魔法を愛し、魔法に愛される少年
突如として空から降って来た存在は、周囲を土埃で覆わせた。
それでも分かる、その者の圧倒的な魔力量とその濃度。
濃度が高い魔力はそれだけ効率よく消費できる。
魔力蓄積限界量と濃度だけを見れば、僕ですら負けてしまうだろう。
魔力吸収があるから、一応負けはしないと思うけど...
目の前の強大な存在に、僕の心は久しぶりに少し揺らいだ。
「何者だ!」
ヤブランが声を張り、風魔法で土埃を吹き飛ばした。
すると、土埃の中から、一人の少年が現れた。
年は僕よりも小さく見える。
華奢な身体に可愛らしいシャツとベスト、その上には豪華なローブを羽織っている。
「ん?お、ネロじゃねぇか」
「魔法の匂いを嗅ぎつけて来たのか」
ヤブランが少し声を弾ませて言った。
この子はネロというのか。
「うん!とても楽しそうな気配を感じたからね!」
「お前は相変わらずだな」
ヤブランの顔が緩み、2人目で楽しそうに話している。
昔からの知り合いで、相当可愛がっているようだ。
「ところで、そこの人だあれ?」
ネロが僕を見ながら言った。
「こいつはヘルフェン、通称ヘルン、俺なんかの何倍も強いやつだ」
「魔神もこいつが倒した」
「ネロが嗅ぎ付けた楽しそうな気配も、きっとこいつだ」
「こいつの魔法は想像を絶するぞ」
ヤブランが僕の経歴を連ねると共に、ネロの可愛らしい目の輝きが強くなってゆく。
魔法が好きなのだろうか。
「よかったら、今から魔法を使うから見ていく?」
「え、いいの!?ありがとう!ヘルンさん!」
可愛い...
「今から何するの?」
「この辺に、武闘大会用の会場を作るんだよ」
それと魔法になんの関係があるのかと、ネロはキョトンとした。
「創造魔法でね」
「創造魔法...!?」
「なんだ、知ってるのか?俺は知らなかったが」
「知ってるも何も、大昔に使われたことがあったと言われてる、幻の魔法だよ」
「消費魔力が多すぎるのと術式が難しすぎるから実現不可能な魔法として研究されずに消えていった魔法なんだ」
「それを使える人が居るなんて...」
まあ、人って言えるかどうかはわかんないけどねぇ...
「うん、じゃあちょうどいいし、ここに決めようか」
「そうだな、宮殿からの距離もちょうどいい」
「じゃあ、土埃の対処よろしくね」
「あぁ、任せろ」
気配察知で地下の素材を調べる。
(気配とは...)
「うん、この下はある程度下までは土で、その下に岩盤が広がってるね」
「岩盤を削ると危ないから、土だけ借りようかな」
創造魔法を使うと言いつつも、最初にするのはただの移動魔法。
移動魔法を自分以外に使うのは、自分に使うのと難易度が全く違う。
地表を削り、客席などの土台となる山場を作っていく。
そこに創造魔法を組み合わせ、土台の中に岩を入れ、安定させる。
土埃が絶えず吹いたが、それはすぐに空中に吸い込まれていった。
さすがヤブラン。
浅く丸い穴を開け、そこを土台で囲むと、すぐに武闘大会の会場の基盤が出来た。
「創造魔法の出番は今からだ」
セメント、水、砂利を生成することで、コンクリートを生み出す。
それで会場の外側と客席を覆った。
「真ん中は土のままにしておくのか?」
「砂はひくよ」
「でも、固くすると選手が怪我しちゃうから」
「なるほどな」
武闘場に砂をまくと、会場が出来上がった。
宮殿が小さく思える程大きくした会場は、魔法の練習が最近出来ていない僕の心を揺さぶった。
「す、凄いよ」
「何も無いところから新たなものを生み出す」
「神業としか言いようがない...」
ネロは喜んで飛び跳ねているだろうと思っていたが、予想以上に冷静で、冷静に興奮していた。
「ヘルンさん、いや、師匠!」
「僕に魔法を教えて下さい!」
え、えぇぇぇぇ
「いや、僕の魔法はまだまだだから、人に教えるなんてとても...」
「いえ、あなたの魔法は今の全世界の中で最高峰です!」
「悪魔国魔法研究最高指導者である僕が言うんですから、本当ですよ!」
...え?
