最悪
魔王を倒すと、地面が少し揺れた。
「まだ何かあるのかな」
そろそろハネスト達が心配なんだけど...
意識会話しとくか。
あれ?繋がらない。
遠すぎたら使えないとかあったっけ。
まあいい、早く帰れば済む話だ。
その時、急に地面に穴が空き、そこから先程倒した魔王と同じ見た目の者が出てきた。
「あなたは先程倒したはずでは?」
「あれは私を模した人形だ」
「魔法耐性が強固な代わりに、物理耐性が低い」
「私が同じようにやられると思うなよ」
「そうですか」
「あなたに魔法は効くんですかね」
「貴様が動く前に私の攻撃が貴様を葬っているだろう」
この人は先程の戦闘を見ていなかったのか、それともデスボルトを超える速さを持っているのか。
「私の中で最上級の魔法」
「シャドーブレイク」
「え...」
確かに、シャドーブレイクは闇属性魔法の中でも上位の火力を誇る。
でも、攻撃速度が遅くて相手によっては避けられてしまう難しい魔法。
さっきの速さの話はどうなったんだろう...
「なんだ?このレベルの魔法を見た事がないのか?」
シャドーブレイク相手なら出来るかな。
「マジックキャンセル」
目の前に構築されていたシャドーブレイクが崩壊した。
「なんだ今の魔法は!?」
マジックキャンセル、自分の能力よりも格下の魔法を消すことが出来る。
「そんなことどうでも良いでしょう」
「デスボルト」
再び魔王の首が落ちた。
「やっぱりパッとしないなぁ」
「そうだ、早く帰らないと」
先程から何度かハネストとの意識会話を試みたが、未だに出来ずにいた。
帰ったら遠距離でも会話出来る魔法を考えよう。
高速で飛んでいると、二人を残した木を見つけた。
はぁ、やっと帰れる。
ハネストが死んでいた。
元から白い肌をしていたが、亡くなった彼女の肌は青白かった。いつも笑っていた顔は、静かに目を閉じていた。
その場には、ハネストしか居なかった。
周りにはハネストでもヘレナでもない禍々しい悪魔の魔力が流れていた。
ヘレナを誘拐したのだろうか。
ヘレナは元悪魔軍隊長、悪魔が迎えに来てもおかしくない。
予想出来た。予防出来た。
僕の失敗。
それでハネストが死んだ。
ヘレナが連れ去られた。
僕だけが、呆然とここに立っている。
なんで僕だけが。
なんでハネストが。
なんでヘレナが。
悪魔だ。
悪魔を殺ろう。
ハネストを殺した悪魔を。
ヘレナを連れ去った悪魔を。
僕を絶望の淵に落とした悪魔を。
ハネストの遺体は、とりあえず収納魔法で保護した。
そうだ、師匠に会おう。
あの人ならハネストを生き返らせられるかもしれない。
瞬間移動で師匠に会うことはないと思っていた。
運命は分からないものだ。
久しぶりの師匠の家は、やはり落ち着くものがあった。
すると、家の扉が開き、師匠が出てきた。
師匠の姿は何も変わらない。
僕を救ってくれた時のままだった。
「ヘルンか!久しぶりだな!」
走って抱きついてくる師匠には、ハネストと似たものが感じられた。
「元気にしてたか?」
「はい」
「お前の話は色々聞いてるぞ!よく頑張ってるな」
「師匠」
「お、なんだ?」
「師匠は、人を生き返らせられますか?」
「え...」
「僕の仲間、親友が悪魔に殺されたんです」
「遺体は収納魔法で保護しました」
「なるほどな」
「生き返らせられないこともない」
「本当ですか!?」
「あぁ、ただ、その子の魂がまだ身体に残っているかどうかによる」
「それを判別する方法は無い」
「もし、魂が残っていたら、助けられるんですか?」
「それもそう簡単では無い」
「一度止まった細胞を生き返らせなければならないからな」
「それは私にも出来ない」
「僕、悪魔の巣を潰します」
「悪魔には蘇生の魔法があるという話がありましたよね」
「巣を叩けば、何か掴めるかもしれない」
「おい、そう焦るな」
「収納魔法で保護したなら、これから魂が逃げることは無い」
「勢いに任せて突っ込めば、お前でもやられるかもしれんぞ」
師匠は僕のことを思って止めてくれている。
でも、その声は僕の心には届いていなかった。
僕の意識は、僕から大切な人を奪った悪魔を殺すことしか考えていなかった。
「行ってきます」
「おい、ヘルン!」
「僕は行きますよ」
「分かった、分かったから」
「一つだけ聞け」
「なんですか」
「困った時はいつでも私を頼るんだぞ」
「わかりました」
「行ってきます」
「あぁ、悪魔どもをぶっ潰してこい!」
悪魔の巣。
メガロス帝国での祝祭の前日、イレーネ王国に来た魔物の群れとミスリルゴーレムのことを調べていたら見つけた、悪魔が無数に住まう隠れ家。
神の世界、バシレイアにそんな場所があることに驚いたが、準備をしてから潰そうと、とりあえず見逃していた。
だけど、もう、許さない。
相手から先に攻撃したんだ。
殺されても文句はないだろう。
悪魔の巣に向かう前に、開けた草原に来た。
流石にこのまま突っ込む訳にはいかない。
大量の悪魔を一気に葬れる魔法を開発する。
属性は炎属性と死神固有属性の二択。
二つを合わせたデスインフェルノは、確かに多くの悪魔を倒せたが、今回の数にも対応出来るだろうか。
あの時はほとんどが初級悪魔だったが、今回は上級悪魔も数多くいる。
もっと強く、もっと速く、もっと大きく。
魔法は出来た。
後は悪魔の巣向かってぶつけるだけだ。
今僕は、初めてとてつもなく興奮している。
ハネストを殺し、ヘレナを連れ去った悪魔を屠る。
僕の脳内はその事に囚われ、その他のことは何も考えていなかった。
悪魔は、残さず僕が殺る。
次話は9月31日18時に投稿します!
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(物語の繋がりに任せて書いているので、今回は少し短めになりました、次話をお楽しみにしていてください!)