災厄の兆候
紫色に輝く雷が、暗雲の中を轟回っている。
僕とアイシーによって張られた魔法障壁に雷が何度も当たり、杞憂に過ぎないものの、やはり僕らは少しだけ不安になった。
そんな僕らを嘲笑うように、雷はどんどん激しくなり、いよいよ黙って見ていられる状況では無くなってきた。
「僕、ちょっと様子を見てくるよ」
「なら、私も行くわ」
「いや、アイシーはここにいて欲しい」
「僕の行動を知ってるのは君だけだ、君がいないと、みんな何も分からない」
「でも、それじゃヘルンが危ないじゃない」
「もし危なかったら、伝達魔法で知らせる」
「そうしたら、みんなを連れて援軍に来て欲しい」
「わかったわ、私に出来るのはそれくらいしかなさそうね」
「助かる、じゃあ、いってくるよ」
「ええ、気をつけてちょうだいね」
「うん、神王に任せて!」
そうして空へ飛び立とうとした時、空に神々しく輝く龍が現れ、障壁へ突進してきた。
一国を覆えるようにすら見える龍は、明らかに、神族によって生み出されたものだっだ。
龍には神族の魔力が溢れるほど流れており、雷もその魔力から形成されている。
巧妙に隠されており、障壁の邪魔もあって雷だけでは分からなかったのだろう。
つまりこれは、神族の者による裏切り。
しかもこれは、並の神ではない。
戦闘力的には死神の可能性が高いな。
そんなことを考えているうちに、雷龍が魔法障壁に突撃し、二層あった魔法障壁の一枚が破られた。
それはアイシーのものだが、僕とアイシーでは、魔法障壁の硬さはそこまで変わらない。
もう一度この攻撃をされたら人間の人達が危険だ。
僕は魔導国カリタスの国主、これくらいの障害で国民を危険にさらすわけにはいかない。
空に向かって高速で飛びながら、デスサイズを取り出す。
デスサイズに意識が呑まれていく。
久しぶりの感覚だな。
「かかってこい、畜生」
しばらく、相手の手を見る攻防戦を続けた。
神族の魔力が流れているせいで、死神魔法がほとんど効果を持たない。
雷龍の攻撃方法は、恐らく突撃と落雷。
魔力で作られた龍に、そこまでのコントロールは出来ないだろう。
ただそれが故に、そもそも倒すということが出来るのかという問題がある。
雷ということは、電気。
電気と反応して爆発するもの。
水素...
突然顔から笑みがこぼれた。
まさか、人間の時代に暇すぎて勉強していた化学が、こんなところで役立つとは。
水魔法と雷魔法を同時に使うことで、水を電気分解し、水素を生み出す。
僕の周りを雷龍が飛び回る。
龍の突撃を避けながら、水素を生成し続ける。
幾多の落雷が起こり、一線の雷が頬をかすめた。
それでも僕は、手を止めない。
空中が雷で溢れ、もはや避けようがなくとも、水素を魔力障壁で守りながら、どんどん生成する。
数分間の防衛戦により、巨大な水素の塊が出来た。
魔法障壁は、雷には強く、物理攻撃には弱くしてある。
つまり、魔法障壁は龍が突撃した時に割れる。
その時、雷龍がちょうどよく、こちらに突っ込んできた。
その場に水素弾を残し、転移魔法でその場から離れる。
龍が水素弾に突撃した瞬間、電気で身を包む龍が水素に覆われ、雷を着火剤として、大爆発が起こった。
空が炎で包まれ、雷龍の咆哮が轟いた。
人々は皆空を見上げ、歓声をあげた。
雷龍の爆発は、開国祭を彩る、迫力ある催し物として、人々の心に刻まれた。
翌日、雷龍の大爆発が祭りに勢いをつけ、開国祭が盛り上がっている中で、ヘルンの家のみんなは僕の招集により、集まっていた。
「緊急招集って、昨日の爆発の話?」
ハネストが少し焦りながら聞いた。
「あぁ、あれは、僕が雷龍を倒した時の爆発だよ」
「ら、雷龍?龍にそんな種類がいるなんて、聞いたことないけど」
「うん、あれは龍族じゃないからね」
「あれは、魔力で作られた龍だった」
