一時の休息
エルが死に、悪魔の力が消えた。
少なくとも、次の魔神が現れるまで、悪魔に力が宿ることは無いだろう。
そんなの分かるはずがない。
魔神が倒されるなど、神の世界でも、おとぎ話なのだから。
一応、百万年前に、偉大な死神アストラが魔神を討伐したという話は聞いたことはあるが。
もしそれが本当だとしても、それから百万年間、魔神と神王は、互いの部下を殺し合う戦争をしていたということだ。
「ヘルン、調子はどう?」
「死神が気を失うなんて、相当の戦いだったのね」
ハネストが、僕の顔を覗きながら言った。
「大丈夫だよ」
ゲヘナでの魔神との戦闘後に倒れた僕は、何とか体を起こし、バシレイアに帰還した。
家の扉を開ける手前で気を失ってしまい、ヤブランが中に運んでくれたようだ。
「でも、もうちょっと寝ていようかな」
「ハデス様に報告に行きたいけど、どうせ知っているだろうしね」
「うん、そうした方がいいよ」
「みんな心配してるし」
「うん、付き添ってくれてありがとう」
「いいよそんなの」
「生きて帰ってきてくれて、よかった」
「もちろん、僕は神王だからね」
「それに、みんなもいる、死のうにも死ねないさ」
「死神なのに死ねないなんて、とんだ皮肉だね」
「もー!死んだら許さないからね!」
「はは、わかってるよ」
「じゃあ、ご飯作り手伝ってくるから、ヘルンはゆっくり休んでるんだよ!」
「うん、ありがとう」
ニコッと笑うと、ハネストは僕の寝室を後にした。
魔神は倒したが、ここからが大切だ。
このまま悪魔と神族の対立状況が続けば、また魔神が生まれた時、振り出しに戻る。
もしアストラが、魔神を討伐した偉大な死神だったとしても、彼は致命的な失敗をした。
悪魔との共存を選ばなかったことだ。
僕はそうじゃない。
エルは言った。
この長年の戦いを勝手に終わらせることは出来ないと。
でも、僕はそうは思わない。
僕がこの、不毛な戦争を終わらせる。
そう決断すると、睡魔に襲われた僕は、そのままその誘いに乗った。
目が覚めると、周りに美味しそうな香りが広がっており、気持ちよく夢から抜け出せた。
1階に行こうと階段を降りていると、ハネストが向かいから上がってきた。
「あ、今起こしに行こうと思ったんだけど」
「美味しそうな香りがしたから、目が覚めちゃったみたい」
「ふふ、みんな待ってるから、早く食べよう」
「うん、楽しみ」
一階に降りると、美味しそうな料理と、みんなの笑顔が迎えてくれた。
「お兄ちゃん、体大丈夫なの?」
とヘレナが心配してくれて、フィオナも心配そうにうなづいていた。
「大丈夫だよ、魔神との先頭で疲れただけで、怪我も何も無いから」
まあそもそも、怪我なんてなかなかできないし。
「ならいいんだけど...」
「心配かけてごめんね」
「いや、大丈夫だよ、お兄ちゃんが元気で良かった」
あぁ、いい子だ。
お兄ちゃん涙でそう。
「それにしても、まさか魔神を倒してくるとはな」
フィリアが感心するように言った。
ヤブランは、何も言えないといった様子で、口を少し開けながら見つめてきた。
「魔神は、強かった」
「こんなに危ない戦いは初めてだよ」
「当たり前だ、俺でも手も足も出ない、最強の存在だぞ」
「はは...」
ですよね...
