悪魔軍崩壊
「なんだ、これは」
聞いていた話と違う。
最近悪魔の活動が盛んになり、数も数千万に上るという話は聞いた。
でも、これは話が違うじゃないか!
大侵攻の現場に駆けつけると、闇夜の中に、上級相当の悪魔が数億体は居た。
上級相当の悪魔も居る、のでは無い、上級相当の悪魔しか居ないのだ。
一般的な死神が上級相当の悪魔を相手にする時、五体が限界と言われている。
もちろん、上位層になれば、百体近くを相手に出来る者も居る、神王となればそれ以上だ。
だが、この量は有り得ない。
不可能、絶望、そのような言葉のどれもがここから産まれているのではないかと思えるほどの地獄。
「なんだこれ...」
ヤブランさんも目を虚ろにして驚いている。
悪魔王すら知らない計画が進められていたのか?
「そうだ、みんなは!?」
辺りには無数の悪魔と、少数のボロボロになった死神しか見えず、ハネスト達をすぐには見つけられなかった。
「ヤブランさん、この軍勢を止めるのことは?」
「無理だな、こいつらは魔神に直接操られている」
「そうですか...」
「仲間を探しに行きたいけど、今はそれどころじゃなさそうだな」
「ヤブランさん、仲間になって早々悪いのですが、協力お願いします」
「ヤブランでいい」
「仲間としての初仕事だな」
「はい、出来れば、ボロボロになった死神の救助をお願いしたいんです」
「治癒魔法は使えますか?」
「もちろん使えるが、そんなことでいいのか?」
「はい、それだけで十分助かります」
「神族側の戦力を減らす訳にはいきませんから」
「分かった、怪我人は任せろ」
「ありがとうございます」
「戦いが終わったら、その堅苦しい敬語もやめだぞ」
「あ、はい、分かりました...」
えぇ...なんか怖いしぃ...
「では、少し暴れましょうか」
もう百万体は倒した。でも一向に数が減らない。
それどころか、少し増えている気さえする。
僕が本気で魔法をぶつけているのに、大侵攻の進行を止めることしか出来ていない。
おかしい、悪魔は魔物とは違う。
魔物は魔力の歪みから生まれるから、無限に発生するが、悪魔は死神と同じく、悪魔と悪魔の間に生まれるか、人間が悪魔になることからしか生み出されない。
まさか、これだけの数の人間を悪魔に変えたと言うのか。
大侵攻前の小規模大量侵攻はこのためだったのか...
全世界の人間を集めれば、数字で数えられる数を容易に超す。
「ヘルフェン、報告だ」
ヤブランさんが戻ってきたようだ。
「なんですか?」
「お前の仲間についてだが」
「フィリアとフィオナが軽傷、後の二人が命に別状はないが重傷だ」
また...僕の仲間が...
僕が悪魔と仲良くなんて言っている間に...
もう油断しない。
手を抜かない。
慈悲をかけない。
「デスサイズ」
デスサイズに意識が吸い込まれていく。
今回は少し強いな...
いつもは抗っていた。
けど、今回はまかせるよ。
敵を、滅ぼしてくれ...