「そして、重要なのはここからだ」
みんなの目が、少し見開いた。
「その龍は、神族の魔力で出来ていた」
「つまり、神族、そして恐らく死神の中に、裏切り者が居る」
「僕が空に向かった瞬間魔法障壁を狙わなくなったから、多分僕のことを狙っていたんだと思う」
「僕に恨みのある死神、または僕が居ると邪魔である死神」
「とにかく、これからも想定される攻撃に対して、何らかの対策が必要となる」
「なら、軍団長である俺とアイシーが対応しようか?」
「そうね」
「そうだね、じゃあ二人に任せたいことがある」
二人がこちらを向き直した。
「僕とアイシーが即席で形成した魔法障壁を、雷龍は突撃で壊した」
「つまり、犯人は、相当な実力を持っている可能性が高い」
「二人には、魔導国全域に、強固な魔法障壁を展開して欲しい」
「どれだけ時間をかけてもいい」
「僕の本気の攻撃にも耐えうる強度を目指してくれ」
「了解した」
「ええ、分かったわ」
「僕はこの件を、ハデス様と師匠に伝える」
「シュッツ様はともかく、ハデス様が犯人って言う可能性はないの?」
「僕も少し悩んだ」
「でも、二つ名が付いた者の魔力には、少し変化が起こるんだ」
「それは、二つ名を持つ者の責任とも言える」
「それが雷龍にはなかったから、少なくとも、ハデス様と三大偉神が犯人ではないと考えられる」
「まあ、どちらにしてもこの世に絶対は無い」
「気をつけて行動するよ」
「私達にはなにか出来ないの?」
ヘレナが珍しく力を込めて言った。
「国をしっかりを回すことで、国力が上がる」
「国力が上がれば、敵もなかなか手を出しにくくなる」
「国の運営を手伝うことも、この戦いに参加していることになるんだよ」
「な、なるほど...」
分かっていなさそうだ...
「じゃあ、軍団長の二人は僕と一緒に魔法障壁を張りに行こう」
「他の人は、国が始動するまで、コンディションを整えておいてね」
「数日もすれば、バシレイア、アバンダント、ゲヘナの各地を周り、必要な事をまとめる」
「忙しくなるから、今を楽しんでね」
「祭りの中呼んでごめん、この会議の事を念頭において、みんな、祭りを楽しんで!」
アイシー、ヤブランと共に、ヘルフェン宮殿の中で最も高い塔の上に登った。
「二人とも、祭りの中付き合わせてごめんね」
「気にするな、これが仕事であり、お前について行くと決めた俺達の生き甲斐だ」
「そうね、ヘルンがまた一緒にお祭りに行ってくれるなら頑張るわ」
「うん、約束だね」
「おいお前、対価を求めるとは何様だ」
「良いでしょ!ヘルンが許してくれてるんだから」
二人が向き合って睨み合い始めた。
昔から中が良かったようだし、喧嘩するほど仲がいいというものだろう。
「まあまあ、とりあえず始めよう」
「早くお祭りに戻りたいしね」
「ああ、すまない」
「そうね」
「じゃあ行くよ、僕の魔法に合わせてね」
「魔力障壁!」
「魔力障壁!」
「魔力障壁」
三人の魔力により、昼にもかかわらず神々しい光が周囲を覆い、魔力障壁がバシレイアに広がり始めた。
バシレイア全域となると、僕でも体にだるさを感じた。
前を見ると、二人は目をパチパチして、今にも倒れそうだ。
「後ちょっとだよ!頑張って!」
「あ、ああ!」
ヤブランが威勢のいい声を上げる。
アイシーは魔力を放出しながらもコクコクと頭を揺らしている。
二人とも可愛いな。
そうして、僕らは魔導国全域に障壁を張って行った。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
普段より約1時間の遅刻、申し訳ありせん。
次話は、2025年11月30日に投稿します!
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