支配
朝起きると、心地よい日差しが体に当たり、疲れた心を癒してくれた。
悪魔軍の大侵攻を阻止した神族側は、それを機に、神王を悪魔軍本拠地に送り出す判断を下した。
それで、僕が行くってわけだ。
何があるか分からないし、それなりに怖いけど、悪魔と神族の和解に一歩でも近づけられたらいいな。
まあその前に、やらなきゃいけないことがある。
例のあの人を呼ばなきゃ。
寝室からリビングに降りると、フィリアとハネストとヤブランが楽しそうに話していた。
年長組、話も合うのだろう。
「おはよう、みんな」
「ヤブランさんも普通に過ごせてるみたいで良かったよ」
「あぁ、ここはいいな、なんていうか、優しくて」
この人、本当に見た目と中身が違うな。
「今日はね、もう一人、仲間を呼ぼうと思うんだ」
「私が言えることではないが、まだ増えるのか」
「うん、あの人は、呼ぶべきだよ」
「お前がそう言うなら別にいいのだが」
「ありがとう、じゃあ早速呼んでくるよ」
「あぁ、分かった」
家を出て、草原を少し奥まで歩いた。
広い場所に着くと、僕は収納魔法から一人の死体をだし、そこに置いた。
それは、氷の悪魔王、アイシーの死体だった。
「ソテイラ」
眩い閃光が周囲に広がり、やがて落ち着いた。
輝きが消えると、そこには生き返ったのに血色の悪い白い肌の女性が、困惑した様子でこちらを見ていた。
「おはよう、アイシー」
「これは、どういうこと?」
「君は生き返ったんだよ」
「...え?」
「僕には、君が必要だ」
「だから、生き返ってもらった」
「はぁ...」
「まだ状況が掴めないだろうけど、とりあえず家に帰ろう」
「ヤブランも居るしね」
「ヤブランも?...分かったわ」
「よし、じゃあ行こうか」
家に帰ると、ヘレナとフィオナも起きてきていた。
「ただいま」
「おかえりーヘルンー」
「こちら、元悪魔王、アイシーさんです!」
驚いた様子だったのは、ヤブランだけだった。
「え、驚かないの?」
「まあ、今に始まった話じゃないし...」
うんうんとみんなが頷く。
「はぁ...みんなの感覚がおかしくなってしまっている...」
「誰のせいだと思ってるの!」
ハネストに強くつっこまれ、しょんぼりしていると、隣に気まずそうにしているアイシーが見えた。
「今日から、アイシーもうちの仲間だよ!」
「おおー」
ハネストとヘレナが同じ表情で同じ反応をしている...
「仲間を呼んでくるって気楽そうに言って、まさか死者を蘇生してくるとはな...」
ヤブランは未だにあまり理解出来ていないようだ。
「まあ、今ここにいる六人中、三人は僕の蘇生魔法を受けているからね」
「まじか...」
「蘇生魔法って、大魔導師級の奴が一生に一度出来るか出来ねぇかみたいな魔法だよな...」
「そうだね」
「そうだねって...まあ、あの強さなら納得か...」
「僕は明日から悪魔軍本拠地に行くから、しばらく家を空けることになるかもしれない」
「みんなで仲良く親交を深めていってね」
「それと、ハネスト」
「ん?どうしたの?」
「僕が家を空けている時は、君が家主だ」
「まあ、いわゆる、僕の代理人?かな」
「僕が居ない時に何かが起きたら、ハネストの指示に従うようにしてね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!!」
「ただの人間の私にそんなの務まらないよぉ...」
「ハネストなら大丈夫、自信を持ってよ」
「元々は軍団長でしょ?」
「そうだけど...」
「んー...分かったよ...」
「ありがとう、よろしくね」
「はい...」
「ふふ、なんだか面白い家ね」
アイシーが笑いを堪えきれないという表情で言った。
「そうでしょ?僕の家はきっと楽しいよ」
「ええ、そうみたいね」
「ところで、私は何をすればいいのかしら」
「別に、特に決めてないよ」
「あら、そうなの?」
「うん、基本的には好きなことをしてもらって構わない」
「でも、魔法の特訓だけは欠かさずやってね」
「分かったわ」
次の日の朝、正装を身に纏い、僕は家を出た。
今悪魔軍に残っている戦力として考えられるのは、普通の悪魔、悪魔王数体、そして、魔神。
悪魔王を五人失ったばかりだ。
魔神以外は勝てるだろう。
魔神...どんな強さなのだうか。
悪魔全体に力分け与えられるような絶対的強者。
はぁ...まずは和解を試みるしかないか...
