少しずつ探っているけど、一向に犯人が掴めない。
「ハデス様達にも協力を頼もうかなぁ」
事務室の自席の机に顔をへばりつかせてため息をついた時、机の前に一人の女性が現れた。
「神王ヘルフェン・カリタス様、お待たせしました」
「ピスティーお疲れ様、どうだった?」
これは、僕が神王になった時に補佐役として紹介された人だ。
死神の中でもかなりの実力を持っていて、僕の補佐役となったことで死神の階級でも上位に位置している。
爽やかな中性系の見た目をしているが、能力は本物だ。
そんな彼女に、死神の中から怪しい人を探す役目を任せていたのだ。
「はい、死神総勢約千名を調査しましたが、特に怪しい者は見つかりませんでした」
「そうか、やっぱり勘違いだったのかな」
「失礼ですが、私の意見をお伝えしてもよろしいでしょうか」
「うん、もちろん」
「ありがとうございます、私が思うに、犯人は神族で間違いないと考えます」
「なんでそう思うの?」
「ヘルフェン様が感じられた神族の魔力、神族の魔力を模倣することは非常に難しくほぼ不可能だと言われています」
「雷龍の形成をするほどの魔力を模倣することはもはやありえないでしょう」
「確かに、一理ある」
「とりあえず調査を続行してほしい」
「大変だと思うけど、よろしく頼む」
「私はヘルフェン様の補佐役、その役は私から頼み込んだものです」
「我が忠誠は永遠にヘルフェン様に捧げます」
ピスティーが膝まづいて忠誠を誓った。
いや、イケメンすぎ...!
「あ、ありがとう」
「では、失礼します」
そう言うと、ピスティーは再び姿を消した。
顔が少し火照っている。
「仕事中だ!しっかりしないと!」
「ハネスト、準備は出来た?」
「うん!」
僕らはついに、領地の調査に乗り出した。
まずはバシレイアの全国を見学する。
これは超極秘に行われ、手早く終わらせることが求められる。
何故なら、ヘルフェン宮殿はもはやバシレイアの中枢となっており、そこに僕が居ないと知れば何かが起きかねないからだ。
それは内部外部を問わない。
ヘルフェン宮殿付近は頻繁に襲われている。
内政に必要なこととはいえ、早めに終わらせよう。
「なんで私も行っちゃだめなのー!」
ヘレナが嘆いている。
バシレイアの領地調査にはハネストのみを連れることにした。
なるべく、ヘルフェン宮殿に戦力を残しておきたかったからだ。
本当はみんなで遠足みたいに行きたかったんだけどなぁ...
「ごめんね、僕達が居ない間はフィリアに内政の全てを任せるよ」
「あぁ、わかった」
「いつ外敵が襲ってくるか分からない」
「その時は、必ず僕に報告するんだよ」
「意識会話が出来るのはフィリアとアイシーとヤブランだったかな?」
「その三人は、ヘルフェン宮殿で起きたことをなるべくこまめに僕に伝えて欲しい」
「了解した」「分かったわ」「気をつける」
「じゃあ、行こうか」
「行こー!」
一日で全国回ってやるー!
一日、経ってしまった。
まさか、最初の国で早々正体がばれて盛大にもてなされて、一国で一日費やすことになるとは...
ハネストは美味しいものを食べて幸せそうだ。
まあ、この笑顔のためだと思えばいいか...
「ヘルン!これ美味しいよ!」
ハネストが笑顔でフォークに肉をさしてこちらに向けた。
食べてみると、確かにめちゃくちゃ美味しかった。
「確かに、これ美味しいね」
着いてすぐに急遽開催された握手会の疲れで、パーティーのご飯はどれも美味しく感じた。
ハネストは人間だから無理させる訳にはいかない。
今日は寝て明日次の国に行こう。
夜に国が用意してくれた宿のベッドに寝転がっていると、なんだか少し嫌な気がした。
少し体がそわそわする。
なるべく早く終わらせてさっさと帰ろう。
次の日、静かに最初の国を去ると、高速移動で次の国へ向かった。
「次の国からは、意識阻害魔法を使おう」
「なるべく早く宮殿に帰らないといけないからね」
「うん、分かった」
ハネストはなんだか少し悲しそうだった。
「どうかしたの?」
「いや、久しぶりに二人で旅してるから」
「もうちょっとゆっくり旅出来たらなって」
「いや、もちろん、今の国の状況も分かってるから、ヘルンの言うことに賛成するんだけどね」
そうか、確かに大分久しぶりかもしれない。
仲間が沢山増えて個人同士関係が疎かになっていることは否定出来ない。
寂しい思いをさせてしまったな。
「そうだね」
「じゃあ、イレーネとサスティナだけは普通に見回ろう」
ハネストの瞳に輝きが戻ってきた。
餌を目の前に持たれた子犬のような、純粋な嬉しそうな顔。
「やったー!さ、早く次の国行こー!」
「なるべくその時に時間を使えるように、他の国は早めに見て回ろう」
「うん!」
豊かな国、貧しい国、貧富の差が激しい国、それぞれの国に、それぞれの顔があった。
「これは、改革の余地しかないね」
「うん、神の国でも、やっぱり裏の顔がある」
「僕が必ず、この世界の全てを照らしてみせる」
「次は、イレーネだね」
「もう一日以上経ってるし、一度寝てからにしよう」
「あれ、もう一日経ったの?」
「世界を飛び回ってるからね」
「日の昇り沈みで一日を測ることが出来ないんだ」
「なるほどね」
「じゃあ久しぶりの野宿か!」
「なんだか楽しいね」
「うん、こういうのもたまにはいいね」
想像魔法で簡易的な家を建てよう。
これも要るかな、これも無いよりはあった方が...
少し、やりすぎたかな?
そこにはそれなりに立派な一軒家が建っていた。
「野宿とは...」
ハネストは驚きはしないものの、少し呆れていた。
「なんか、ごめん」
「いや、いいんだよ、うん」
「ほんとは喜ぶべきなんだと思うし」
「ははは」
食事を終わらせてベッドに沈むと、また嫌な予感がした。
何か、悪いことが起きているかのような。
まあ、何かあればフィリア達から報告があるだろうし、大丈夫なんだろうけど...
一回こっちから連絡してみるか。
この時間に起きてるのはアイシーだったかな。
『アイシー、アイシー、聞こえる?』
その僕の呼び掛けに、返事が帰ってくることはなかった。
何かあったのか!
『ヤブラン!ヤブラン!』
『フィリア!聞こえる!?』
三人全員に繋がらない。
その時、か弱い声が頭に届いた。
『ヘルンお兄ちゃん!ヘルンお兄ちゃん!』
『その声は、フィオナか、何があったの!』
『早く帰ってきて!みんなが死んじゃう!』
え?
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次話は、2026年1月8日に投稿します!
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