心に残るあの人
僕は今、ハデス宮殿に向かっている。
まあ、向かっていると言っても一瞬で着いてしまうのだが。
主な用事としては、神王化成功の正式な報告だ。
神王となってから数日が経ち、やっと身の回りが落ち着いたので、そろそろお世話になったハデス様に感謝と挨拶をしなければならない。
いつも通り受付を経由してハデス様の事務室へ向かった。
横には一人の仲間が共に並んでいる。
それはフィリアだった。
「久しぶり?ですかね、ヘルフェンくん」
「お久しぶりです、ハデス様」
「大体の用事の内容は分かりますが、一応聞かせていただいても?」
「はい、この度、私ヘルフェン・カリタスは、神王化に成功し、神王となりました」
「素晴らしい、まさかこんな早さで私達の仲間入りを果たすとは」
「私は本当に嬉しいのですよ」
「光栄です」
「めでたい話はさておき、またまた珍しい方を連れていますね」
「こちらは、元悪魔王フィリアです」
「なるほど、悪魔王の中でも軍を率いている悪魔の中の絶対的王者をここに連れてくるとは」
「ヘルフェンくんもなかなかやりますね」
え...そんなに強かったんだ。
「またその人を連れて歩くことの承認ですか?」
「はい」
「その様子だと、一度葬った後に復活させたようですね」
「その通りです」
「一度死んだことで悪魔では無くなったとはいえ、いつこちらに牙を剥くか分かりませんからねぇ...」
「ヘレナ同様、私が責任を持って監視致します」
「下手に扱うより、それが一番安全でしよう」
「そうですね...まあ任せちゃいましょうか」
「私の直感も、フィリアさんを悪い人だとは言っていませんし」
「悪魔王フィリアといえば、無駄な殺しをしないことでも有名ですしね」
「寛大な采配に感謝を」
「やめてください、あなたももはや神王なのですから」
「私達は同僚ですよ」
「いえそんなわけには」
「ハデス様には大変お世話になりました」
「これからも粉骨砕身の心構えで職務を全うします」
「はい、共に頑張りましょう」
「ところで、神王になったことでしなければならないことなどはありますか?」
「そうですね...数年に一度の神王会議と、部下の配置などでしょうか」
「しかし、ヘルフェン君にはバシレイアの防衛という大役がありますからね」
「神王会議の出席程度で大丈夫ですよ」
「分かりました」
「あ、後、もう少ししたらヘルフェン君の神王就任式を行うから、そのつもりでいてくださいね」
「わ、分かりました...」
「乗り気ではなさそうですね」
「ま、まあ...」
僕は大人数が苦手だった...
「ん?まあいいでしょう、楽しみにしていてくださいね」
「は、はい...」
「フィリアさん、こんなことを言うのも億劫ですが、一応」
「ヘルフェン君や私の同士達を傷つけた時には、即刻殺します」
「分かっている」
「私や仲間に危害が加えられない限り、私は力を使わない」
「そうであれば言うことはありません」
「昨日の敵は今日の友、これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
「ではこの辺りで失礼します」
「えぇ、もう帰っちゃうんですか...」
「せっかくまた会えたのに...」
「ハデス様もお忙しいでしょう、邪魔する訳にはいきません」
「またちょくちょく顔を見せに来ますので、その時にまたお話しましょう」
「約束ですよ!ヘルフェン君!」
「はい、約束です」
相当寂しいんだな...
ハデス様の事務室から受付までの移動中。
「フィリア」
「なんだ?」
「さっきのは忘れて欲しい」
「さっきのとは?」
「フィリアをまるで魔物のように話してしまった」
「死神も組織だから、仕方ないことではあるけど」
「僕自身としては、フィリアに謝りたい」
立ち止まり、頭を下げる。
「あんな言い方をしてごめん、僕はフィリアのことを仲間だと思ってる」
「いいんだ、私が元々悪魔王で、死神を殺したことだってある」
「私もこんなことで済むとは思っていない」
「信じ難いかもしれないが、今の私は神族の味方だ」
「信じるよ」
「フィリアが僕らと共に生きる限り、少なくとも僕とフィリアは仲間であり家族だ」
「これからよろしくね、フィリア」
「あ、あぁ、よろしくな」
数日後。
今日、僕の神王就任式が今日執り行われる。
こういうのは未だになれないなぁ。
今回は特に儀式などは無く、僕が神王となったことを正式に発表するだけだ。
会場には、師匠もいた。
数年会っていない師匠は、あまり何も変わらず、美しい姿のままだった。
少しの間見つめてしまったが、目が合うことは無かった。
やっぱり怒ってるよな...
