修行再来
サスティナ王国を出た僕とヘレナは、魔王城の跡地へ向かった。
数千万の悪魔を束ねる悪魔王を倒すには、僕はまだ力不足な可能性が高い。
一度初心に帰って修行する為の場所に、広くて人気の無い魔王城の跡地を選んだのだ。
「魔王って強いなの?」
「そうだね、弱くはないかな」
「お兄ちゃんの方が強いなの?」
「うん、ヘレナとハネストを守るためなら、お兄ちゃんが最強だよ」
「お兄ちゃんはやっぱり凄いなの」
今回の修行は、魔力の蓄積限界量を上げることを大きな目的としている。
自然の魔力を吸収できるようになった僕は、魔力切れの心配がほとんどない。
しかし、やはり魔法を使うと一時的にも魔力が少なくなる。
死神にとって、魔力は生命力と同義。
急に魔力が減ると、肉体や精神に疲れが来る。
現在、自分の魔力蓄積限界量より多くの魔力を使う魔法を放つ時は、魔法を放つための魔法陣の形成を遅らせ、自然から吸収した魔力をそのまま魔法陣の形成に使うことで補っている。
つまり、強い魔法を使う時、大幅なタイムロスが起きるのだ。
悪魔王となれば、当然攻撃速度や防御魔法をかける速度も早いだろう。
ゼロ距離に近づいたとして、魔法陣構築に時間をかけていればその瞬間に僕はバラバラになっていておかしくない。
僕が今使っている魔法の中で最も威力が高く、消費魔力量も多いのは、死神属性魔法ネメシス。
悪魔の巣で使った時は、魔法陣形成に十数秒かかった。
ネメシスは、今の僕の魔力蓄積限界量の約二百倍の魔力を消費する。
魔力の蓄積限界量分を消費し、自然から吸収するには、合計で零点零八秒から零点一秒の時間がかかる。
高速な戦闘が行われると予想される悪魔王との戦いでネメシスを使うならば、一秒以内に発動させるのが最低限だろう。
つまり、この修行では、今の魔力蓄積限界量の約二十倍を目指す。
そして、この修行にはもう一つ重要な目的がある。
ヘレナの強化。
悪魔王との戦いの際、ヘレナの安全を守れるのはヘレナしか居ない。
ヘレナは魔物と対話する力を持っているけど、それだけでは身を守れない。
ある程度の攻撃魔法と、強固な防御魔法を身につける必要がある。
悪魔の魔力も少し流れるヘレナなら、習得も強化もそこまで難しくはないだろう。
考え事をしていたら、ただの馬車でもあっという間に魔王城の跡地に着いた。
「よし、馬車を降りて」
「はいなの」
「ここで何するなの?」
「ここで修行をするんだ」
「修行なの?」
「そう、修行」
「ヘレナも修行するなの!」
「うん、頑張ろう」
「おー!」
修行と授業は違う。
ヘレナは修行をしなければならない。だから、それをするための道筋をまず最初に教えてあげることにした。
「ヘレナ、まず防御魔法を練習しよう」
「はいなの」
「ヘレナは魔法は使えるの?」
「ちょっとなら使えるなの」
「なんでもいいから、とりあえず使ってみて」
「はいなの」
ヘレナは、真剣な面持ちで宙に両手をかざすと、ファイアと唱えた。
すると、宙には小さな炎が現れ、少ししたらパッと消えた。
「凄いね、ヘレナ」
「へへーなのー」
ファイアは火属性魔法の中でも大分初級の魔法だけど、ヘレナの魔法構築の美しさは、才能を感じられた。
これは、成長が早そうだ。
「じゃあ早速、防御魔法を教えるよ」
「はいなの!」
「魔力を凝縮して、自分を覆うんだ」
「とりあえず、魔力をギュッてしてみて」
すると、ヘレナのかざす手の先に、小さな魔力の塊が出来た。
「そうそう!上手いよヘレナ!」
褒められて、ヘレナはニコニコしている。
おだてている訳では無い。
僕でも、防御魔法の習得にはそれなりに時間がかかった。
魔力を凝縮するということを想像するのが難しいのだ。
想像力に関しては引けを取らない子供の方が、魔法の習得は早いのかもしれない。
「じゃあ次は、その塊を沢山作って、自分を閉じ込めるみたいに広げてみて」
「はいなの」
ヘレナは魔法障壁も簡単に広げて見せた。
でも、それはヘレナの顔を覆ったくらいで止まってしまった。
「ヘレナ、疲れたなの」
魔力量の限界か。
「よし、もう解除していいよ」
「はいなの」
ここからは魔力量を上げるだけだ。
結局みんなここで止まるんだなぁ。
「今のを忘れないで、元気になったら練習する、疲れたら休むを繰り返すんだ」
「分かったなの」
「ヘレナがお兄ちゃんを守るなの」
「期待してるよ、頑張れ、ヘレナ」
さて、僕の修行をしないと。
本当はネメシスを百回でも千回でも万回でも放って効率的に魔力蓄積限界量を上げたいところだけど、そんなことをすればバシレイアがもたない。
発動速度が早いデスボルトでいいか...