悪魔が完全に支配し、本拠地とする世界、ゲヘナ。
ゲヘナに近づくだけで、濃い悪魔の魔力に気が持っていかれそうになる。
今すぐ死神固有魔法で浄化したいところだけど、和解だもんな...出来ないよな...
ゲヘナに降り立つと、周りは薄暗く、どんよりとした空気が流れていた。
これ、魔神とか悪魔王とかは何処にいるんだ...
遠くに小隊らしき集団を見つけたので、聞いてみることにした。
「あのー、悪魔王や魔神ってどこにいらっしゃいます?」
隊長らしき人に聞いてみたが、応えは僕の首に武器を当てることだった。
「貴様!何者だ!」
「僕は死神です」
「何!?神族が侵入したのか!」
「即刻、貴様を排除する!」
えー...
「ちょ、ちょっとお待ちください」
「なんだ?」
「まず一つ目、僕は、あなた達と戦うために来たわけじゃありません」
「二つ目、別に魔神さんや悪魔王さんを殺しに来たわけでもありません」
少し体内の魔力を外に流すと、悪魔達の目は恐怖に染まった。
「そして三つ目、あなた達では僕には勝てません」
隊長らしき悪魔は、悔しそうにしながらも、矛を収めた。
「魔神の居る場所を教えてくれさえすれば、それで良いのです」
「分かった、いや、分かりました」
「道を教えるか、案内するか、どちらにされますか?」
「道を教えて頂くだけで結構ですよ」
「では、こちらの方向に百里程度進んで頂ければ、魔神様の城が見えるはずです」
「魔神様はそちらにいらっしゃるはず」
「分かりました、ご協力、ありがとうございます!」
話が終わり、僕が悪魔の指した方へ飛び立つと、その小隊は、全力でどこかへ行ってしまった。
僕を猛獣みたいに扱って、まったく、失礼だな。
言われた通り、百里近く飛んでいると、巨大な禍々しい城が見えてきた。
えー...あの中に入るの...
入っただけで悪魔になったりしないよね...
少し不安になったが、仕方が無いので、正面から入ることにした。
はぁ、門から入ることに関して、良い思い出無いんだよな...
案の定、僕の首には、門番の武器がガッツリ当たっていた。
はぁ...やっぱりこうなるか...
仕方がない...
再び、魔力を解放する。
「お前達、それが自軍が敗北した敵軍の幹部に対する対応か?」
そう言うと、門番の目は慌てふためき、すぐに武器を下ろした。
「申し訳ありません!」
そう叫ぶと、門番はすぐに門を開いた。
「安心してください、魔神さんを殺すつもりはありませんから」
悪いことをしてしまったと思い、それだけは伝えてあげた。
城に入ると、悪魔の魔力はより一層濃くなり、奥に行けば行くほど、それは増していった。
なんかラズボス戦みたいな雰囲気だけど、本当に和解交渉出来るのかな...
心配になりながら進んでいくと、廊下の突き当たりに
一際大きい扉があった。
自分の身長の数倍はあるその扉は、いかにも、魔神の間という感じだった。
はぁ...入るか...
決心した僕は、その重苦しい扉を、力一杯押した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次話は、2025年10月29or30日18時に投稿しようと思います!
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