正直なめていた。
魔神が弱いはずがないのに。
しっかりしなきゃなぁ。
「ははって...まあ、お前の強さに驚いていたらキリがないか」
「そうだな、私はもう慣れた」
フィリアが何故か自慢げに言った。
「生き残った悪魔はどうするつもりなの?」
アイシーが聞いた。
「この中には、悪魔に酷い目に合わされた人も居る」
「でも、僕は、罪の無い悪魔も居ることも知ってる」
「だから、僕は、今回の戦争で生き残った悪魔の人達を保護しようと思ってる」
ハネストは悪魔に一度殺された。
ヘレナは何度が連れ去られそうになった。
他にも、みんな、悪魔に何らかの思いがあるはずだ。
この決断は、そんなみんなに辛い思いをさせるかもしれない。
そう懸念した時、みんなが安心したと口々に言った。
「ヘルン、悪魔に対して厳しいところあるから心配してたけど、ヘルンはやっぱり優しいね」
ハネストは、少し安心した様子で言った。
「嫌じゃないの?」
「別に、私を殺した悪魔がいるわけじゃないでしょ?」
「悪魔全員を敵対視するのは違うよ」
自分を殺した種族にここまで心を開いてるなんて。
君の方が相当優しいよ。
「そうか...よかったよ」
「保護すると言っても、どうするつもりなのかしら」
「悪魔は力を失ったとはいえ、素直に神族に従うとも思わないけれど」
アイシーは元悪魔王、流石の質問だ。
「もちろん、神族と悪魔を急に一緒に暮らさせるわけじゃない」
「そんなことをすれば、必ず、悪魔を殺し出す神族が現れるからね」
「具体的には、悪魔を数世界に集めて、保護区として管理しようと思う」
「基本的には、自給自足の形を築いて、なるべく悪魔だけで生きられるようにする」
「力を失った悪魔は、生きるのに魔力を消費しないから、普通の食事で良いはずだし」
「なるほどね、まあ、助けが必要だったら言ってね」
「私もヤブランも、部下からの印象は悪くない方だと思うから」
「うん、助かるよ」
「俺に出来るのはそれくらいしか無さそうだしな、その保護区の管理は俺達に任せろ」
「まあ、まだ確定した訳じゃないけどね」
「ハデス様とテア様に提案しようと思ってるだけで」
「通るといいな」
「そうだね」
「さ、冷めないうちに食べきっちゃおう」
「おう」
食事を終えると、僕の付き添いで寝ていなかったらしく、ハネスト、ヘレナ、フィオナが寝室に行った。
「じゃあ、僕はちょっと出かけくるよ」
「お前はほんとに忙しない奴だな」
「いやぁ、魔神倒しちゃったからより忙しくなりそうだよ...」
エルめ...素直に和解に乗ってくれればここまで忙しくは...
はぁ、まあ今更何を言っても仕方ないか...
「なるほどな、死神に言うのもなんだが、体には気をつけろよ」
「うん、フィリアも魔法の研究無理しないようにね」
「あぁ、気をつける」
フィリアは最近、闇魔法の研究に勤しんでいるらしい。
この前の魔法披露会で火がついたのだろう。
いい事だ。
出かけた理由は、ハデス様やテア様に会いに行くわけでも、保護区の準備でもなかった。
僕には、今、会うべき人が居る。
「師匠、ただいまです」
「おぉ、おかえり、ヘルン」
「ついに、魔神を倒したのだな」
「はい、師匠の訓練のおかげです」
「いいんだそんなのは」
「お前のおかげで、死神の人手不足も一時的に解消されて、みんな喜んでいるぞ」
「それは良かったです」
「ただ、ヘルン、無理しすぎてないか?」
「お前は短期間に偉業を起こしすぎている」
「悪魔王を普通の悪魔のように倒すのはお前くらいだ」
「ハデス様でも恐らく無理だろう」
「お前は確かに神族に貢献しているが、師匠として、親として、私はお前が心配だ」
「師匠...師匠が居れば、仲間が居れば、僕はいくらでも頑張れますよ」
「だから、これ以上頑張るなと言っているのだ!」
「あ...」
「はぁ、お前はいつもどこか抜けているな」
「まあ、そこが可愛いのだが」
「へへ...」
「まあ、とりあえずお疲れ様、ヘルン」
「もうすぐ授名式があるだろうから、準備しておけよ」
「え...」
なんで師匠は、毎回僕を驚かせるんだろう...
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
いつも通りなら次話は11月9日日曜日に投稿するのですが、学業と並行して行っており、9日と合宿行事が被っているのです...
次の話はまだ書けていないため、9日に投稿できない可能性があります。
なるべく9日にあげようと思いますが、もしあげられなかった場合、11日に振り替えで投稿します!(13日木曜日もしっかりあげます)
9日にあがってなかったら、察していただけると助かります!
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