「さぁ、始めよう」
「殺戮の時間だ」
意識が朦朧とする。
深海に沈められたかのように、何も無い。
ただ、怒り、憎しみ。
デスサイズを片手に無数の悪魔の首を狩っていく。
速度を落とさずに、一匹たりとも取りこぼさずに、駆逐する。
次々に悪魔の首が落ちていく。
もう、誰にも邪魔させない。
何も隠さない。
見ろ、この世界の支配者の姿を。
どんな魔法も僕には当たらない。
どんなに数が居ても僕には敵わない。
千、万、億。
悪魔の肉体が死によって消え去る間もなく周囲に居た悪魔が消えていく。
雷の如く、闇の如く、風の如く。
誰にもどうしようも出来ない、絶対的な力。
「全て、滅んでしまえ!」
その時、僕の勢いは瞬間的に止められた。
それによる衝撃で、近くにいた悪魔が飛んで行った。
身体が何かに固定されている。
武器でも、魔法でもない。
見覚えのある、暖かい腕に。
何故か身体が動かない。
全身から力が抜けてしまった。
「もうやめろ、ヘルン」
「お前らしくもない」
「反抗期になるにはまだ早いぞ」
いつも通りの深く優しい声が、背後から聞こえる。
肩が少し湿ったようだ。
深海を揺蕩う僕に、一筋の温かい光差し込む。
深海の奥底に住む怒りも、悲しみも照らしてくれる、優しい光。
「落ち着いたか?ヘルン」
「はい、おかげさまで」
「いいんだ、私はお前の母親なのだから」
「ふふ、そうですね、それもいいかもしれません」
「この敵、どうすれば良いのでしょうか」
「ふむ、まあ、お前がやっていたこと自体は間違ってはいない」
「無限に見えるこの悪魔たちも、いつかは尽きる」
「それまで、倒し続けるんだ」
「私と、二人で」
「はい、二人で踊りましょう」
師匠に右手を差し出す。
「Shall we dance?」
師匠の手と重なる。
「Sure」
死神の頂点が手を合わせた時、奇跡の魔法が生まれる。
師匠と僕の脳内に、同時に魔法の術式が思い浮かぶ。
―デスワルツ―
魔法によって広がる、おしゃれな、宮殿の大広間と音楽。
領域魔法により、死神の体力が回復する。
音と動きに合わせて、次々と悪魔が狩られていく。
救助に運ばれる者も、救助者を運ぶ者も、仲間のために戦い抜いた者も、仲間の帰りを待つ者も、皆、そのダンスに目を向けた。
「お前も成長したな」
「師匠のおかげですよ」
「さぁ、後少しだ、もう少し踊っていくぞ」
「是非、マイレディ」
「ふ、キザになりよって」
永遠に増えるかのように見えた悪魔は次第に減っていき、大侵攻の前線が、どんどん前へ戻って行った。
現場となった世界に朝が訪れた時、悪魔はその世界から姿を消した。
死神の死傷者は、最初に戦地に向かった三百人を合わせて、五百人程度だ。
人間の死傷者に関しては、数え切れない。
守りきれなかった...
僕はまだまだのようだ。
「仲間のところに行ってこい、ヘルン」
師匠が気を使って催促してくれた。
「はい、行ってきます!」
救助地へ向かうと、ヤブランさんが案内してくれた。
「お疲れ様だ、ヘルフェン」
「ヤブランさんも、お疲れ様です」
「俺は何もしてない」
「僕の仲間を守ってくれましたよ」
「そ、そうか...」
ヤブランさんに連れられ、テントに入ると、ヘレナとハネストがベッドに横たわり、その側にフィリアとフィオナが座っていた。
「大丈夫かい?みんな」
僕の声に気付いたのか、ハネストとヘレナが飛び起きた。
「ヘルン!無事だったのね!良かった」
「お兄ちゃん!無事でよかった!」
「僕も、二人が無事で良かったよ」
「フィリア、フィオナ、二人を守ってくれてありがとう」
「いいんだ、私に出来るのはこれくらいしかないからな」
「お姉ちゃん達とお兄ちゃんの為だもん、いくらでも頑張るよ!」
「しかし、ヤブランとまた出会うことになるとはな」
「俺だって予想してなかった」
「まあお前は悪魔王の同僚だった時から良い奴だったからな」
「おい、あんまりそういうことを言うな!小っ恥ずかしい」
「ヤブランさんも、もう仲間の一員だよ」
「そうか、まあ、いいんじゃないか」
「まあ、なんか、よろしくな」
「あの時は、他の悪魔王を止めなくて悪かった」
「いい、いい、気にするな」
「お前も四人の悪魔王を相手にするのは無理だろう」
「あの時の分は、他のところで返してくれよ」
「あぁ、約束しよう」
「よし、じゃあ、帰ろうか」
「僕たちの、暖かい家に」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
1週間毎日投稿最終日!つい張り切って、投稿が遅くなってしまいました...
1000PV達成を祝った今回の企画も、今日で無事達成!
まためでたいことがあったらちょくちょくやろうと思うので、是非これからもこの作品を愛してあげてください!
次話は、2025年10月の、25か26に投稿します!
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