束の間の日常
「悪魔王を、倒す...」
「はい、悪魔王を倒すのです」
「そうすれば、神王になれるのですか?」
「はい、神王化の条件は、神族であることと、悪魔を十万体倒した後に悪魔王を一体倒すことです」
「悪魔王を一体?」
「悪魔王は何体か居るのですか?」
「あら、知らなかったのですか?」
「悪魔王は数人いますよ」
「特に今は多いですね」
「なるほど」
あれ?もっとちゃんと聞き返さないといけないことが聞こえた気がする。
あ。
「悪魔を十万体!?」
「それがどうかしましたか?」
「どうかしましたかって...普通に無理じゃないですか...?」
「そうでしょうか」
「ヘルフェン君は既に一万体程度倒されているので、問題ないかと」
「いやあれは悪魔の巣を見つけたからで、しかも上級悪魔もさほどおらず...」
「何を言っても仕方がないでしょう」
「神王化の条件は変えられませんし、あなたには助けたい方がいるのでしょ?」
「死神なら、苦労を恐れないことです」
「何かを得るには、それと同じだけの何かを捨てなければならない」
「その対価が自分の苦労で済むならば幸運だと言えるでしょう」
「気を張りなさい、ヘルフェン・カリタス」
その通りだ。
僕は何をびびっているんだ。
ハネストを助けられる。その方法がある。ならば、動かない理由は無い。
「ハデス様、僕、頑張ります」
「はい、応援していますよ」
「神王化すれば私たちは同階級となりますからね」
「よりお友達になれるかもしれませんね」
ハデス様は微笑みながら言った。
神王はハデス様以外には天使の王、テア様しか居ないから、友達が欲しいのかな。
「が、頑張ります」
「十万体を倒すには、悪魔の巣を潰すのが一番効率が良いでしょう」
「悪魔の巣の報告が上がったら、ヘルフェン君に伝えます」
「ありがとうございます」
「でも、一つだけお願いがあって」
「はい」
「僕は、僕たちを攻撃してくる悪魔しか倒したくありません」
「なるほど」
「ご存知だと思いますが、先日、僕は悪魔の巣を潰しました」
「そこには、戦う気のない、普通な日々を送る、罪のない悪魔が大勢居た」
「僕はもう、虐殺者にはなりたくありません」
「分かりました、悪魔はたまに大軍を率いて各世界を征服しようとするので、その時に教えてあげましょう」
「ありがとうございます」
ハデス様も忙しいので、もう帰ることにした。
「相談に乗って頂き、ありがとうございました」
「いいのです、死神は皆私の子供のようなものですから」
「では、失礼します」
「はい、あ、後、師匠には優しくしなさいね」
「え、あ...」
「修行の為に顔を見せないそうですねぇ」
「先日シュッツ君が寂しそうに報告に来ましたよ」
「師匠が...」
「ヘルフェン君のしたいことも分かりますが、これだけは覚えておきなさい」
「私も、シュッツ君も、君のことが大好きなのですよ」
死神になった時、もう人間には戻れないと思った。
でも、こんなに良い人達に好いてもらえて、大切な人のために戦える。
僕はもう、死神になったことに微塵も後悔をしていない。
僕に幸せを与えてくれる全ての人のために、もっと頑張らないと!
