これから目指すこと
悪魔の巣を滅ぼした僕は、師匠に当分の別れを告げ、新たな旅を始めた。
僕がしなければならないのは、ハネストの蘇生と、ヘレナの奪還。
そして、悪魔にも通用する絶対的な力。
悪魔の巣を滅ぼした時、僕にもっと力があれば、悪魔を殺さずにヘレナやハネストの蘇生方法を探すことが出来た。
まあ、それ以前に、心の成長も必要だな。
あの時の暴走。ハネストとヘレナを失って、気が動転していた。
誰かに当たりたかったのだろう。
それでも、非戦闘員の悪魔まで殺さなくても良かった気がする。
僕はもう、人間には戻れないのかな。
明け方の森の中をとぼとぼ歩いていると、近くで物音がした。
考え事をしていて、探知魔法を使うのを忘れていた。
気を抜くな!自分!
足音を消してそちらに近づくと、見慣れた可愛らしい顔がこちら見ていた。
「ヘレナ!無事だったの!?」
「お兄ちゃん!」
「なんか、悪そうな人に捕まって、それで、ハネストお姉ちゃんが動かなくなっちゃって、それで、連れていかれそうになったけど、近くに強い魔物さんがいたから助けて貰って、それで、お兄ちゃんの所まで来たなの」
僕に抱きついて、泣きながら話すヘレナは、もう悪魔には見えなかった。
「そうかそうか」
「ヘレナが無事でよかった」
「本当に、よかった」
奥の方を見ると、美しい銀色の毛並みをした魔物がこちらを見ていた。
その姿は、本でしか見ることは出来ないと言われる、セイクレッドウルフだった。
セイクレッドウルフなら、上級悪魔を倒せる程度の実力があっておかしくない。
神の使いとされているその魔物は、神である僕にすらも動じずに、落ち着いた様子でこちらを見ていた。
「あなたがヘレナを救ってくれたのですね」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げると、セイクレッドウルフは森の中へ消えていった。
「お兄ちゃん、ハネストお姉ちゃんは大丈夫なの?」
「それは...」
「ハネストお姉ちゃんは今は動けない」
「でも、必ず僕がハネストお姉ちゃんを元気にするから」
「ヘレナも手伝ってくれる?」
「もちろんなの」
「ありがとう」
「じゃあ、行こう」
「はいなの」
再び森を見ると、先程までは永遠に続く闇に見えていたのに、今は希望への道に見えた。
ヘレナのおかげかな。
ヘレナと手を繋ぎ、前へ進み出す。
この手を離さないように、ハネストともう一度手を繋げるように。
僕らはまず、サスティナ王国に向かった。
魔王の件についての報告が出来ていないのもそうだが、エルフは妖精族、何かハネストについて情報が得られるかもしれない。
門はなめらかに通ることが出来た。
あの時より僕は相当堕ちているだろうに。
サスティナ王国に入るとすぐに、王城からの馬車が来た。
「ヘルフェン様、お帰りなさいませ」
「詳しい話は王城で」
「はい」
王城に入り、王室まで向かうと、スピリトー様が出迎えに来ていた。
「守護神様、ご無事で何より」
「はい、魔王は討伐しました」
「当分は魔物の襲来などは起きないでしょう」
「なんと!ありがとうございました」
「このスピリトー、謹んで守護神様の配下とならせて頂きます」
「いいですよ、そんなの」
「僕はそんな存在じゃない」
「それより、スピリトー様に聞きたいことがあるんです」
「はい、いかなることでも」
「精霊の歴史や伝承の中に、人を蘇生させたといったものはありますか?」
「そ、蘇生ですか...何故にして...」
「それは話すことは出来ません」
「失礼しました、しかし、残念ながら、人の蘇生についての話を聞いた覚えはありません」
「そうですか、わかりました」
「ありがとうございました」
「いえ、お望みに応えられず、申し訳無い」
「いいんです、最初から期待はしていませんでした」
「行こうか、ヘレナ」
「どこへいかれるですか?」
「大切な人を取り戻しに」
「なるほど、良い旅路となることを祈っております」
「では」
今回は、見送りされることはなかった。
転移魔法を使ったのだ。
焦っている訳ではないが、身体はそうではないようだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、ヘレナ」
僕にはまだ、最も期待できる当てがあった。
神王ハデス様。
死神の頂点に君臨するお方。人間の蘇生について知っていておかしくはない。
ヘレナはどうしようか。
もうヘレナから離れることはしたくない。
しかし、ハデス宮殿にヘレナを連れて行って良いのだろうか。
死神だから分かるが、ヘレナには未だに微量の悪魔の気配が漂っている。
低級の死神は気づかないかもしれないが、新王様が気づかないはずがない。
いや、もう考えても仕方が無い。
ヘレナには僕がついている。僕は何をしてでも、大切な人を守りきる。
ハデス宮殿は、相変わらず静かで煌びやかな、死神の王には似合わない建物だった。
受付に面会の申し出をし、ハデス様の事務室へ向かった。
ハデス様の事務室の扉を優しく叩くと、中から落ち着いた柔らかい声が聞こえた。
「入りなさい」
「失礼します」
「ヘルフェン君から来てくれるなんて、私はとても嬉しいのですよ」
「バシレイアのこともよく守ってくれているようで」
「あら、隣の少女はどうしたのですか?」
「この子はヘレナ、迷い子だったので、私が預かっています」
「その子の特殊な気配には気づいているのですよね?」
「はい、それでも、安全だと判断しました」
「そうですか、であれば良いでしょう」
「私も無駄な死は望みません」
「あなたの隣なら、その子も周りも安全です」
「ほら、立ってないで、二人ともそこに座りなさい」
「はい、ありがとうございます」
「ところで、今回はどういった用件で?」
「ハデス様にお聞きしたいことがあって」
「なるほど、言ってみなさい」
「人間の、蘇生について何かご存知ですか」
「ほう、それは危険な香りがしますね」
「経緯を聞かせて貰えますか?」
僕は、ハデス様にこれまであったことを簡潔に伝えた。
「なるほど、それは可哀想に」
「普通ならそんなことは不可能ですし、そんなことをすれば処罰対象なのですが」
「魂がまだ残っているのなら話は別です」
「魂が残っている以上、まだ死んでいるとは言えません」
「魂と肉体をもう一度結び付けられたら、生き返るのですから」
「なるほど」
「あなたの言うハネストという人は、まだ天界には行っていないようです」
「つまり、肉体に魂が残っている可能性が高い」
「シュッツ君が、魂の有無が分からないと言ったのは、魂はすぐに天界に帰るものもあれば、長い年月を現実で過ごすものも、あるからでしょう」
「なので、肉体に魂が残っているのか、まだ天界に帰っていないだけなのかは私にも分かりません」
「僕は、魂が残ってることにかけます」
「そうですか、では、蘇生のための方法を教えましょう」
「あるんですか!?」
「もちろん、死を司る死神、その王である私が知らないはずがありません」
幸運だ!これでハネストを助けられる!
「僕はなにをすれば!」
「神王になりなさい」
「え?」
「私は人間の蘇生が出来ますが、条件があります」
「その人間との記憶が私にあることです」
「なので、私にはハネストさんを救うことは出来ません」
「あなたにしかできないのです」
「どうすれば神王になれるのですか?」
「単純なことです」
「ヘルフェン・カリタスよ、悪魔王を倒しなさい」
余裕があったので早めに投稿させて頂きます!
次話は2025年9月7日か、それ以前に投稿すると思います!
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