「さいこうしどうしゃ...?」
「あぁ、こいつのことを話してなかったな、こいつは元悪魔王で、魔法の研究の管理権をほぼ全て任せられていた」
えぇ...だから魔法に詳しいのか。
ネロの知識量は単に魔法が好きな人の限界をとうに超えている。
「ん?ネロ、何してるんだ?」
ヤブランがネロの方を見て言ったので、そちらを見ると、ネロはしゃがんで地面の方を向いていた。
近づくと、そこには空の光を美しく反射させる、小さな赤い宝石があった。
「これは...」
「師匠の魔法を真似してみたんです、僕の魔力量にはまだこれが限界だけど...」
その話に、僕を目を見開いた。
まさか、一度僕の創造魔法を見ただけで、創造魔法を習得したというのか...
これは、只者じゃない...!
「ネロ!僕の家族になってくれ!」
「え、えぇぇえ!」
ネロは驚いて、あたふたし出した。
「いや、それは嬉しいですけど、師匠と家族だなんてそんな」
ネロの頬がどんどん赤くなり、顔を覆い始めた。
なんか、照れてる?
「よ、よろしくお願いしますっ...」
ネロが小声でそう答え、ヘルンファミリーはまた一人家族を迎えることとなった。
「こっちは、会場の大まかな部分が出来て、後は細かい所を飾って行くだけだよ」
ヘルフェン宮殿食堂、家族で集まり食事をしながら話し合っていた。
「ハネスト、志願者はどんな感じ?」
「今日、魔導国全域に応募をかけたよ」
「お、早いね」
「ハネストお姉ちゃん達に手伝ってもらって、医療班の応募もかけたよ!」
「おぉ、みんな仕事が早いな」
すると僕の目に、不貞腐れて頬を膨らませるアイシーが映った。
あ、え、ちょっと待って、アイシーにこの件においての役割を振り忘れてる...?
大変だ、どうしよう!
「ア、アイシーは、雷龍の時に一緒に動いてくれたらから、今回は休んでおいて欲しいナァ〜ハハ」
「後、武闘大会で誰にも負けないように魔法の練習をするのもありだね」
「ふん!絶対に優勝して、ヘルンに言うこと聞かせるんだから!」
アイシーは少し泣き目で、そう啖呵を切った。
「は、ははー」
怖い...今度アイシーの好物のかき氷、開国祭の屋台で買って帰ろ...
「それにしても、ネロまで家族に加わるとはね〜」
「魔法にしか興味が無いから、入るとは思わなかったわ」
そうか、ネロはアイシーとも面識があるのか。
「ヘルンさんは魔法の最先端だからね」
「ヘルンさんの元で勉強するのが一番だよ!」
目の前で堂々と褒められ、死神の心も少し照れた。
「ネロ、後で相談がある、二人で話せる?」
「はい!話せます!」
みんなに不思議そうに見られ、僕は話を変えた。
「ところで!ネロにもこの国での役職を与えたいと思う」
「あぁ、確かに、ネロになら任せられるな」
フィリアが頷きながら言った。
「ネロの希望がなければ、魔法研究部を設立して、そこの部長を務めて貰いたい」
「い、いいんですか!?」
「うん」
「か、必ず素晴らしい成果を上げてみせます!」
「いや、それはいいよ」
「え?」
「君が好きな魔法は、そんなものじゃないはず」
「ネロがしたい研究を好きなだけすればいい」
「あくまでその中で、世界に役立つことがあれば、採用させてもらうよ」
「し、師匠っ!」
ネロが泣きながら抱きついてきた。
「僕、頑張ります!」
「あぁ、頑張りたまえ」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
昨日(2025年12月4日)投稿予定だったのを、本日(5日)にずらしてしまい、申し訳ありませんでした!
次話は、2025年12月7日に投稿します!
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