狂乱
無数の悪魔を葬る魔法を開発した僕は、森の奥深くにある悪魔の巣の入口に向かっていた。
悪魔の巣は地上には無い。
まあ、もしあったとすれば僕なんかが探さなくても神王勢力がすぐに見つけていたはずだ。
悪魔の巣の入口は転移門になっていて、悪魔が占領している世界に飛べるようになっているようだ。
単騎で悪魔の世界に飛び込むのは、危険が大きい。
だけど、今の僕にはそれを考える余裕が無かった。
自分の安全よりも、ハネストの分をやり返して、ハネストを生き返らせることしか考えていなかった。
ヘレナは大丈夫だろう。連れ去ったのなら、殺されはしないはずだ。もしかしたら悪魔の巣に居るかもしれない。
大丈夫、僕の魔法は悪魔にしか効かないようにしている。
悪魔の巣には、連れ去られた人間や、支配されている先住者も少なくないと聞く。
もしヘレナが悪魔でないのなら、僕の魔法は効かないはずだ。
ヘレナが居なければ、ハネストは...
そんなしょうもないことを考えている間に、悪魔の巣の入口に着いた。
「デスサイズ」
大鎌を持つと、僕の心は少し踊った。
心の奥底から怒りが込み上げてきて、それを発散できることに喜びを感じた。
転移門を潜れば、無数の的。
僕は転移門に突っ込んだ。
一瞬の空間の捻れを感じた後、僕は別世界に転移していた。
転移した瞬間、僕は魔法を起動した。
世界にいる全ての悪魔を滅ぼせるであろう大魔法。
魔法の構築中、今から滅ぼす世界を少し見てみた。
目の前には、バシレイアと大差ない街が拡がっていた。
ただ、そこの住民は、皆悪魔だった。
悪魔達の顔には、平凡な幸せを感じられた。
子供連れの悪魔、男女で寄り添う悪魔、皆、幸せそうだった。
僕の中で、悪魔という概念が揺らいだ。
急に初めて悪魔と戦った時を思い出した。
今から僕は、あの時の悪魔のようになる。
直接関係のない人を殺す。
自分より弱い人を屠る。
自分の目的の為に人を犠牲にする。
魔法を起動して数秒後、僕の存在を発見した悪魔軍が僕を攻撃しに飛んできた。
ありがたかった。それがなくては、僕は魔法を消してしまいそうだった。
目に涙が浮いてきた。
今までに出したことの無い涙だった。
悲しい、寂しい、もう人間には戻れない、恐怖。
魔法の構築が完了した。
悪魔軍はもう少しで僕に届きそうだ。
僕に気づいた街を逃げゆく悪魔の子供は僕を怯えた目で見つめた。
「ネメシス」
威力は計算通りだった。
僕に届きかけていた悪魔軍は途端に消えた。
僕を怯えた目で見つめていた悪魔の子供は涙とともに消え去った。
その世界から悪魔が消えた。
喜ぶべき成果を前に、僕は辛さで意識を失った。
宙から堕ちた神は、誰も居ない世界に倒れた。
師匠の家の前まで帰ってきた。
悪魔の世界を見回ってはみたものの、ハネストを助ける方法も、ヘレナも、見つからなかった。
師匠の家に入ろうとした時、僕の体が硬直した。
体に異常があった訳では無い。
心の中の僕が、今の僕が師匠と関わることを引き止めた。
今の僕は、もうシュッツ・カリタスの弟子には相応しくないように思えた。
家の中の机に手紙を置き、僕は静かに家を出た。
誰もいない暗い森に、ただ一人で歩き出した。
この世界を楽しむのは、まだお預けかな。
『前略、シュッツ・カリタス様
この度、私ヘルフェン・カリタスは、悪魔の住む世界の一つを滅ぼしました。
私に敵意のない相手も、私を攻撃しようとしていない相手も、皆殺しました。
死神としては喜ぶべきことなのかもしれません。
しかし、私は喜べませんでした。
師匠に合わせる顔がありませんでした。
相手が悪魔とはいえ、私がやったことはただの虐殺行為。
私は、守護神としても、師匠の弟子としても、未だに相応しくありません。
なので、私はもう一度修行したいと思います。
もちろん、守護神に課せられる仕事はこなすつもりです。
師匠には当分の間顔を見せることが出来ないと思いますが、どうか御自分の体を大切にしてください。
あなたを大切に思う者、ヘルフェン・カリタスより』
8月後半、毎日投稿最終日!まだ無名のこの作品を読んで頂き、ありがとうございます!
これからも頻度は落ちると思いますが、一生懸命頑張ろうと思いますので、お付き合いお願いします!
次話は、9月7日18時に投稿する予定です!
(変更する可能性あり!予定より遅れることはありません!18時に更新することは変わらないので、ちょこちょこ確認していただけると幸いです!9月7日より前に投稿したとしても、9月7日には必ず最新話を投稿します!このような感じでやって行こうと思っていますので、何卒よろしくお願いします!)
Xなどでも活動報告をする予定なので、そちらも見ていただければ嬉しいです!
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文章の長さなどに関しては、物語の進みに任せていますので、ご了承下さい。