「僕も、みんなのことが大好きです」
「なら良かった」
「では、行ってまいります」
「はい、頑張るのですよ、ヘルフェン君」
バシレイアに戻ると、急に疲れが全身に回った。
最近ずっと動いてたからなぁ。
あの大魔法を使ったあとにちゃんと休まなかったつけが来た。
隣には、僕の体調が心配だと言わんばかりの困り顔をしたヘレナが居た。
可愛いな。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「少し疲れただけさ」
「ヘレナ、一つだけ聞いてくれる?」
「はいなの」
「ヘレナは、何があっても僕らの家族だよ」
「だから、君の力は、君と、良い人たちのために使うんだ」
「良い人たち?」
「うん、人間の人たちとか、神族の人達とか」
「分かったなの」
「でも、最優先は、ヘレナだからね」
「ヘレナが居なくなっちゃったら、僕もハネストも悲しいから」
「分かったなの」
「いい子だね」
肉体の方が少し疲れていたので、サスティナ王国の宿に泊まることにした。
久しぶりの、一つしか取らない宿。
食材を売りにしているサスティナ王国は、宿の部屋のほとんどに調理場が付いていて、そこで少し料理をして、夕食を取った。
ヘレナも疲れていたようで、夕食を終えるとすぐにベッドで寝てしまった。
僕もベッドに入ると、ヘレナは想像よりも温かかった。
こんな子が悪魔のわけが無いな。
神王になる、か。
悪魔を十万体倒した後に悪魔王を討伐。
悪魔を十万体倒すのは時間の問題だけど、悪魔王はどんなやつなんだろう。
今となっては、僕は上級悪魔を数体同時に相手できる程度の力がある。
でも、今悪魔の数は急激に増えてきていて、研究部からは数千万にも上ると報告されている。
それを統率する悪魔王は、只者ではないはずだ。
悪魔王は、数百万体の悪魔相当の力があるとされている。
つまり、神王化の条件は、悪魔軍を壊滅的な状況にすること。
最初、僕は別に悪魔軍の壊滅をそこまで望んでいなかった。
でも、今は違う。
ハネストを殺し、ヘレナを危険にさらした悪魔を、僕は許さない。
僕の大切な人に危害を加えようとする者は、それより先に僕が倒す。
朝起きると、何かが焦げたようなきつい匂いが鼻をついた。
「ヘレナ!何かあったの!」
ヘレナのことが心配で飛び起きると、ヘレナが調理場で泣いていた。
「どうしたの、ヘレナ」
「疲れたお兄ちゃんのために、ご飯作ろうと思ったなの」
「でも、難しくて、焦がしちゃったなの」
「そうかそうか、心配してくれてありがとう」
「今日は予定もないし、一緒に昼食を作ろうか」
「やったーなの」
「じゃあ、食材を買いに行こう」
「はいなの」
買い物。そんな普通な理由で出かけるのは、いつぶりだろうか。
ヘレナを手を繋いで街を歩いていても、つい周りを警戒してしまう。
僕はもう普通の人として生きられないのかな。
ヘレナは楽しそうに歩いている。
ハネストのことを引きずっていなくてよかった。
ヘレナには幸せに生きて欲しい。
ハネストは、僕が必ず生き返らせるから。
商店街に入ると、ヘレナがクッキーをねだった。
「お兄ちゃん、クッキー欲しいなの」
「いいよ、あの屋台かな?」
「そうなの」
ヘレナは大分僕に心を開いてくれている。
「旅は長くなるだろうし、ちょっと多めに貰おうか」
「嬉しいなの」
クッキーを食べながらルンルンで歩いているヘレナを連れて、肉と野菜を買ったあと、僕らは宿に戻った。
「最初はなにするなの?」
「まず野菜を洗おう」
「水で優しく、野菜を撫でるようにね」
「わかったなの」
一生懸命野菜を洗うヘレナは本当に可愛かった。
「出来たなの」
「うん、良い感じだね」
「じゃあ、これをお肉と一緒に焼こう」
「はいなの」
「じゃあ、僕の前に立って」
「僕が手を添えるから、火に気をつけてね」
「わかったなの」
二人でする料理は、師匠と一緒にした以来だった。
なるべく師匠の役に立ちたくて、料理を教えてもらったのだ。
懐かしいな...
「お兄ちゃん、もういいなの?」
料理から目を離してしまい、気づけば料理は完成していた。
「あ、うん、火を止めて、お皿に盛ろう」
「完成なの!」
「いぇーい」
「いぇーい」
二人で囲む食卓は、ハネストが居ない寂しさを少し忘れさせてくれた。
次は三人で囲めるように、僕は悪魔王を倒す。
次話は、2025年9月14日に投稿予定です!(投稿頻度に関しては、Xや19話の後書きをご覧下さい)
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