デスボルトの連射で飛び回ること数刻、もう数千回はデスボルトを放っていた。
飽きた。
一発くらいならなんとかなるかな。
「ネメシス」
やめておけば良かった。
地上には湖でもあったかのような巨大な窪みが出来、近くの木々はなぎ倒された。
空に放ったのにも関わらず、衝撃波でそこまでの被害が出たのだ。
こんなことなら、実践で使った時のように悪魔にしか効かないようにしておけばよかった。
でもあれ、ネメシスの魔法陣にさらに目標指定の魔法陣を追加するから、めちゃくちゃ疲れるし魔力消費効率も絶望的に悪いんだよなぁ。
グチグチと文句を言ったところで状況が変わる訳でもない。
木々にはとりあえずの修復魔法。
大地の窪みは土魔法で誤魔化す。
バシレイアでのネメシスの使用は緊急時以外禁止だな。
あれ、そういえばヘレナは。
辺りを見回しても見つからない。
「ヘレナー!」
「ヘレナー!」
「お兄ちゃんー!」
その声は遠く離れた草むらから聞こえた。
駆け寄ると、ヘレナは涙目で自分の頭を撫でていた。
「ヘレナ、どうしたの」
「急にお兄ちゃんの方から凄い風が来て、防御魔法じゃ庇いきれなくて、地面に寝転んで背中の方に防御魔法をかけたの」
「あ...」
ヘレナのことを完全に忘れていた!
ネメシスなんか放つなら上級防御魔法くらいかけていないと、普通は怪我する。
ヘレナが何とか気を利かせて最善行動を取ってくれたけど、もしそれが出来なければ、ヘレナは死なずとも大怪我をしていただろう。
「ごめんヘレナ!それ、お兄ちゃんのせいだ!」
「つい魔法練習に夢中になってちゃって」
「本当にごめん!」
「大丈夫なの」
「でも疲れたから、お腹空いたなの」
「わかった、めちゃくちゃ美味しい料理、お兄ちゃんが作ってあげるからね」
「やったーなの」
その日の夜、簡易的に作った家の中で、僕とヘレナは食事を取っていた。
「今日のご飯、大好きなのばかりなの」
「うん、今日はいっぱい食べて、ゆっくり休むんだよ」
「わかったなの」
ヘレナ大丈夫かな...距離があって、防御魔法も使ってたから、重大な怪我はしてないと思うけど、あぁ、なんであんなことを...
「なにかお兄ちゃんにして欲しいことはある?」
「んーなにかなーなのー」
「あ!ヘレナ、お兄ちゃんと一緒に寝たいなの!」
「そんなことでいいの?」
「いいなの!」
修行一日目の夜、僕とヘレナは同じベットで横になった。
初めてでもないと言うのに、ヘレナの温かさに心が緩んだ。
しかし、今日のようなことは二度としてはいけない。
僕のミスでヘレナが怪我をするなんてことはあってはならない。
「ヘレナ、お兄ちゃんが守るからね」
いつも通りの早めの投稿です!
次話は本当に9月14日になるかと思います!
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