程なくして、隣に立っていたハデス様が美しい声を響かせた。
「皆、急な呼び出しに答えてくれたこと、感謝している」
「既に聞いている者も多いとは思うが、この度、このヘルフェン・カリタスが神王化条件を達成し、晴れて神王となった」
「これからも、我ら神族の為に尽力してくれることを期待している」
「では、ヘルフェン君から一言お願い出来るかな」
え、聞いてない...
「は、はい!」
震える足を落ち着かせながら前へ出る。
「この度神王となったヘルフェン・カリタスです」
「ハデス様には遠く及びませんが、皆様のお役に立てるよう頑張ります」
「僕らはもう同格の同僚だ」
「よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「そして、ヘルフェン君を連れてきた本人である、シュッツ・カリタス君にも言葉を貰おうかな」
「はい」
師匠は堂々たる態度で前へ進み、前に立つ無数の死神は、大歓声を上げた。
「シュッツ・カリタスだ」
「ヘルn、ヘルフェンが神王となったこと、大変喜ばしく思う、以上」
短い...
その時、一人の死神が皆が気になっているであろうことを代表して師匠に質問した。
「シュッツ様とヘルフェンのご関係はどのようなものなのでしょうか」
師匠は答えないだろう。
そう思った直後、元の位置に戻ろうとしていた師匠が再び前へ戻った。
「ヘルンは、私の子供だ」
え?
宮殿中がしんと静かになった。
皆、驚きが隠せないようだ。
それはそうだ。
師匠はもはやアイドル的存在。死神界最強とも名高い師匠に子供が居るなんて聞いて、驚かない方がおかしい。
そんな地獄的な雰囲気の中、師匠は言葉を紡いだ。
「ヘルンを産んだのは私では無い」
「しかし、私はヘルンの母親なのだ」
「私はヘルンを愛している、故に私はヘルンの母親なのだ」
「それに、ファミリーネームが同じだろう」
そう颯爽と語ると、師匠は元の位置へ戻って行った。
皆パニック状態だった。
その中でも僕は特に驚いていた。
育ててもらったのに勝手に家を出ていき、数年顔を見せなかった弟子に対して、子供だと師匠は言ったのだ。
嬉しさと申し訳なさが渦を巻き、感情はぐちゃぐちゃだった。
少しの間混乱し、最後に残ったのは、師匠への膨大な愛だった。
目に溢れた愛は、足元にポタポタと落ちた。
式が終わるとすぐ、僕は師匠の元へ走った。
「ごめんなさい!遅くなりました!師匠!」
「本当だぞ!遅いぞ!ずっと寂しかったんだからな!」
さっきまで威厳ある態度を取っていた師匠が、今は頬を膨らませて怒っている。
「はい、すみません」
「見ない間に大きくなりよってぇ...」
「おかげさまで、ハネストも助けることが出来、今は仲間と楽しく過ごせています」
「何!?自分だけ楽しんでるのか!」
「許さん〜そうだ!私も一緒に住む!」
「師匠は忙しいでしょう、またちょこちょこ顔を出しますから」
「そうだ、私のことは師匠では無くお母さんと呼べ」
「そうしたら許してやろう」
「えぇ」
「えぇとはなんだえぇとは」
「師匠は師匠ですよ」
「駄目だ!お母さんと呼べ!」
「分かりましたよ」
「お、お母さん、また来るからね」
「おぉー!良いぞ良いぞ」
久しぶりというかほとんど初めての感覚だった。
前世にも親は居た。
普通に優しい人だった。
だけど、何となく、愛は感じなかった。
僕には弟が居て、僕の大きな欠点の分を受け継いだような、優秀な子だった。
僕を心配するお母さんは、可哀想だから心配しているようで、子への愛とは少し違う気がしていた。
でも、師匠の愛は、親子のそれに思えた。
無条件の愛、僕の親は師匠だけであるようにの思えてくる。
お母さん、か。
じゃあ、大切にしないとな。
次話は2025年9月28日18時に投稿します!
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