魔王
「魔王を倒してって、どういうことですか?」
「魔王は、サスティナ王国から南の方向に突如現れた勢力です」
「度々こちらに魔物の集団や魔法で造られた兵を送ってきていて、もうすぐ押し切られてしまいそうなのです」
イレーネに来た魔物の群れとミスリルゴーレムも魔王が送っていたのかもしれないな。
いや、でも、森と魔王の居場所は方向が違う。
「なるほどですね...」
それにしても、魔王とはなんだろうか。
異常の一種か、悪魔の仲間なのか。
確か、各世界で起こる異常は悪魔が起こしているという説があった。
悪魔が魔王を生み出したという可能性もある。
ならば、それを解決するのは、守護神である僕の仕事だ。
「分かりました、私が魔王を排除します」
「守護神ですしね」
「ありがとうございます、守護神様」
「助力出来ることがございましたら、なんなりと御命令下さい」
ハネストとヘレナを保護してもらおうか...
魔王がどんな戦い方をするかわからない。連れていくのは心配だ。
でも、ヘレナを置いていくのはまだ少々不安が残る。
「今のところは大丈夫です、何かあれば言いますね」
「かしこまりました、よろしくお願いします」
「では、宿を探すのでそろそろ失礼します」
「分かりました、お見送りますね」
「ありがとうございます」
街へ戻ると、どっと疲れが来た。
「魔王討伐って...しんどいなぁ」
「ま、魔王って倒せるの!?」
「多分倒せなくはないと思うけど...二人を連れていくのは心配だな...」
「怖いなのです」
どうしたものか...
ハネストとの意識会話を試みる。
「ハネスト、聞こえる?口に出さずに、言いたいことを想像してみて」
「え、聞こえるけど、どうなってるの?」
「それについてはまた今度説明するから」
「ハネストに聞きたいことがあるんだ」
「わかった、何?」
「魔王と戦う時、僕は二人の保護まで意識を回すことが出来なくなるかもしれない」
「その時、ヘレナを守りながら隠れることは出来る?」
「出来ると思うよ」
「よし、流石ハネスト」
「もしかすると、魔王の影響でヘレナが悪魔化するかもしれない」
「その時は、すぐにこの意識会話で僕に伝えて逃げてね」
「分かった」
もしヘレナが悪魔化した時、ハネストは危険にさらされる。
でも、サスティナ王国内で悪魔化するよりはマシだ。
後は幸運を願うしかない。
意識会話を終わらせると、適当に見つけた宿で二部屋取り、僕の部屋に二人を呼んだ。
「魔王との戦いについてだけど」
「準備することも特に無いし、明日出発することにしたいと思う」
「分かった」
「分かったなのです」
「移動時間については、気にしなくて大丈夫」
「そうだね」
「ヘレナは、ハネストと一緒に安全な場所に隠れておいて」
「分かったなのです」
「後、万が一、僕が帰ってこなかった時は、どんな方法を使ってもそれを伝えるから、全力で逃げてね」
「そんな...」
「大丈夫、僕は死神だ」
「僕に傷を負わせることが出来る存在がそもそも少ない」
「魔王の攻撃がもし僕に無効だったら、まず負けは無い」
「なるほど...」
「明日は早い、そろそろ寝よう」
「わかった」
「分かったなのです」
「じゃあ行こっか、ヘレナちゃん」
「はいなのです」
二人が部屋を出た後、ゆっくりとベッドに寝そべった。
次から次に起きる異常。バシレイアは神王勢力の重要拠点。守り切らなければ...
その日、僕は久しぶりに深い眠りについた。
いつも通りの強い日差しの中、僕らはサスティナ王国の門へ向かっていた。
「もう門にはいい思い出はないんだよな...」
「確かにね...」
「なのです...」
まあ当然普通に通過し、少しほっとした後、例の超速馬車を創造した。
「じゃあ、行こうか」
三人を乗せた馬車は、瞬きの速さで魔王城の見える位置まで来た。
「この辺りで降りてもらおうかな」
二人を木の影に降ろすと、どうしても心配だったので護衛を召喚した。
召喚魔法の中でも最強格の存在、シャドーナイト。
中堅の悪魔くらいなら持ちこたえることが出来る程度の力を持つ。
「この二人を守れ」
シャドーナイトは喋ることはせず、片膝をついて頭を下げた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ヘルン、絶対戻ってきてね!」
「気をつけてなのです」
「うん、必ず戻ってくるよ」
魔王城がよく見える位置まで飛んで来た。
突撃する前に城を壊しておくか
「デスサイズ」
さて、何の魔法を使ったものか。
いっその事城を粉々にしてしまおう。
「デスミティオライト」
空から黒い魔力で出来た巨大な隕石を落とす魔法。
これで魔王も一緒に倒せないかな。
魔法が直撃した時、城にかけられていた防御魔法を突破し、魔王城はただの瓦礫と化した。
「さて、どうなったのかな」
魔王城の近くまで飛んでいくと、急に莫大な魔力を感じた。
どうやら魔王は先程の攻撃を耐えたようだ。
「そう簡単にはいかないよなぁ」
その時、僕の方向に飛んできた魔法が僕の頬を掠め、僕の頬を傷つけた。
「ちっ、魔王も僕にダメージを与えられるのか」
僕に怪我を負わせられるということは、魔王はやはり悪魔に作られたのだろうか。
どちらにしろ、気を抜いてはいられない。
相手が僕を攻撃する前に倒す。
魔力察知の魔法を使うと、魔王の位置が掴めた。
そこを見ると、魔王は大きな椅子に座り、その周囲だけは建物が崩れていなかった。
「急な攻撃にも反応したのか」
厄介な敵なようだ。
死神属性魔法の中で現時点最速の魔法、デスボルトで相手が反応する前に殺る。
「デスボルト」
その速度は光速に近い、反応などしようのない速さだった。
そのはずだった。
僕の大鎌は、魔王の防御魔法に勢いを止められていた。
これを止めるだと!?
「貴様、人間では無いな」
「そうか、お前がこの世界の守護神か」
「こいつが悪魔王様の敵」
「つまり、私の敵」
「あなたは悪魔に作られたんですか?」
「そうだな」
「なら、僕はあなたを倒します」
「おぉ、良いでは無いか、私も退屈していたところだ」
「かかってこい、守護神」
「言われなくてもやりますよ!」
物量でごり押す。
「デスインフェルノ!」
「ヘルフレイム!」
「アクアバースト!」
「フレイムサイクロン!」
普通なら一つ一つが国を滅ぼすことも可能な魔法が、魔王には全て効かなかった。
どういうことなんだ。
悪魔が作ったのに上級悪魔より強いなんて。
「なかなかやるではないか」
「守護神というのは強いのだな」
「だが、私には魔法は効かん」
「残念だったな」
「え...」
魔法はって言った?
つまり、物理攻撃は効くってことか?
でもそんなに簡単に自分の弱点を言うのかな。
とりあえずやってみるか。
「デスソード」
死神の剣。魔力で作られてはいるが、攻撃は物理攻撃となる。
剣を振りかぶり、魔王に切りかかった。
切れた。
「え...」
「な、物理攻撃も出来たのか!?」
えぇ...なんで魔法耐性あんなに強いのに物理耐性はこんなに低いんだろう。
まあいい。決着をつけよう。
「あなたは、首を切り飛ばせば死にますか?」
「や、やめろ」
魔王城の瓦礫の上に、魔王の血が飛び散った。
なんだか、パッとしないなぁ。
その時、地面が少し揺れた。
え...
次話は、2025年8月30日18時に投稿します!
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